しこりができたり、ひきつれがあったり、痛みがあるなど、乳房の異常はほうっておいてはいけない悩みです。思い当たる点があったら、すぐ乳腺外科もしくは乳腺科を受診するようにしましょう。受診先は婦人科がよいのでは、と思われがちですが、婦人科医で乳腺も診られる専門医はまだあまり多くありません。
「乳房が張る」のは、月経前であれば女性ホルモンの影響のため、とくに病気の心配はありません。しかし、ふだんと違う以下のような症状があらわれた場合には、病気の疑いがあります。すぐに乳腺外科・乳腺科を受診しましょう。
□しこりがある →乳がん →乳腺症 →乳腺線維腺腫
□乳房がへこんでいる、ひきつる →乳がん
□授乳中、乳房が腫れて痛い →乳腺炎
□透明な分泌液が出る →乳腺症
□分泌液に血や膿が混ざっている →乳がん →乳腺症 →乳腺炎
□白いもの(乳汁)が出る →高プロラクチン血症
[乳がん]
次項「乳がんのこと、どれくらい知ってる?」をご参照ください。
[乳腺症]
●特徴と原因
乳腺にできる良性の腫れ。30~40代に多く、とくに月経周期が不規則だったり、無排卵性月経の人、出産経験のない人に多く見られます。原因は女性ホルモンのバランスのくずれにより、乳房分泌組織が増殖を起こすのではないかと考えられています。
●症状
乳腺全体が張ったようなしこりとなり、鈍い痛みをともないます。乳頭から透明な分泌物や血性の分泌物が出ることもあります。ほかの病気と見分けるため、医師に診察してもらいましょう。
●治療
原則的に治療の必要はありません。規則正しい生活をすることを心がけましょう。痛みは、かたいカップのブラジャーで乳房を固定して和らげる方法があります。痛みが激しい場合は、男性ホルモンや黄体ホルモンを投与することもあります。
[乳腺線維腺腫]
●特徴と原因
乳腺にできる良性の腫瘍。20~30代半ばの女性に多く、原因は解明されていません。
●症状
丸くてかたいしこりが1個できます。痛みがなく、コリコリと動きます。乳がんと見分けるため、医師の診断が必要です。
●治療
しこりが小さいなら治療の必要はありません。大きくなったら手術で切除しますが、通院ですむ簡単な手術です。
[乳腺炎]
●特徴と原因
乳腺とその周辺の炎症。主に授乳中に、乳頭から細菌に感染して起こります。
●症状
授乳時に痛みをともないますが、授乳をやめると乳汁がたまってしまい痛みはさらに強くなります。発赤や発熱をともなったり、膿のかたまりが出ることも。
●治療
医師の診断のもと早めに抗生物質を使うこと。乳汁がたまっているときはマッサージや吸引、場合によっては切開して取り除きます。
[高プロラクチン血症]
●特徴と原因
プロラクチンという乳汁を出すホルモンが分泌され、出産していないのに母乳が出る病気。特定の薬(精神、神経症状に効果を持つ薬の一部や、降圧剤の一部、胃腸薬の一部)を常用している人や、脳の下垂体に腫瘍がある人に見られます。
●症状
出産していないのに乳汁が出ることがあります。なかには月経不順や無月経になる人もいます。
●治療
下垂体に腫瘍がある場合は、脳外科で手術をしたり、薬でプロラクチン値を抑えます。
乳がんは乳腺にできるがんで、子宮がん、胃がんに続いて、現代の女性に多いがんです。40代の女性の発症率が高いといわれていますが、20代でもまれに発症します。早期発見のために毎月1回のセルフチェックをぜひ習慣にし、おかしいなと思ったらすぐに乳腺外科・乳腺科を受診してください。また、40歳を過ぎたら乳がん検診を受けてください。
[おもな症状]
以下のような症状は、自分で見たり、触る「セルフチェック」でも確認できます。気がついたらすぐ乳腺外科か乳腺科で検査をしてもらいましょう。
