専門医監修
多くの女性が悩む「尿もれ」の 基礎知識をお伝えします!
監修女性泌尿器科医師・佐藤亜耶先生
(自由が丘ウロケアクリニック院長)
くしゃみをしたときなど、ちょっとした拍子におこる軽い尿もれ。下着がぬれるのは不快だし、ニオイも気になりますよね。ひとりで悩んでいる方も少なくないですが、実は、症状が軽いうちに対処すれば、尿もれは改善が期待できます。原因と対策を知って、快適に過ごしましょう。
花王が40代以上の女性を対象に行ったアンケートでは、半数近くの女性に尿もれの経験がありました。尿道の長さが短い女性は、もともと尿もれをしやすいと言え、尿もれは決してめずらしいことではないのです。
アンケートで「尿もれ経験あり」と答えた人の中には、現在は尿もれ症状がない人も含まれています。しかし、一度経験したことのある人は加齢とともに再び尿もれ症状が出てくるリスクがあります。
40〜70代女性1,370人 2021年5月 花王調べ
尿もれの理由を知るためには、まず排尿のしくみを理解することが必要です。
尿をためておく膀胱の容量は500ml程度ですが、約6割(250~300ml)の尿がたまると、人は尿意を覚えます。しかし、尿意を感じたからといってすぐに尿が出てしまうわけではありません。通常は、トイレに行って排尿の準備が整ってから、脳から「尿を出すように」という指令が出されます。すると、膀胱が縮むと同時に尿道がゆるんで開き、尿が排出されます。
膀胱に尿がたまっても、もらさずにいられるのは、尿道のまわりにある尿道括約筋や骨盤底筋という筋肉が縮んで、尿道をぎゅっと締めているからです。
ここで、注目したいのが、骨盤底筋です。骨盤底筋は、骨盤の底にある複数の筋肉の総称です。これらの筋肉はハンモックのような形状で、膀胱・子宮・直腸が下垂しないように支えています。さらに、尿道や肛門を締めたりゆるめたりする、排尿・排便コントロールの役割も担っています。
尿もれの原因として最も多いのが、この骨盤底筋のゆるみです。骨盤底筋の働きが弱まると、尿道を締める力も弱まり、尿もれしやすくなります。
女性は、妊娠・出産、更年期(閉経の前後10年間)に骨盤底筋はゆるみやすくなります。妊娠すると分泌が増える“リラキシン”というホルモンの影響で骨盤底筋はゆるみます。
その上、出産で赤ちゃんを娩出するときに骨盤底筋が損傷することも。産後は徐々に自然修復しますが、完全には戻らないケースもあります。また、更年期で女性ホルモン“エストロゲン”の分泌が急激に減少すると筋肉量が低下し、骨盤底筋もゆるみやすくなります。
もともと女性のからだは男性と比べて尿がもれやすい構造です。
男性の尿道は約20cmでS字状なのに対し、女性の尿道は3~4cm程度で短くまっすぐ。そのため、ちょっとおなかに力を入れただけでもれてしまうことがあります。また、妊娠・出産、更年期を機に骨盤底筋がゆるみ、尿がもれやすくなるケースは少なくありません。
尿もれの主なタイプは、以下の3つです。
くしゃみをしたり、重い荷物を持ち上げたときなど、腹圧がかかったときにもれてしまいます。とくに妊娠中や出産後、更年期以降の女性に多い尿もれです。軽い症状であれば、骨盤底筋トレーニングをすることで、改善が期待できます。
どんなとき尿もれする?
突然、強い尿意が起き、トイレに行くまで我慢できずにもらしてしまいます。軽い症状であれば、骨盤底筋トレーニングで改善することも。薬で改善することもあります。
どんなとき尿もれする?
