親の介護は突然やってくる。50代、今のうちに備えておくべきこととは?

2023.12.22

そろそろ親の介護のことが気になる。でも制度は複雑そうだし何から始めたらいいのか……。こんな悩みを持つ人は少なくないでしょう。親も子もそれぞれが快適に暮らしていけるように今から介護準備=「介活(かいかつ)」をはじめてみませんか。介活をうまく進めるポイントや情報収集のコツなどについて、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんに、花王リリーフ ブランドマネジャー・佐鳥 翼が伺いました。

来たる介護の2025年問題に向けて、働く世代が知っておきたいこと

佐鳥 太田さんは1993年頃から老親介護の現場を取材し続けてきたそうですね。最近では、働きながら介護をするビジネスケアラーもずいぶん増えています。今回はそろそろ介護を考え始めた40〜50代に向けた「介活のすすめ」ということでアドバイスをお願いします。

太田 よろしくお願いします。

太田差惠子さんとリリーフ ブランドマネジャー佐鳥

佐鳥 まず介護を取り巻く現状ですが、まさにいま団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる『2025年問題』が迫ってきています。日本の出生数は80万人を割りましたが、それに対して新規の介護認定者(要支援〜軽度介護層)は年間およそ70万人という数になると推計しています。すごい世の中になったと思っているのですが、今後介護を取り巻く状況はどうなっていきますか?

  • 国勢調査人口データ、総務省データ、自治体窓口ヒヤリングより花王推計含む

太田 超高齢社会であり、親が100歳で子どもが70代という老老介護も珍しくなくなりましたよね。親に介護が始まる頃、子どもの方は仕事があり、住宅ローンや教育費に追われているケースが多い。仕事と介護の両立が課題です。でも、それだけでは終わりません。医療の進歩もあり、介護期間は長く、そのうち自身も年齢を重ねて、定年を迎え、今度は自分の老後と親の介護の両立が課題になります。

別居、遠距離介護の場合、親の異変に気づくポイントは?

佐鳥 だからこそ、介護が始まる前の早い段階で、どんな準備ができるかということですよね。ただ、介護保険制度1つ取っても複雑すぎてわかりにくいという声をよく聞きます。

太田 介護保険は2000年にスタートしました。ご存知のように日本の社会保障はこれから先細りしていくいっぽうです。制度は3年ごとに見直しが行われていますが、そのたびにメニューは複雑化し利用者負担が増える傾向にあります。

ですから、何も備えも心積もりもなく親の介護が始まると、家族で何とかしなければと思って抱え込み、自滅しかねません。使える制度は使って、子自身も老後の自分の生活を守れるように準備していく必要がありますね。そのためにはやはり情報収集が不可欠です。

30年にわたる取材活動で得た豊富な事例を基に、様々な視点から「介護」情報を発信

佐鳥 何かこう介護のきっかけとなるタイミングがわかるといいと思うんです。別居や遠距離が基本だとしても、どうしたら親の変化や異変に気づくことができるでしょうか。

太田 以前、「親の心身の衰えは「冷蔵庫の中」でわかる 年末年始に帰省したらチェックしたいポイント 」という記事を書いたら大反響になったんです。それくらい冷蔵庫とか部屋の掃除の状況などは日々の生活が現れやすい場所ですね。実家に帰省したタイミングでこっそり観察してみるといいですよ。

知っとこ!介活サイン

  • 冷蔵庫:冷蔵庫の中のモノがグチャグチャだったり、同じ食品ばかり大量に買い込んでいたり、賞味期限の過ぎた総菜があったり…などの変化はありませんか。
  • 車や車庫:自家用車の車体や車庫の壁にキズがたくさんついていたら要注意。免許返納が必要かも…
  • トイレや浴室:水回りが今までにないくらい汚れていませんか。
  • 掃除の仕方:床の真ん中だけ掃除した形跡があるが、部屋の隅っこはほこりが溜まっているということはありませんか。

「あれ?」と思ったらメモ、日付を忘れずに

太田 親はもともとキレイ好きだったはずなのに、あるとき帰省したら部屋が散らかり放題……。子としては「あれ?」と思いますよね。そんなふうに「あれ?」と気になったことは、日付と内容をメモ書きしておきましょう。

