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近藤 徳彦
神戸大学 人間発達環境学研究科
研究分野:応用生理学,運動生理学,環境生理学
研究テーマ:物理的な外部環境の変化や運動に対するヒトの呼吸・循環・体温調節機構の適応を,生理学的観点から検討し,ヒトのからだの不思議にせまる。
ヒトに限らず、過度に体温が上昇すると(40℃近くになると)脳が疲労を起こし、動物は動けなくなります。
ヒトは、進化の過程で体毛を退化させ“汗”を獲得したことで、日中暑い時間帯に動物を長時間追いかけても過度の体温上昇が起こらず、一方、追いかけられている動物は過度に体温が上昇し、動けなくなるのです。
このような狩り(ハンティング)により確実に動物をしとめ、脳の発達に重要な高タンパク源を確実に確保していたことが考えられます。
一方で、体毛の退化は熱を体外に逃がすには有効でしたが、皮膚のケアにはマイナスとなった可能性があります。
このマイナスを汗が補い、実際に皮膚のケアに汗は役だっています。
例えば、汗は皮膚表面を弱酸性に保つことで細菌の繁殖を抑制、体内の老廃物(アンモニア、尿素など)を排泄したり,皮膚の保湿などの役割があります。
体温維持には関係しませんが、広い草原で同じ種族をみつけるために利用していたと考えられるニオイがでる汗。これも進化の過程(種の保存)では重要であったと考えられます。
汗腺は使えば使うほど、その能力が開花します。高齢者においても同様です。
一方、使わないとその能力を発揮することができません。
日常的に汗をかくことで季節が変化する時期や夏においても、生活の質を落とさず、快適な生活を送ることができるのです。
前述のとおり、汗は皮膚をケアするために重要ですが、皮膚に付着して時間が経つとアルカリ性に傾き、皮膚での細菌が繁殖しやすくなるため、汗をかくことも重要ですが、かいた後のケアも大切になってきます。
汗は一般的にアトピー性皮膚炎の悪化因子と考えられていますが、汗をかくような生活を過ごし、汗をかいた後に皮膚をきれいにすることで、皮膚炎が軽くなったことも報告されています。
進化の過程で必要があったニオイのでる汗(ワキの下)は、現在社会では種族の判定に利用する必要がなくなり、その役割はほとんどなくなったと考えられます。
しかし、進化の過程で獲得したものは、簡単にはなくならず、汗によるニオイが日常生活を快適に過ごす上で弊害になっています。
現代社会での生活の質を低下させないために、この汗のケアが重要となってきます。