介護に欠かせないおむつ代は、条件を満たせば医療費控除の対象となり税金を軽減できます。本記事では、おむつ代を含む介護にまつわる医療費控除について、はじめての人にも分かりやすく・詳しく解説します。 さらに専門家監修のもと、申請時の注意点やスムーズに手続きを進めるポイントも紹介しています。おむつ代の負担を減らしたい人や、今年から医療費控除をしてみようと考えている人はぜひ参考にしてみてください。
ファイナンシャルプランナー
柳澤 美由紀 さん (家計アイデア工房 代表)
介護にかかるおむつ代は、ある一定の条件を満たせば医療費控除という制度の対象になることがあります。医療費控除とは、手順に従って申請することで、額に応じて税金の一部が戻ってくるものです。
毎日使うおむつだからこそ、トータルではかなりの負担になりがちです。医療費控除について詳しく知り、賢く節約に役立てましょう。
医療費控除とは、おむつ代に限らず1年間にかかった医療費や薬代その他の合計が一定額を超えた人を対象に、税金の一部を払い戻して負担を軽減する制度です。
医療費控除が受けられるのは、医療費や薬代その他の合計額が以下に当てはまる場合です。
また、医療費控除は個人単位の計算ではなく、生計を一にする家族全員(世帯)で合算が可能です。払い戻しを受けるためには申請が必要ですが、介護が必要な人や継続的な医療を受けている人が家族にいる場合などでは、上記の基準を簡単に超える場合が多くあります。
医療費控除の申請をしたことがない人も、試しに一度1年間にいくらかかっているのかざっくりとでも計算してみるとよいでしょう。
医療費控除の対象は医療費や薬代などですが、条件を満たせばおむつ代も申請の対象にすることができます。
おむつ代を医療費控除に含めるための条件は以下のとおりです。
これらを満たしていれば、入院中・施設入居中・在宅療養中のいずれでも医療費控除を受けることができます。
申請のためには、上記2点を満たしていることを証明するための書類が必要です。書類には2種類あり、
のどちらでも大丈夫です。なお、医師に依頼した場合の手数料は1,000~3,000円程度、市町村では無料(郵送代別)の場合が多いようです。
また、「完全に寝たきりかといわれると微妙」「寝たきりかどうかわからない」ような場合でも、まずは主治医に相談してみることが大切です。最終的に判断するのは医師のため、「多分寝たきりではないからおむつ代の医療費控除はムリ」と最初から自己判断してしまわないようにしましょう。
おむつ代を医療費控除するためには確定申告が必要です。「大変そう」「手続きがよくわからない」という人も多いでしょうが、実はポイントを押さえればそう大変ではありません。
医療費控除申請の準備から確定申告までを簡単に4ステップにまとめました。ステップごとに気を付けることやポイントも紹介していきます。
まずは申請のために、おむつを使用していて条件を満たしているという証明書類を準備します。
書類には2種類あり、
のどちらかです。
市町村が発行するものは要介護認定を受けていることが前提になるため、そうでない場合は主治医に記入を依頼します。
書類の記入や発行にはある程度の時間がかかるため、確定申告の時期になって慌てて準備しなくて済むよう余裕を持って取り寄せておきましょう。
おむつを使うようになったら、おむつ購入時の領収書を保管しましょう。
書類がまだ手元になくても、おむつを使用し始めた日からのおむつ代がさかのぼって申請可能なためです。
領収書は医療費控除の申請が終わっても5年間は保管義務があるため、整理して捨てないようにしておきましょう。
また、領収書はレシートで代用も可能です。一緒に購入したおむつ以外のものには横線を引くなどして消しておきましょう。
おむつを通販で購入している場合ももちろん申請可能です。各ECサイト上で領収書がダウンロードできる場合は保管しておきましょう。利用した ECサイトが領収書のダウンロードに対応していない場合は、支払いに利用したクレジットカードの利用明細書と、購入時に添付される納品書の両方を保管するようにしましょう。
代金引換やコンビニ払いなど、別の支払方法で通販を利用した場合でも、支払った時にもらえる控えが必要となります。捨てないように注意しましょう。
領収書が集まってきたら、確定申告に備えて医療費控除の明細書の作成を始めましょう。
医療費控除の明細書とは、誰が・どこに・いくら・何の目的で医療費控除の対象となるお金を使ったのかをまとめたものです。
実際に確定申告の際に提出するのは、領収書ではなくこの明細書になります。
手書きで明細書を作成したい人や税務署に行って確定申告をしたい人はPDFが、PCで明細書を作成したい人やオンラインで確定申告を済ませたい人はExcelが便利です。
医療費控除の明細書(Excel)記入例※一部のみ
ダウンロードしたエクセルに入力、おむつ代は「その他医療費」で。
明細書には、おむつ代だけでなく1年間にかかった医療費控除の対象となるお金すべてを記入することができます。
確定申告の時期になって一気に記入するのは大変ですので、普段からこまめに入力しておくと後が楽です。
申請の準備が整ったら、原則、毎年2月16日〜3月15日の間に確定申告を行います。ただし、医療費控除は過去5年分までさかのぼって申請が可能です。
