A.卵巣の病気は急性の卵巣炎などでないかぎり、ほとんど自覚症状がありません。病気が進行して、腫瘍がかなり大きくなって、はじめて異変を感じるというのがほとんどです。
卵巣はもともとウズラの卵ほどの大きさ。腫瘍がこぶしほどの大きさになると、周囲の臓器や血管を圧迫して、便秘や頻尿、下腹部痛などが起こります。また、腫瘍が大きくなると、わき腹などにしこりを見つけることも。ぽっこりとおなかだけがふくらんでくる、というのも症状のひとつです。
いつもおなかが張っている感じがしたり、腰痛が治らないなどの不快感、違和感がある場合も、卵巣の病気が考えられます。
卵巣の病気で強い症状が出るのは、急性の卵管炎、卵巣炎、あるいは腫瘍がおなかの中で回転してしまって起こる茎捻転(けいねんてん)の場合。激しい腹痛や嘔吐、40度もの高熱を出すなどの症状が起こります。とくに茎捻転の場合、ひどいときには意識不明の重体になることも。盲腸や腹膜炎だと思って病院に運び込まれてから、卵巣の病気が発覚するということも珍しくありません。
また、悪性の腫瘍の場合は、進行すると腹水がたまり、膨満感や不正出血、おりものの量が異常に増えるなどの症状も起こります。
A.本当です。といっても、それは卵巣嚢腫(のうしゅ)の中の「皮様(ひよう)嚢腫」という特異な腫瘍に見られるもの。嚢腫の中にドロドロとした脂肪分に混じって髪の毛や歯、筋肉などが含まれていることがあります。
原因は不明ですが、卵子と卵子の自家受精ではないかと言われています。
A.卵巣は腎臓と同じように、左右に一つずつあります。片方の卵巣を摘出しても、もう片方の卵巣が正常に残されていれば妊娠が可能です。
でも、卵巣が一つになったら、「妊娠の可能性が半分になるのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。残ったほうの卵巣がしっかり働いてくれるので、月経や妊娠の可能性は二つあったときと変わらないのです。
また、たとえ残ったほうの卵巣を摘出することになった場合でも、病巣部分だけを取り除き、卵巣の一部を残す手術をすれば、妊娠の可能性があります。
両方の卵巣を全部摘出してしまった場合は、卵子のもととなる原始卵胞がなくなってしまうため、妊娠はできなくなります。
A.卵巣は2つあるので、1つだけを摘出しても、その働きは変わりません。でも、卵巣を2つとも摘出してしまった場合は、卵巣から分泌されていた女性ホルモンがストップしてしまうため、ホルモンバランスがくずれることになります。
そのため、ちょうど更年期障害のような症状があらわれることがあります。のぼせや発汗、動悸などのほか、イライラしたり、ウツ状態になったりするなど、人によってその症状はさまざまです。
A.あります。卵巣がんは、もともと欧米人に多いがんと言われてきましたが、日本人女性の間でも増加しています。
多く見られるのは40~60代ですが、ほかのがんと違って、10代から70代以上の高齢の女性まで幅広く発生するという点が、卵巣がんのひとつの特徴にもなっています。婦人科で子宮がん検診を受ける際に、一緒に卵巣もチェックしてもらうといいでしょう。
子宮の両わきに、卵管に支えられるようにあるのが卵巣。1つの卵巣の重さは約5~15gほどで、ちょうどウズラの卵のような楕円形をしています。
卵巣には、卵子のもとである原始卵胞が数百万個もストックされています。思春期になると原始卵胞は成熟卵胞となって、1カ月に1個ずつ(まれに数個)卵子を排出します。これが、排卵です。
排卵は、卵巣の重要な働きのひとつ。左右の卵巣から交互に排卵されることが多いのですが、片方から続けて排卵されることもあります。女性の生涯の中で、数百万個もの原始卵胞のうち成熟卵胞になるのは、せいぜい400~500個といわれています。