腹圧性と切迫性の両方の症状があります。骨盤底筋トレーニングや薬で改善することがあります。
女性の尿もれの約半数は腹圧性尿失禁です。次いで、混合性が約3割、切迫性が約2割というデータ※1があります。また、若い女性では腹圧性尿失禁のことが多く、高齢になるほど混合性尿失禁が多くなるようです。
※1 『女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]』
■①~⑩のみをチェックした場合
現在尿もれすることがなくても、近い将来尿もれする可能性もあります。今のうちから骨盤底筋トレーニングを習慣にすると、予防が期待できます。
■⑪~⑮をチェックした場合
⑪、⑫、⑬が当てはまる人は腹圧性尿失禁の可能性が、⑭、⑮が当てはまる人は切迫性尿失禁の可能性があります。骨盤底筋トレーニングを習慣にすると、症状の改善が期待できます。また、切迫性尿失禁の場合、薬で改善することもあります。症状が気になる場合は、泌尿器科やウロギネ外来(泌尿器科と婦人科の境界領域を診る科)に相談を。
また、尿もれの状況に合わせて吸水ライナーや吸水ナプキンなどを利用することで、不安が軽減して気持ちよく過ごせるのではないでしょうか。
■⑯⑰が1つでもある場合
腹圧性尿失禁のリスクが高いだけでなく、骨盤臓器脱の可能性も。すぐに泌尿器科やウロギネ外来を受診しましょう。治療と同時に、骨盤底筋トレーニングを習慣にすることが大切です。
すでに尿もれがある場合は、吸水ライナーや吸水ナプキンなどを利用すると、不安が軽減して気持ちよく過ごせるのではないでしょうか。
尿もれ対策①
フェムケア(Femcare)とは「女性の(Female)」と「ケア(Care)」を掛け合わせた言葉。骨盤底筋トレーニングもその1つ。尿もれの症状が軽いうちであれば、簡単なトレーニングで改善が期待できます。コツをつかんで正しく筋トレを続ければ、30~40代の場合、1カ月程度で効果を実感できる人が多いでしょう。ただし、骨盤底筋トレーニングは継続することが重要。効果が出たからといって、トレーニングをやめてしまうと、すぐ元に戻ってしまいます。毎日の習慣にしましょう。
また、骨盤底筋を鍛えるメリットは、尿もれの予防・改善だけにとどまりません。ぽっこりお腹がへこんだり、ヒップが上がる、姿勢がよくなる、自律神経が整うなど、うれしい効果が期待できます。
TRAINING
骨盤底筋を意識しながら、腟と肛門を「締める」「ゆるめる」を繰り返すのが基本型。骨盤底筋と横隔膜(肺の下にある筋肉)は連動するので、締めるときは息を吐きながら、ゆるめるときは息を吸いながら行うのがポイントです。
まずは、背筋を伸ばして、お尻や肩に力が入らないようにリラックス。息を吐きながら3秒「締める」、息を吸いながら3秒「ゆるめる」を10回繰り返す。これを1セットとして、1日に5~10セットを目標に毎日行います。
骨盤底筋トレーニングは毎日継続してこそ、効果が期待できます。立つ、座る、横になる…どの姿勢でもできるので、通勤途中や入浴時、家事の合間など、タイミングを見つけて実践しましょう。まだ尿もれ症状がない人も40代になったら毎日の習慣にするのがおすすめです。
骨盤底筋は内臓を支えている筋肉。その筋肉がゆるむということは、内臓が下のほうに降りてくるということです。この症状が悪化すると、膀胱や直腸、子宮が腟から外に出てくる骨盤臓器脱になることもあります。
「夕方になると何か下がる感覚がある」「陰部に何かが触れる感じがする」といった場合、骨盤臓器脱の可能性が。泌尿器科やウロギネ外来(泌尿器科と婦人科の境界領域を診る科)を受診してみましょう。
尿もれ対策②
軽い尿もれでも、「におうかも…」「下着がぬれて不快…」「衣類に染み出るかも…」といったストレスを感じる人は多いようです。そんな尿もれ不安を払拭するために上手に活用したいのが、吸水ライナーや吸水ナプキンといった吸水ケア用品です。