確定申告とは、1年間に得た収入や支払った税金を計算し、正しく精算する手続きのことです。会社員は基本的に不要なため、今までしたことがないという人も多いかもしれませんが、さほど難しいものではありません。
確定申告に必要なものは以下のとおりです。
また、申告方法には2通りあります。都合に合わせて便利な方を選びましょう。
便利なのは自宅からできるe-Taxですが、手続きがわからない・不安で誰かに教えてほしい場合には必要書類を持参して税務署で相談しながら申告することもできます。その場合、予約制になっていることが多いため、税務署に確認するようにしましょう。
介活コラム
医療費控除は家族全員(世帯)分を合算することができますが、離れて住んでいる家族にかかった医療費やおむつ代も医療費控除の対象とできるケースがあります。
例えば、離れて住んでいる親に、子が通販でおむつを購入して送っているような場合です。
この場合、医療費控除の対象となるかどうかには以下の2点が重要になってきます。
この2点を満たせば、子の医療費控除に親のおむつ代を含めることができます。
ポイントはお金を誰が支払っているか、です。自分(子)が支払っている、ときちんと証明できるよう、必要な領収書などはしっかり集めておきましょう。
ここまで主におむつ代の医療費控除について解説してきましたが、医療費控除を受けられるお金はそれだけではありません。
病院等に支払った医療費はもちろんですが、意外なところでは通院のためのタクシー代も医療費控除の対象となります。
医療費控除は使った金額の合計が一定額以上にならないと受けることができません。何が医療費控除の対象になるのかを知り、賢く申請しましょう。
医療費控除は、一定の金額を超えてはじめて申請することができます。「詳しく計算していないけど、大変な思いをして申請してもたいして得にならない気がする」と思っている人も多いかもしれません。
しかし、家族に継続的な医療を必要としている人や、おむつを使用している人がいると意外と簡単に申請条件を満たすものです。
医療費は内容によって額の幅が大きいため一概には言えませんが、おむつ代はある程度計算が可能です。ここでは、家族におむつを使用している人がいる場合、1年間でどれくらいの金額が医療費控除の対象となるかを実際に計算してみます。
合計287円
287円×30日=8,610円
8,610円×12ヶ月=103,320円
おむつの値段や交換の頻度にもよりますが、このように意外とおむつ代だけで医療費控除のひとつの基準である10万円を満たす場合も多くあります。
さらにここに医療費などが加わると考えると、無視できない金額になってくるのではないでしょうか。ぜひ医療費控除の申請を行い、賢く節税しましょう。
紙おむつ、尿取りパッド、いずれも医療費控除の対象となります。
医療費控除の申請は、自宅からできるe-Taxが便利です。e-Taxで医療費控除の申請を行うための手順を解説します。
ネットに繋がったPCから、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」にアクセスします。
トップページの右側にある「医療費集計フォーム」のボタンから、医療費控除の明細書のExcel版がダウンロードできますので、まだ入手・作成していない人はここからダウンロードしておきましょう。
トップページから、「作成開始」のボタンを選択します。指示に従って、マイナンバーカードの有無などを回答していきます。
e-Taxの申請にはマイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォンまたはICカードリーダーが必要ですが、ここで対応機種などを確認することができます。
また、初めてe-Taxを利用する人は「利用者識別番号」が必要ですが、この流れで取得できます。
何の申告を行うかの選択画面まで進んだら、「所得税の確定申告書作成コーナー」を選択します。指示に従って入力を進めてください。
医療費の「入力方法選択」という画面まで進んだら、「医療費集計フォームに入力したデータを読み込む」を選択します。「参照」から、作成済みのファイルを選択すると自動的に読み込まれます。医療費集計フォームの読み込みができない場合は直接入力もできます。
あとは、最後まで指示に従って入力を進めれば完了です。
e-Taxでの医療費控除申請は、対応しているスマートフォンがあればさほど難しくありません。
「申請が難しそうだから諦めている」「やり方がわからないから手が出せない」などの人も、これを機にe-Taxでの医療費控除申請にトライしてみてはいかがでしょうか。
介活コラム
自宅で便利にできるe-Taxでの医療費控除申請ですが、メリットが多い一方でデメリットも存在します。ここでは、e-Taxのメリット・デメリットとその対処法を解説します。
「専門知識と真心で、日本の家計を元気にする」を使命に活動するファイナンシャル・プランナー(FP)。1997年よりFP活動を開始し、個人コンサルティング業務を主軸に、労働組合や企業が主催する研修講師等も手掛ける。相談件数は1,000件以上。ファミリー層の相談だけでなく、シングルの老後対策、働けない子どもや病気の家族を抱える家庭のライフプラン、高齢の親に関する相談など、幅広くアドバイスをしている。