メモを取るときには「●月●日(●曜)母親からさみしいという電話がかかってきた。泣いていた」とか、「●月●日(●曜)帰省すると台所が汚れていた」とか、簡単でいいので日付と内容を書いておくこと。一回一回は本当に些細なことであったとしても、積み重なれば異変が起きているとわかります。ちょっとした気づきから、親に認知症が見つかったという人もいました。心配になってきたら早めに地域包括支援センターや親のかかりつけ医に相談することをお勧めします。

佐鳥 確かにメモがあれば、ケアマネさんや医師に親の状況を伝えやすいですね。

太田 そうなんです。診察の手がかりにもなりますし、何より子として早く気づけるということが一番のメリットです。子ども世代は仕事で日々忙しいので、親のことになると時系列が分からなくなりがちです。そこで、日付を残しておくことがコツなんです。スマホにメモしてもいいですし、きょうだいでLINEグループを作って報告し合うのもお勧めですね。

仕事と介護の両立が不安…。親が元気なうちにこれだけは!

佐鳥 仕事を辞めないための対策や備えについても伺いたいです。仕事と親の介護をどうしたらパンクしないようにやっていけるでしょうか。親が元気なうちからできることはありますか?

太田 まず、親が「どういうふうに老後を過ごそうと思っているか。もし介護が必要になったら、どこでどんなふうに暮らしたいと思っているか」ということは、元気なうちに聞いておいたほうがいいと思います。あとは親の気がかりなことが増えてきているのだとしたら、親の住所地にある「地域包括支援センター」に思い切って相談しましょう。担当のセンターの所在地がわからなかったら、役所に聞けば教えてくれます。

[地域包括支援センター] 

65歳からの健康や介護に関わる地域の総合相談窓口。介護の最初の相談窓口になります。相談は無料。

佐鳥 場所ぐらいは知っておかないといけませんね。

太田 そうですね。介護保険のほかにも、自治体ごとに総合事業として行なっているサービスがあります。例えば転倒予防教室とか、親御さんが一人暮らしだったら緊急通報システム、安否確認サービスなどですね。住宅改修の支援を行っているところもあります。自治体ごとにサービス内容は異なるので、親の住む地域を管轄するセンターへ問い合わせましょう。

佐鳥 地域包括支援センターに早めにコンタクトを取っておくと慌てずに済みそうですね。相談先があると知っておくだけでも安心できそうです。

太田 親について少しでも心配なことがあると感じたら、地域包括支援センターに電話をしてみましょう。「実は親が一人暮らしをしています。なかなか頻繁には帰省できないんですが、どうしたらいいでしょう?」と聞いてみると、今から使えるサービスがあるかもしれません。介護保険の申請を勧められることもあるでしょう。帰省する機会に立ち寄って、パンフレット、手引きなどをもらっておくと尚いいですね。いざというときの連絡がスムーズに進みます。

介護は「お世話」ではなく「マネジメント」していくもの

佐鳥 太田さんの著書には「介護をマネジメントと捉えてほしい」と書かれていました。また「一人で抱え込まずに」という言葉にホッとしました。介護マネジメントについて具体的なアドバイスをいただけますか。

太田 介護と聞いて真っ先に思い浮かぶのはなんでしょう。ほとんどの人は食事介助とかトイレ介助といった、身体介護に目がいきがちですよね。でも現実問題としてそれらを全部しようと思うと別居じゃ難しいですね。しかも食事は1日3回で済みますが、トイレは日に何度もいくもので、たとえ同居しても、全部家族でサポートすることは無理なのです。

だからこそ、マネジメントが大切なんです。まずは今の親には何ができて何ができないのかを考えて、そしてできないこととか困っていることをあぶり出す。できないこと、困っていることに対して、家族で支援できないなら、何等かのサービスやグッズなどを入れてサポートする体制を考えればいいと思うんです。そのように、支援体制を整えていくことを「マネジメント」と呼んでいます。

太田さんの著書。「遠距離介護」という言葉は太田さんの書籍により社会に広まった。

サービス、制度の使い方、お金、チーム作りまで、中・長期的戦略が必要

佐鳥 なるほど、まずは親の健康状態や置かれている状況を分析するんですね。

太田 そうですね。ただそうなってくると、サービスを利用するにも何かグッズを買うにもお金がかかってきます。つまり予算を考える必要があるのです。原則、私は親御さんの介護は親御さんの自立を応援するためにやることなので、親本人のお金を使うべきだと考えています。いま子世代の方が、いつか自分に介護が必要になれば、自分で負担しますよね。子にだしてもらおうなんて思わない。
介護資金はどのぐらいあるのか、親のお金を予算として適切なサービスを受けられるように環境を整えていくのがマネジメントの役割です。仕事では予算を考えずにスタートすることってないと思うんですね。なのに、介護となるとほとんどの方が予算は考えないんです。その発想から変えていきましょう。

