「更年期」とは、閉経前後5年くらいの期間のこと。年齢的には、45~55歳くらいの時期をいいます。ただし、個人差が大きく、人によってかなり違います。
卵巣のはたらきは、30歳ぐらいをピークに、ゆるやかに衰え始めます。そして、その機能が完全にストップしてしまうと、やがて「閉経」を迎えます。閉経の平均年齢は、約50歳といわれています。
「更年期」とは、閉経前後の数年間の「卵巣機能が終わっていく過程」のことで、女性のからだにとっては、ごく自然な変化です。
妊娠・出産といった生殖機能は失われますが、見方を変えれば、その負担から解放される時期が来たということになります。更年期は、からだが新しいバランスをとりながら、さらに数十年の人生を生きていくための、準備期間ともいえるのです。
卵巣のはたらきが衰えると、卵巣から出る卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が徐々に少なくなります。
更年期になると、はたらきの悪くなった卵巣をなんとかはたらかせようと、卵巣をコントロールしている脳の下垂体から、性腺刺激ホルモンが大量に分泌されるようになります。こうして脳が興奮状態になると、自律神経をも刺激して失調をきたすのです。
このようなホルモンのいちじるしい変動にともなって、さまざまなからだの変化「更年期症状」があらわれます。この症状が、日常生活に支障をきたすほど強い場合を、とくに「更年期障害」といいます。
また、卵巣は老化すると、小さくなっていきます。すると、中にまだ卵子が残っていても、排卵が起こりにくくなります。更年期に入って月経が乱れ始めるのは、このためです。
更年期症状の発現率(複数回答)
更年期というと、なんとなく不安に思っている人も多いようですが、さまざまな症状に対しては、有効な治療があります。正しい知識を持って、自分のからだと心を上手に管理し、前向きに乗り切っていこうという気持ちが、何より大切なのです。
2013年11月 花王 生活者研究センター調べ
一般的に、更年期は45~55歳くらいですが、卵巣のはたらきは30代から徐々に衰え始めます。ですから、この頃から、少しずつからだのことを考えながら生活するのが理想的です。
とはいっても、特別なことをする必要はありません。まずは、食事のバランスに気をつけ、とくに大豆製品や、骨に良いとされるビタミンD、K、カルシウムが含まれる食品をしっかりとる、睡眠・休養を十分にとる、日常的に運動をするなど、基本的な生活に気をつければよいのです。ストレスと上手につきあう方法を、自分なりに見つけることも大切です。
更年期症状は、からだのあらゆるところに出てきます。
ただし、症状のあらわれ方には個人差が大きく、いくつもの症状に長く悩まされる人もいれば、ほとんど自覚しないまま更年期を過ぎる人もいます。
更年期症状は実に多様ですが、代表的なものをまとめてみました。
●のぼせ、ほてり、発汗
●冷え
自律神経は、血管を拡張・収縮させるはたらきをします。血管系の自律神経に失調をきたすと、次のような症状があらわれます。
のぼせ、ほてり、発汗は、更年期特有の症状として、もっともよく知られるものです。主に上半身の血管を取り巻いている神経の興奮状態によって起こります。
誰でも、運動したり、ひどく緊張したりしたときなどは、このような状態になりますが、更年期の場合は、そういったこととは無関係に症状が出るようになります。
また、腰や手足などの冷えを訴える人が多く、のぼせやほてりと冷えが同時に起こることもあります。
●関節の痛み、肩こり、腰痛
●手足のしびれ、こわばり
●皮膚の乾燥、かゆみ
●口のかわき
運動器や皮膚の症状の中にも、卵胞ホルモン(エストロゲン)の不足によって起こるものがあります。
●頻尿
●尿漏れ
●繰り返す膀胱炎
これらは泌尿器系の自律神経の失調や、骨盤の周辺を支えている靭帯のゆるみから起こります。
●疲労感
●記憶力の減退、判断力の低下
●イライラ、憂うつ、不眠
●頭痛、めまい、耳鳴り
更年期の精神症状で、もっとも多く見られるものです。年齢的にも、女性が公私ともにいろいろな問題を抱える時期と重なるため、家族関係や人間関係、労働環境などでストレスの多い人は、症状が出やすいことが知られています。精神症状から頭痛やめまい、耳鳴りなどの身体症状が起こったり、強く感じたりすることもあります。
●月経異常
●腟の乾燥・かゆみ、性交痛、外陰部の痛み
ホルモンバランスが乱れることによって起こる症状です。
40歳くらいから、月経周期が乱れるようになります。一般的には、まず周期が早まり、やがて大きく間隔が開き始め、閉経という経過をたどります。 無排卵性月経が増え、ときには多量の出血を起こすこともあります。卵胞ホルモン(エストロゲン)が欠乏すると腟や外陰部の潤いが失われて炎症が起きやすくなり、少しの刺激でも痛みを感じることがあります。
卵胞ホルモン(エストロゲン)の欠乏によって、肥満症、脂質異常症、動脈硬化や骨粗鬆症などになりやすくなります。
