達人コラム

東京都市大学教授 古川柳蔵先生
地方にある暮らしの知恵や資源を、次世代につなぐ

2018.12.11  |  高齢社会、グローカル

【達人コラム】東京都市大学教授/古川柳蔵先生 

近年、エネルギー問題や環境破壊問題が深刻化するなか、「持続可能なライフスタイル」として、地方で自然と共生する暮らしを見直す動きがあります。地方の暮らし方や、そこに暮らす高齢者の知恵は、豊かな未来への大きなヒントになるかもしれません。日本各地を巡り、90歳前後の方々へのヒアリングを続けている古川柳蔵先生に、お話をうかがいました。

地方に根差す支え合いの文化

東京都市大学教授/古川柳蔵先生 

くらしの現場レポート『 コミュニティを大事に助け合う 家族も地域も支える地方のシニアたち』で、「気が合う人と仲が良いのは当たり前。気が合わない人と仲良くすることが大事」という声が出ていましたね。その言葉は地方の暮らしを端的に表していると思います。

地方ならではの暮らしの特徴として、まず思い浮かぶのが、「見返りを求めずに、与え続ける」という価値観です。それはモノに限ったことではなく、気持ちもということです。たくさん採れた野菜をあげるといったことだけでなく、近所の人が困っていれば助けるのが当たり前という考え方。大事なときに支え合う、これは今の都会に多くみられる「ギブ アンド テイク」とは、大きく異なる点です。

私が会った奈良の90歳の女性は、「今は求めている人に対しては与える社会だけれども、昔は求めない人にも与える社会でしたよ」と話してくれました。例えば、他の地域からきたお嫁さんが井戸端会議に参加できずにいたら、輪の中に入れるように背中を押してくれる世話好きなおばさんが、昔は必ずいたと言うのです。考えてみれば、昔は都会にだって世話好きな人はいました。でも、今は「ニーズがあれば応えるが、それ以上の働きかけはしない」という考え方が主流です。それではコミュニティがうまく機能しないことも多いでしょう。地方にはまだ、頼まれなくても世話を焼く文化が残っているのだと思います。

自然とともに暮らす心の豊かさ

東京都市大学教授/古川柳蔵先生 

地方の暮らしの要となるのは、『コミュニティ』そして、『自然の豊かさ』もあります。森や川といった自然が身近にあり、農家でなくても日常的にちょっとした農作物を作っている人はめずらしくありません。その地に住む人にとっては当たり前のことですが、都会の人から見れば、そうした暮らしがとても心豊かなものに感じられます。

自然の厳しさもありますが、きれいな海が目の前に広がっていたり、風が気持ち良かったり、四季折々で景色の色が変わったり…。豊かな自然は、人に元気を与えてくれます。コミュニティから感じるものと、自然から感じるもの、このバランスがあるから良いのだと思います。

都内に住む、地方出身の90代男性は、子どもの頃はガキ大将だったけれど、昔の暮らしで一番良かったと思うのは「星空」と教えてくれました。こうした感性が育まれるのは、自然と共生する地方ならではでしょう。ただ残念なことに、昨今は、地方にいてもそうした感性が育まれる環境は減りつつあります。

多世代が共存するコミュニティ

東京都市大学教授/古川柳蔵先生 

地方では、何世代にもわたるお付き合いが、今でも続いている地域が多くあります。

「醤油の貸し借りができる仲」というのも、そうした長い付き合いがあってこそ。ある男性は、「実は、醤油の貸し借りって難しいんですよ」と、話してくれました。地方は自給自足できる人も多いので、普段困ることがない。与えることには慣れているけれど、人に頼るのは苦手だったりする。それなのに、気持ち良く貸し借りできるのは、お互いに子どもの頃からの知り合いで、相手の性格をよく理解しているからです。地方には、長期にわたるコミュニケーションがあってこそ成立する人間関係があります。

また、2世代、3世代が近くに暮らしているのも、地方暮らしの特徴です。
そうなると、働き盛りで忙しい親世代に代わって、祖父母が孫の面倒をみるのは自然な流れ。そのため、祖父母と孫の関係はすごく良好ですね。さらに言えば、孫は祖父母を敬っている。「高齢者を敬いなさい」と親から教育されていることも関係しているのでしょうが、何よりも、80代、90代の方々の言葉には、敬いたくなる重み、説得力があります。90歳の方へのヒアリングを続けていると、子や孫といった血縁関係でなくても敬いたくなるような言葉をたくさんいただきます。彼らの言葉は、便利なものがまだなかった頃、時間をかけて、世代を越えて、コミュニティと共に合理的な暮らしを追求してきたから、このように誰にでもわかりやすいものになっているのでしょう。

未来へつなげたい、先人の「生活哲学」

東京都市大学教授/古川柳蔵先生 

私が500人以上の方の「90歳ヒアリング」をしてきて痛感するのは、先人の知恵には未来にも通じる価値があるということです。

兵庫県豊岡市では、こうした知恵を「生活哲学」などと呼んでいました。自然と真摯に向き合って暮らしてきた世代だからこそ、得ることができた合理性。日常生活や農作業などを通して、自分で学んで生み出した知恵が生活哲学です。こうした知恵は、以前なら農作業などの仕事を通して親から子へ自然に伝承できたものです。しかし、今は共に作業する機会も減り、次世代への伝承が危ぶまれます。だからこそ、90歳ヒアリングのように、意識的に高齢者の知恵を拾い集め、次世代に伝えていく取り組みが必要なのだと考えています。

私たち、そして未来の子どもたちが、現代が抱える様々な問題を乗り越え、持続可能なライフスタイルを見つける。そのためには、地方にある先人の知恵や資源の再認識が大いに役立つことでしょう。

古川先生と石田秀輝氏(東北大学名誉教授)との共著『正解のない難問を解決に導くバックキャスト思考』。地方創生のヒントにもなる「目の前の制約(問題)を肯定的に受け止め、解を導く」思考法が紹介されている。

Profile

東京都市大学教授 古川柳蔵(ふるかわ りゅうぞう)先生

東京都市大学教授
古川柳蔵(ふるかわ りゅうぞう)先生

東京都市大学環境学部、同大学院環境情報学研究科教授。東北大学客員教授。未来の暮らし創造塾塾長。専門は環境イノベーション。 1972年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了後、民間シンクタンクを経て、2005年に東京大学大学院にて博士号取得。東北大学大学院環境科学研究科准教授を経て、2018年4月から現職。環境イノベーションプロセス研究、ライフスタイルデザイン、ネイチャー・テクノロジー創出手法、ソリューション創出手法の研究を行っている。著書に『90歳ヒアリングのすすめ』など。

Page Top