佐鳥 食事介助、行動介助…となると頭を抱えてしまいそうですが、マネジメントというビジネス用語で捉えるとすごくわかりやすいですね。おっしゃる通り、我々の世代は割と得意かもしれません。

太田 企業で社員さん向けに仕事と介護の両立のための講演をすることが多いのですが、「介護はマネジメントですよ」と説明すると、特に40〜50代の男性社員さんからは「それならできる!」という反応が返ってきます。いきなり手を動かすことを考えるのではなく、まず予算ありき。ビジネス感覚で取り組むことで合理的かつスムーズにことが運ぶのです。

ファイナンシャルプランナーでもある太田さん。
介護はマネジメントですよ、に思わず納得

「介活(介護のための準備)」は人生100年時代への備えでもある

佐鳥 それと忘れてはならないのは「介護は情報戦」ということですよね。頭を抱えてしまうのではなく、介護の全体像を大まかに把握しておいて、親の状況も整理しながら「じゃあ何をすべきか」ということを考えるというステップを踏んでいけるといいですね。我々「リリーフ」としても、早いうちから介護のための準備をという思いがあり「介活」というキーワードを広めていきたいと考えています。何かアドバイスをいただけますか。

太田 やはり準備というのは非常に大事で、知ってるのと知らないのとじゃ大違いだと思うんですよね。始まる前から情報を得て考えておくことで、適切なタイミングでサービスやグッズを採り入れることができます。適切なタイミングで導入することで、親の心身状態が悪化するのを防げることが多いんです。

佐鳥 ありがとうございます。人生100年時代を充実したものにして、できるかぎり長く人生を謳歌していただけるように、自立した毎日をサポートする「リリーフ」ブランドからもお役立ち情報を発信していきますので、どんどん活用していただけたらと考えています。

太田 子どもは介護に関わるサービスや商品、グッズを勧めたいのに、親世代は「そんなのいらない」と結構拒否する方が多いんですね。よくあるのは「介護保険の申請をしよう」と勧めても親が嫌がるケースです。だからいかに上手にアプローチするかが重要で、マネジメントの鍵になってくると思います。

佐鳥 「親御さんにオムツを勧めにくい」という悩みを持つ方も多いと聞きます。急にオムツと言うと拒否感が強い方もいらっしゃるかもしれませんが、例えばリリーフの「まるで下着」はその名の通り下着感覚でお使いいただけますので「便利な下着のような紙パンツがあるよ」という言い方で勧めていただくのもいいかもしれません。

太田 そうですね。実際、「オムツ」という表現では拒否された親御さんが、「これは便利なパンツだよ」と言って、受け入れられたという声を聞くことがあります。これはマネジメントですから、「うちの親はどう言えば、納得してくれるかな」と考えることが大事なんです。介護保険の申請を拒否されるようなケースでも、「申請、申請」と言い続けても親子喧嘩になるだけです。結構うまくいくのは、「かかりつけ医」にお願いして親に勧めてもらうやり方ですね。子の言うことに耳を傾けない親も、「先生」の言葉は聞き入れる傾向があります。

あとは家族の中で長男のいうことだけは聞くというケースもあって、女性たちの怒りの声をよく聞きます。「年取ったら女手があるほうがいい。女の子を産んでおいてよかった」なんて言われるのに、自分の言うことは聞かないと。でもそれなら、怒っていないで、兄や弟に親へのアプローチ役をしてもらうのもアリです。きょうだいがいる場合は、親の性格や相性などを考え、うまく役割分担をしましょう。営業マンになったつもりで「この親はどう言えば耳を傾けてくれるかな」と考えたらいいと思います。

佐鳥 太田さんのおかげで介護の準備段階ですべきことの全体像が見えてきたように思います。アドバイスをたくさんいただき助かりました。ありがとうございました。

【プロフィール】太田 差惠子さん

介護・暮らしジャーナリスト。1993年頃より老親介護の現場を取材。取材活動より得た豊富な事例をもとに「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「高齢者住宅」 等をテーマに講演や執筆を行う。AFP(日本FP協会認定)の資格を持ち「介護とお金」にも詳しい。主な著書に「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと第3版」「高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版」(共に翔泳社)、「遠距離介護で自滅しない選択」(日経BP)ほか多数。

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