生理用ナプキンで代用しようとしても、経血と尿では成分、粘度などの性質が違い、ニオイの種類も異なります。そのため、生理には生理用、尿もれには吸水用、と使い分けましょう。
吸水ケア用品は、尿のような液体に対する吸収性能が高い素材を使用しており、尿独特のニオイを消臭する機能もあります。
\あなたにピッタリなのは?/
吸水ケア用品を上手に使うには、自分の症状に合ったライナー、ナプキンを選ぶことが大切です。吸水量や薄さ、形状などバリエーションが豊富なので、今の自分に最適なものを見つけましょう。旅行や趣味、外出時の不安もなくなりQOL(生活の質)も向上します。
ロリエでは、尿もれの症状・タイプに合わせて幅広いラインナップをご用意しています。薄いのに吸収力と消臭力に優れ、肌に優しいさらさらの使用感が、快適な日常をサポート! つけていることに気づかれず、安心してお使いいただけます。
A.特に女性は尿もれになる可能性が高いです
成人女性の半数近くが、尿もれを経験しています。とくに女性は、体の構造(尿道が短くまっすぐ)や、妊娠・出産、更年期の女性ホルモンの減少などが影響し、男性よりも尿もれになりやすいのです。決して特別なことではありません。
A.主な原因は、骨盤底筋のゆるみです
妊娠・出産、加齢などによって骨盤底筋がゆるむと、尿道を締める力が弱まり、尿もれしやすくなります。また、肥満で骨盤底筋への負荷が大きい、やせすぎ・運動不足で筋肉量が少ない、慢性の便秘で長時間いきむ、重い荷物を持って腹圧がかかるといったことも、骨盤底筋のゆるみにつながり、結果的に尿もれを招くことになります。
A.尿、経血の特徴に合わせ、吸収素材、消臭機能が違います
尿と経血では成分や粘度、量がまったく異なります。そのため、吸水ナプキンと生理用ナプキンでは、吸収の方法が異なります。吸水ナプキンは、尿のようにさらさらした液体が一度にある程度の量出る場合に、それらをしっかり受けとめて素早く吸い込む機能があります。一方、生理用ナプキンは、粘度のある経血が少しずつ出続けてデリケートゾーンの表面に広がってしまわないように、体にすき間なくフィットして吸収する機能があります。また、吸水ナプキンには、尿独特のニオイを消臭する機能があります。
A.まずはパッケージの記載を参考に試してみてください
吸水ライナー・吸水ナプキンのパッケージには、1回の尿もれ量の目安として、「5㏄/10㏄/20cc…」などの数値が記載されています。しかし、自分の尿もれ量が何㏄程度かを把握するのは誰だって難しいものです。パッケージに描かれている尿もれのレベル感を示すしずくマークや、「じわ~っと」「ぽたぽた」などもれるときの感覚でお選びいただけるので、それらも参考にしながら、選んでみてください。 最初に選んだものを試してみて、もっと吸水量が少ないタイプ、吸水量が多いタイプなど調整しながら、自分に最適な吸水ケア用品を見つけてください。
A.骨盤底筋トレーニングで改善が期待できます
尿もれの主な原因である骨盤底筋のゆるみは、毎日のトレーニングによって鍛えることができます。骨盤底筋を強化すれば、30~40代の場合、1カ月程度で効果を実感できる人もいるでしょう。また、体重増加による骨盤底筋のゆるみが原因の場合は、減量するだけで改善することもあります。
妊娠・出産がきっかけで尿もれが起きた場合は、産後、自然に改善することが多いようです。ただし、高年出産や、出産時に骨盤底筋を激しく損傷した人は、自然に治らないことも。その場合は、骨盤底筋トレーニングを習慣にすると、改善が期待できます。
骨盤底筋トレーニングを続けても改善せず、生活に支障が出る場合は、泌尿器科やウロギネ外来(泌尿器科と婦人科の境界領域を診る科)に相談を。
