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さらピュア お悩み相談室
投稿日:2024年8月9日
10年前に出産してから、くしゃみ、走る、ジャンプなどで尿もれするようになりました。それ以来、好きだったランニングも思う存分楽しめません。最近、太ってきたのでダイエットを、と久しぶりに走ってみたら、知らない間に尿がモレていてウェアがベタベタに…。再びスポーツが楽しめるように治すことはできますか?(40代女性)
<回答した専門医>
女性泌尿器科医師 佐藤亜耶先生
せきやくしゃみ、走る、ジャンプ…どれも腹部に圧力(以下、腹圧)がかかる動作ですね。腹圧がかかったときに起こる尿もれを「腹圧性尿失禁」と言います。これは骨盤底筋のゆるみが原因。ランニングの他にも、縄跳びやトランポリンをしたときなどに「モレちゃう」という声をよく聞きます。
骨盤底筋はハンモック状で膀胱や直腸、子宮といった臓器を下から支えている筋肉。尿道の開け閉めをコントロールする働きもあります。本来、尿道は骨盤内に固定されているものなのですが、加齢や出産で骨盤底筋がゆるんでいると、腹圧がかかったときに尿道がゆるむので、尿がモレてしまいます。
一方で、腹圧がかかる動作を続けていると、骨盤底筋がゆるみやすくなるという側面もあります。とくに、骨盤底筋がゆるみやすい妊娠~産後、更年期に、腹圧がかかる動作を繰り返していると、骨盤底筋はどんどんゆるみ、尿もれにつながるおそれがあります。ダイエットや体力づくりのために運動をしたいのであれば、腹圧があまりかからない運動がおすすめです。例えば、ランニングではなくウォーキングにしたほうが、尿もれのリスクは減るでしょう。また、ウエストをベルトなどで締めつける服装や、コルセット、ガードルなどはお腹に圧をかけるため、尿もれしやすくなります。服装にも注意が必要です。
腹圧性尿失禁の場合、骨盤底筋を鍛えることが軽減につながります。そのために、骨盤底筋トレーニングを習慣にすることが重要です。また、急に体重が増えると骨盤底筋に大きな負荷がかかるので、骨盤底筋を鍛えると同時に体重のコントロールも大切になります。
さらに、骨盤底筋トレーニングで効果を感じない場合は、薬による治療(保険適用)、電気刺激治療、レーザー治療や磁気刺激療法(共に保険適用外)などもあります。
尿道の括約筋を締める薬や漢方薬「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」など、尿もれに処方される薬がいくつかあります。
腟に専用器具を入れてレーザーを照射し、腟組織のコラーゲンを再生することで腟に隣接している尿道の締まりがよくなる施術です。効果を得るには複数回の施術が必要となりますが、腟の乾燥や萎縮を改善する効果も期待できます。
磁気刺激によって効率よく骨盤底筋が鍛えることができます。また、膀胱や尿道をコントロールする神経を刺激して、神経の働きを改善させる効果も期待できるため、激しい尿意を伴う切迫性尿失禁の治療に使用することも。イス型の装置に服を着たまま30分程度座った状態で行います。クリニックなどの施設に通院して複数回、定期的に行う必要があります。
尿もれが激しくて、骨盤底筋トレーニングでは改善が難しい場合、泌尿器科の手術で治療する選択肢もあります。この手術は、「中部尿道スリング手術(TVT、TOT※)」と呼ばれ、尿道の下に治療用のテープを通して、腹圧で尿道が動いてしまわないように固定し、尿もれを防ぐものです。入院は2~3日間になります。
尿もれを気にして好きなスポーツをあきらめる必要はありません。骨盤底筋を鍛えて尿もれを改善できれば、スポーツを楽しめるようになるでしょう。メンタル面の健康を考えれば、むしろ復活させたほうがいいと思います。
トレーニングや治療を始めても、すぐによくなるわけではありません。尿もれを気にして運動を制限しないために、尿もれケア専用の吸水パッド、吸水ショーツを利用してはいかがでしょうか。スポーツをするときだけ使うという方法もあると思います。
また、特定のスポーツにこだわらず、体を動かしてリフレッシュしたいのであれば、ヨガやピラティスがおすすめです。どちらも骨盤底筋を含めたインナーマッスルを鍛える効果が期待できます。近年はスポーツジムやネット動画でも、関連プログラムが多いようです。患者さんでも、ジムに通って尿もれが改善した人は結構いらっしゃいます。気分がリフレッシュできて骨盤底筋も鍛えられる方法が見つかれば、いいですね。
女性泌尿器科医師
佐藤 亜耶 先生
自由が丘ウロケアクリニック院長
自由が丘ウロケアクリニック院長。日本泌尿器科学会認定専門医、医学博士。日本大学医学部卒業後、研修医を経て同大学泌尿器科に入局。以降、関連病院で診療経験を積み、2019年に女性泌尿器科・小児泌尿器科に特化した自由が丘ウロケアクリニック開院。日本泌尿器科学会、小児泌尿器科学会、女性骨盤底医学学会、日本夜尿症学会所属。女性と子供に特化した専門クリニックには、遠方からも相談に来られる患者さんが多い。