不快な症状も、適切な治療によって軽減できます。治療が必要かどうかは、本人が苦痛を感じているかどうかで決めることですが、更年期は生活習慣病が発生し始める時期でもあります。おかしいなと思ったら、がまんしすぎないで、早めの受診を心がけましょう。
また、からだが大きく変わる更年期以降は、年に1度は全身的な定期検診を受けることが大切です。
約50年前に欧米で始まった治療法で、更年期に不足する女性ホルモンを薬で補うものです。当初は、卵胞ホルモン(エストロゲン)だけを投与していましたが、効き目もある反面、子宮体がんの発生率が増えるという問題がありました。
そこで、さらに研究が進められた結果、子宮体がんを予防する働きのある黄体ホルモン(プロゲステロン)も加えられ、現在の女性ホルモン補充療法が確立されました。
日本では1990年頃から産婦人科を中心に広まり始め、漢方薬と並んで現在、さまざまな更年期症状の緩和に効果を上げています。閉経後5年以内に始める女性ホルモン補充療法は、骨粗鬆症、動脈硬化の予防にも有効であることが確かめられています。
女性ホルモン補充療法で使われる薬やその投与法は、医師と相談しながら決めます。持病や既往症によっては、適用できない場合もあります。また、5年以上の使用で乳がんの発症リスクが少しだけ上がることもわかっています。そのため、事前の検査と十分なインフォームド・コンセントが必要となります。
からだ全体の調子を整えるという考え方の漢方療法は、いくつもの不定愁訴が重なる更年期症状に向いているといえます。自律神経の不安定状態によく効き、副作用も少ないので、広く使われています。
漢方は、体質によって、同じ症状でも使う薬がちがいますので、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談して服用するようにしましょう。
それぞれの症状に合わせた薬を使って、苦痛を軽減します。精神症状にも効果があり、睡眠薬、精神安定剤、抗うつ剤などが使われます。
※その他の治療法は削除しています。
「ロリエHP」読者の皆さんから寄せられた、疑問や質問にお答えします。
A.一般的には閉経をはさんだ10年間ほどの期間を指します。個人差が大きく、人によって違いますが、45歳くらいから更年期症状を自覚する人が多いようです。
A.更年期は、誰もが通過する人生のステージですから、ほとんどの人が何らかの更年期症状を自覚します。しかし、すべての人が重い更年期障害に悩んでいるわけではありません。
治療を必要とするような強い症状の出る人は、10~20%程度だといわれています。
A.更年期になると月経の周期が乱れ始めますが、「閉経した」というのは、最終月経から1年間たった時点となります。
A.年齢的には、十分考えられます。43歳未満での閉経を早発閉経といいます。早く閉経すると、エストロゲンの分泌が急減することによる骨粗鬆症のリスクが上がりますので、婦人科などで骨密度のチェックを受けることをおすすめします。
また、閉経直後は卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が完全にストップしてしまうわけではなく、少し出血する(無排卵性月経)ことが多く見られます。ただし、40代からの不正出血は、子宮がんなどの病気が心配ですので、まずは婦人科を受診し、がんでないか確認をしてください。また、がん検診は年に1度、必ず受けるようにしてください。
A.いちばんのアドバイスとしては、ふだんから親子で話題を共有し、気軽に話し合える関係でいることです。お母さんにつらい症状があらわれたとき、それを訴える相手がいるだけでも、ずいぶんラクになるのではないでしょうか。
また、症状が強い場合には、積極的に病院へ行くようにアドバイスしてあげてください。更年期症状は、治療によって、かなり緩和されるものです。
A.ホルモンの変調にからだが慣れるには個人差がありますが、のぼせやほてりといった症状は、ふつう3~4年、長いと10年くらい続くこともあります。
精神的な症状は、環境や性格的なことにも左右されるため、ストレスや悩みを抱えている人は長引く傾向があるようです。
ただし、骨粗鬆症や動脈硬化などは、自然に回復することはありません。
A.遺伝的に体質が似ていれば、更年期症状も似るかもしれません。しかし、更年期症状は、それ以外にも環境や性格的なことが大きく関係しますので、必ずしも同じようになるとは限りません。
A.女性は閉経によって生殖能力がなくなりますが、男性にはそのようなことはありません。しかし、男性の場合も、年齢とともに性巣(睾丸)でつくられる男性ホルモンが減少していきます。
この変化は、女性にくらべてゆるやかなため、症状があらわれにくいのですが、程度の差はあってもホルモンの変動があるのは同様です。最近はストレスなどが原因でホルモンが急減するなどし、症状を訴える男性も増えてきています。更年期症状としては、イライラや疲労感、不眠、憂うつ、のぼせなど、女性とほぼ同じものがあげられます。
監修/東京大学病院 秋野なな先生