A.尿もれが再発する可能性は大いにあります
尿もれを経験したことがある人は、自然に改善したとしても、再び尿もれが起きる可能性は大いにあります。とくに、女性ホルモン“エストロゲン”が急激に減少する更年期は、筋肉量が減り、尿もれが起こりやすくなるとき。40代になったら、尿もれ予防のためにも骨盤底筋トレーニングを習慣にしましょう。
A.骨盤底筋がゆるんでいれば、尿もれしやすいでしょう
決して「花粉症だから、尿もれする」のではなく、「花粉症でくしゃみが増えるから、尿もれしやすくなる」のです。花粉症の時期、尿もれが増えた人は、骨盤底筋がゆるんでいる可能性があるので、骨盤底筋トレーニングを習慣にしてみましょう。尿もれの改善が期待できます。
A.ほとんどの場合、病気ではありません
20代でも、妊娠・出産、肥満、筋力低下などの理由で骨盤底筋がゆるみ、尿もれが起こることがあります。また、便秘で長時間いきむ、重い荷物を持つ作業が多いなども要因になります。このような腹圧性尿失禁の場合、骨盤底筋トレーニングによる改善が期待できます。
また、急に尿意が起きてトイレに間に合わなくなって尿もれする場合は、膀胱が活動しすぎて尿もれになる切迫性尿失禁かもしれません。骨盤底筋トレーニングも改善に役立ちますが、薬で改善する場合もあります。
A.泌尿器科やウロギネ外来で相談を
尿のトラブルに関する診療は、泌尿器科になります。しかし、泌尿器科というと「男性患者が多い」「男性医師に相談しづらい」と感じる女性も少なくないはず。最近は、女性専用の泌尿器科(女性泌尿器科)、尿トラブルにも積極的な婦人科、泌尿器科と婦人科の境界領域を診療するウロギネ外来などもあります。
A.生活に支障をきたす場合は受診を
軽い尿もれであれば、骨盤底筋トレーニングでの改善が期待できます。しかし、トレーニングを続けても改善しない、尿もれの量が多くて日常生活に支障をきたす、尿もれが気になってQOL(生活の質)が下がるなどの場合は、泌尿器科(女性泌尿器科・ウロギネ外来)などを受診してみましょう。泌尿器科では尿もれだけでなく、頻尿、排尿時の痛みなど、尿の異常全般に対応してくれます。
尿もれで受診した場合、問診、尿検査、超音波検査などを行います。医師がデリケートゾーンを診たり触ったりするケースは、それほど多くはありません。ただし、骨盤臓器脱が疑われる場合やデリケートゾーンのトラブルのときは、内診や触診をすることがあります。
A.尿もれでなくても、骨盤底筋がゆるんでいる可能性が…
●お風呂上がりにポタポタ
お風呂上がりに腟から水が出る場合、それは尿ではなくお風呂のお湯でしょう。しかし、このような現象が起きるのは、骨盤底筋がゆるんで腟にすき間ができている証拠。骨盤底筋トレーニングで鍛えると、腟の引き締めも期待できます。
●朝起きると下着が湿っている
下着がかすかに湿る程度でも、自分の意思に反して尿が出た場合は、尿もれです。骨盤底筋トレーニングを行う、吸水ケア用品を利用するなど、対策を検討してみましょう。
●飲酒時の激しい尿意
アルコールやカフェインには利尿作用があるので、飲酒でトイレが近くなるのは自然なことです。ただし、尿もれの傾向がある人は、トイレに間に合わなくなることも…。尿もれ予防のために骨盤底筋トレーニングを始めてみることも検討してみましょう。
今回お話を伺った先生
女性泌尿器科医師
佐藤 亜耶 先生
自由が丘ウロケアクリニック院長
日本泌尿器科学会認定専門医、医学博士。日本大学医学部卒業後、研修医を経て同大学泌尿器科に入局。以降、関連病院で診療経験を積み、2019年に女性泌尿器科・小児泌尿器科に特化した自由が丘ウロケアクリニック開院。日本泌尿器科学会、小児泌尿器科学会、女性骨盤底医学学会、日本夜尿症学会所属。