卵巣のもうひとつの大切な働きが、女性ホルモンの分泌。女性ホルモンは思春期から分泌が始まり、女性らしいからだをつくり、血管や骨、肌などの臓器の健康を守るほか、排卵や月経、妊娠など、女性特有の現象に深く関わっています。それだけに、女性にとって卵巣はとても大切な器官なのです。
知っておきたい主な卵巣の病気について、特徴や原因、治療などをまとめました。
◆特徴と原因
卵巣炎は、それ単体で起こる病気というより、卵巣に続く卵管が炎症を起こしたときに併発する病気です。
女性器官の中でも、もっとも炎症を起こしやすいのが、卵管。卵管は細菌に対する抵抗力が非常に弱いため、炎症が起こりやすいのです。
卵管に炎症が起こると、つながっている卵巣にまで炎症が拡大してしまうことが少なくありません。卵管・卵巣がともに炎症を起こした状態を総称して「子宮付属器炎」と呼んでいます。
炎症の原因は、大腸菌や淋菌、クラミジアなどの細菌。人工妊娠中絶や流産、出産時、避妊器具やタンポンなどの生理用品を長時間放置するなどによって、卵管に細菌が入り込んできます。慢性化すると、周囲の器官とくっついてしまったり(癒着)、卵管が狭くなる、ふさがるなどして不妊症の原因にもなってしまいます。
◆症状
まず、ひどい自覚症状のある急性期があります。下腹部などが痛み、40度近い高熱が出ることもあります。さらに炎症が進行すると、吐き気や嘔吐、不正出血やおりものの増加なども見られます。
炎症が治まっても、慢性化してしまうことがあります。炎症部分がほかの臓器と癒着することで、月経痛、腹痛、腰痛などが起こったり、夕方からだるい、微熱が出るなどの症状が出ることもあります。
◆治療
急性期にきちんと治療を行うことが大切。抗生物質や消炎剤などの薬で炎症を鎮めます。
慢性化してしまい、腹痛やしこりなどが残ってしまった場合には、炎症部分を手術で切開し膿をとるなどの処置が必要になることもあります。
◆特徴と原因
卵巣は、とても腫瘍のできやすい器官といわれています。卵巣にできる腫瘍は、卵巣嚢腫(のうしゅ)と充実性腫瘍の大きく2つに分けることができます。
卵巣嚢腫は、腫瘍の中に液体状のものがたまっている腫瘍で、良性のものが多く、卵巣腫瘍の約90%がこのタイプです。一方、充実性腫瘍はかたいコブ状のかたまりで、その70~80%が悪性(がん)といわれています。卵巣嚢腫、充実性腫瘍ともに、良性、悪性、その間の中間群(境界悪性腫瘍)があり、悪性のものを卵巣がんと呼んでいます。
卵巣嚢腫の種類
卵巣嚢腫は、腫瘍の内容によって次の4つのタイプに分けられます。
1.皮様嚢腫(ひようのうしゅ)
腫瘍の中に、髪の毛や歯、目、筋肉、骨などが含まれた粥状の脂肪が入っています。卵巣腫瘍全体の約10%に見られます。ほとんどが良性腫瘍ですが、まれに悪性のものが混ざっていることもあります。
2.チョコレート嚢腫
卵巣に、子宮内膜またはそれに似た組織が何らかの原因で発生し、月経周期に合わせて増殖する病気です。血液が排出されずに周囲の組織と癒着を起こして痛みをもたらしたり、過多月経になったりします。不妊症の原因にもなります。また、大きさが5㎝程度以上になるとがん化する恐れもあります。
3.漿液性嚢腫(しょうえきせいのうしゅ)
腫瘍の中に黄褐色の液体が入っているもので、卵巣嚢腫の中でももっとも多いタイプ。嚢腫の袋が一つの場合と、複数の袋からなる嚢腫とに分かれ、複数の場合、後に悪性に変化することもあります。
4.偽ムチン嚢腫(ぎムチンのうしゅ)
漿液性嚢腫の次に多いタイプ。腫瘍の中に粘液状の液体が詰まっているものです。人間のからだの中にできる腫瘍の中でももっとも大きくなり、時には人間の頭ほどの大きさになることも。嚢腫が破れて、粘液が腹腔内に広がってしまう場合もあります。
◆症状
卵巣嚢腫、充実性腫瘍ともに腫瘍が小さいうちはまったく自覚症状が出ないのが、特徴です。
自覚症状があらわれるのは、腫瘍の大きさがにぎりこぶし大ほどになったころからです。