●乳房にかたくて動かないしこりがある
●乳房がへこんでいる
●乳房がひきつっている
●乳首から血の混じった分泌液が出る
[乳がんの危険度チェック]
現在異常がなくても、以下の項目に該当する人は発がん率が高いといわれていますので、セルフチェックを積極的に行いましょう。また、該当項目がゼロだからといって、乳がんになる確率もゼロというわけではありません。
●12歳以前に初経を迎えた。
●出産、授乳経験がない。
●動物性脂肪やたんぱく質の多い食事をしている。
●血縁者に乳がんにかかった人がいる
●以前、乳腺の病気にかかったことがある。
●何回も良性のしこりができたことがある。
乳がんの治療には、手術、放射線療法、薬物療法(ホルモン剤や抗がん剤)などがあります。
手術は大きく分けて乳腺の一部だけを切除する乳房温存術と、乳腺をすべて切除する乳房切除術があります。
がんが大きく根治できない場合などは、薬物療法を術前に行い、がんを小さくしてから手術を行う方法もあります。
乳房切除後の変形に対しては乳房再建も有意義です。乳房再建では、インプラントや自分のおなかの脂肪などを使って、乳房のふくらみをつくります。
手術以外の放射線療法、薬物療法は、がんの性質や大きさ等の病状により選択します。温存術の場合、がんの取り残しや多発による再発の危険性があるため、放射線照射を併用し、再発のリスクを減少させます。また、温存術、切除術ともに再発リスクが高い場合は、術後補助療法として約6カ月間の薬物療法を行います。
セルフチェックは乳がんだけでなく、乳房の異常を調べる簡単な方法。乳房が張っている月経前や月経中をさけ、月経後4~5日後に毎月チェックする習慣をつけましょう。
(1)目でチェック
両手を上げ下げし、形や大きさの変化、へこみやひきつれがないかを見る。
(2)仰向けになってチェック
チェックしたい乳房と反対側の手の指をそろえ、指の腹で乳房の中心から周辺にかけて触る。しこりがないかをチェック。このとき、鎖骨の周囲も触っておくといい。
(3)わきの下をチェック
わきの下に指先を入れ、しこりがないかをチェック。
(4)乳頭をチェック
乳頭をつまんで血が混ざった分泌物が出ないかを見る。
病気ではなくても、「普通と違う?」と悩む人は多いようです。でも、乳房が一人ひとり違うのはあたりまえのこと。
[左右の大きさが違う]
心臓の鼓動の刺激を受けて左側が大きくなるとも考えられています。
[乳頭がへこんでいる]
乳頭が乳房に引き込まれ内側に入り込んでいる状態です。授乳時には保護器をかぶせるなどでフォローできます。
[乳頭、乳輪の色が黒ずんでいる]
女性ホルモンにより、色は濃くなるものです。とくに思春期や妊娠中などは目立ちます。
乳房はほとんどが脂肪でできています。脂肪の役割は、乳汁をつくる乳腺という器官を守るためです。大きさに個人差があるのは、脂肪の量や乳腺の密度が違うため。乳房の機能には大きさや形は関係ありません。
[成長のサイン]
思春期に胸にしこりができたり、痛くなった経験がありますね。これは卵胞ホルモン(エストロゲン)の作用です。平らだった乳頭が出てきて、乳房の中では乳腺が発達し、乳腺のまわりに脂肪がついていきます。
[妊娠すると…]
妊娠すると乳房が急に大きくなります。また、月経前のように乳房が張ったり、痛みをともないます。このような変化は卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌量が急増するため。そして出産すると卵胞ホルモンと黄体ホルモンは消え、かわりに乳汁の分泌をうながす催乳ホルモン(プロラクチン)が分泌されます。こうして授乳ができるようになります。
乳房のしくみ
監修/東京大学病院 秋野なな先生