腫瘍がほかの臓器を圧迫するので、腹部の膨満感や腰痛などが起こります。さらに進行していくと、便秘になったり頻尿になったりします。また、腹部にしこりを感じたり、体重が増えたわけでもないのにおなかだけがぽっこりとふくらむことも。不正出血や水っぽいおりものの量が増えるなどの症状が出ることもあります。
さらに、嚢腫が大きくなった場合、茎捻転(けいねんてん)といって、腫瘍がおなかの中でぐるりと回転してしまうことがあります。卵管や靭帯がねじれ、激しい吐き気、嘔吐を伴う腹痛が起こり、時には意識不明に陥ることも。早急に手術を受ける必要があります。
なお、かたいコブ状の腫瘍が特徴の充実性腫瘍の場合、こぶし大の大きさになると、おなかに触るとしこりを感じることがあります。月経時以外の不正出血や月経痛のような痛み、腰痛などの自覚症状もあらわれます。
◆治療
良性腫瘍で、それほど大きくない場合は、定期的に検査をして経過を見ます。大きくなり茎捻転を起こす恐れがあるなど、重症化した場合は手術をするのが一般的です。
手術は、良性腫瘍では多くの場合、腹腔鏡を使って病巣部分だけを摘出します。ただし、腫瘍が大きく、また周囲の臓器との癒着が激しいような場合は、卵巣を摘出することが多くなります。
また、境界悪性、悪性の可能性がある場合には、卵巣だけでなく、卵管や子宮を含めて摘出する手術が行われます。境界悪性の場合は悪性よりも予後はよく、多くの場合、手術のみで完治が可能です。悪性の場合は手術後に進行期を確認し、抗がん剤を用いた薬物療法を行います。(次項「卵巣がん」も参照)
なお、卵巣は左右一対からなる器官なので、片方だけを摘出しても、もう片方が正常であれば、妊娠することも可能です。
◆特徴と原因
卵巣がんは自覚症状がほとんどないので、発見が遅れてしまいがちです。そのため、残念ながら死亡率の高いがんのひとつとなっています。
卵巣がんには、大きく原発性と転移性の2つがあります。原発性とは、卵巣そのものに発症するがんで、卵巣がんの約80%は、この原発性です。
転移性とは、ほかの臓器のがんが転移したもの。乳がんや胃がんから転移するケースが多く見られます。卵巣はがんが転移しやすい臓器でもあるのです。
もっとも多く発症するのは40~60代ですが、10代から閉経後の高齢まで幅広い年代に起こります。
卵巣がんの原因ははっきりわかっていませんが、次のようなケースでは発生率が高いといわれています。
●妊娠、出産経験が少ない人
●不妊の人
●更年期以降の人
●肥満、糖尿病、高脂血症の人
●血縁者に乳がんの人が多い家族性乳がんのリスクが高い人
◆症状
卵巣嚢腫(のうしゅ)などと同様、腫瘍が小さいうちは自覚症状がまったくありません。おなかがふくれてきた、便秘や頻尿になるなどの自覚症状が出てきたときには、かなり進行しています。
卵巣がんは、子宮がんのように細胞検査ができないため、発見が遅れやすいものです。進行が進み腫瘍が大きくなると、しこりができたり、茎捻転(けいねんてん)などを起こす場合もあります。
卵巣嚢腫にはなく、卵巣がん特有の症状としては、腹水がたまっておなかがふくらんでくることがあげられます。
◆治療
卵巣がんと認められた場合、手術を行うことになります。ごく初期の段階で発見された場合に限って、がんに冒された卵巣だけを摘出する手術をすることもありますが、ほとんどの場合は両方の卵巣と子宮をすべて摘出するのが基本です。手術と併せて、薬物療法や放射線療法を行うこともあります。何種類かの抗がん剤を組み合わせて治療することで、治療率が飛躍的によくなっています。
発見が難しいがんですが、子宮がん検診の際、卵巣もチェックしてもらうようにすれば、早期発見できる場合もあります。子宮と卵巣は、セットで定期的に検査を受けるようにしましょう。
監修/東京大学病院 秋野なな先生