達人コラム

2022.11.01

大妻女子大学 人間関係学部准教授 田中俊之先生に聞く
男はつらい?!更年期を知って自分をケアする

女性の更年期に比べて認知度が低い「男性の更年期」。個人差はありますが、男性ホルモンの減少によって40代以降の男性なら、誰もが心と体にさまざまな不調を感じる可能性があります。社会の中心に立つ働き盛りの年代に突入した男性たちの認めたくない、相談したくない気質が、この男性更年期の情報や理解を遠ざけることも。
そんな男性たちが更年期を機に人生に向き合うをコツを、「男性学」の専門家で、男性ならではの生きづらさを研究する田中俊之先生にお話をうかがいました。

男性は自分の体の不調を見逃しがち

男性が男性更年期の知識を得ることはとても重要です。関心を持たないことが、いかに自分にとってマイナスであるか気付いてほしい。
更年期というと長らく女性の問題としてクローズアップされていたので、男性にもあるという理解が深まれば、不調を感じた時に、その症状にあてはまるかもしれないと対応ができます。男性は更年期に限らず、「自分の体の不調を見逃しがちな人間である」と、まずそこを知ることが大事です。

男はこうあるべきと植え付けられた固定概念の弊害

なぜ、男性は自分の不調を見逃しがちかというと、男性には、若い頃から不真面目、不健康を許容する文化があります。例えば、健康診断でひっかかると、「数値が悪いんだって」と仲間内で不健康自慢をする、でも、なかなか病院には行かない。若い子だったら寝てない自慢、「3時間しか寝ていない」みたいな。

私は、去年まで共学の学校で教えていましたが、字を書くことをひとつとってみても、男子は字が汚く、女子で字が汚い子は珍しい。女性は子どもの頃から、優しい・真面目・細かいことに気付けるように期待されていますが、男性は乱暴・不真面目・大雑把であることが許容されてきたように思います。転んで、けがをした時の扱いも、「男の子は泣くんじゃない」という親が、いまだにいます。

大人が知らず知らずのうちに「男の子はこうあるべきだ」と「雑」に扱うことが、その延長線上で大人になった時に、自分の体のことも「雑」に扱ってしまうことがあるんだろうと思います。 40歳を過ぎて不調を感じたら、男性にも更年期があるということを意識し、一度立ち止まって、自分のこれからを考えてみることが大切だと思います。

「生涯という視点」からワークライフバランスを見直す

これまで、日本の男性の多くは定年退職までしか自分の人生のビジョンがなく、その後どうなるかをあまり考えてこなかったように思います。100歳まで生きられるかわからないけれど、定年後20年は健康でいたいなど、「生涯という視点」から自分のワークライフバランスを見直さなければいけないと思います。本来は就職した時から考えることだと思います。とはいえ20代の方は仕事に慣れるので精いっぱいでしょうから、30代くらいから考えるといいですね。

企業の中で開かれるストレスチェックや研修、ワークライフバランス講座の他、定年後をどう生きるかといった市民講座などに、積極的に参加することも大事です。全くの第三者から言われるのが1つのポイントです。もっとも、定年退職セミナーなどは、誰が申し込んだか聞くと、自分で申し込んだ方は少なく、「妻に勝手に申し込まれた」という人がすごく多いんですけどね(笑)。

仕事一辺倒にしない、情報や居場所の見つけ方

また、仕事だけでなく、地域や家庭、自分自身に向き合う時間や場を見つけて、バランスよくやっていくことが重要になります。バブルの時に「24時間戦えますか」というCMがありましたが、職場以外に男性が居場所を感じられるところがないのは、今も変わっていないようです。地域や家庭など、自分自身がホッとできる居場所を作ることが大切です。

未婚で家族がいない、企業に所属していないなどで、心身の健康が心配な状況の方も少なくないと思います。近所で挨拶を交わす人、趣味の仲間、血縁や婚姻ではない親しい友人関係などを、日常生活の場で早くから作っておくことが大切です。SNSのつながりも、ないよりはあった方が全然いいです。

日常生活に必要な4つの居場所 1職業領域:収入を得ることを目的として社会的分業に参加 2地域領域:お互いの生活の豊かさを求めて合意を形成 3家庭領域:衣食住という基本的な日常生活行動を共有 4個人領域:社会的役割から距離を置いたプライベートな領域

人のために何ができるか、それが自分のケアに

競争社会の中で仕事一辺倒だった男性はとかく利己的な考えを元に行動せざるを得なかったと思います。でも人とうまくやっていくのは利他、「人のために何ができるか」を考えないとやっていけません。他人を思いやったり、ケアしたりすることで、雑に扱ってきた自分をケアすることに思い至るようになるのではないでしょうか。

僕の場合は育児に参加し、自分以外に守る者ができて、利己から利他に転換できました。育児でなくても、自分が住む地域の人たちのために行う地域活動などに参加する中でも得られると思います。

雑談力を高め、相談できる人になる

男性は雑談する力が弱く、人に自分のことを相談する必要性を感じないところにも問題があるように思います。会話のキャッチボールで雑談を続けるコツは、「人の話を否定しない」「人の話に割り込まない」「仕事の話をしない」が基本です。仕事の話になっちゃうと雑談になりません。

まずは、近所に挨拶ができるレベルの知り合いを増やしていくところから。例えば、近所のスポーツジムもいいですね。地域に友達ができるし、自分の体調管理ができる、しかも定額、という意味では続けやすい。いきなり深刻な悩みの相談はできませんので、そういう中から、もしかしたら気の合う人が見つかって、更年期の不調といった話もできるかもしれません。

夫婦で更年期が重なったときのケアはどうする?

生活者レポート『40代以降の不調・イライラに要注意 知っていますか?男性の更年期』にもあったように、妻しか頼る人がいないケースが多いぐらいですから、定年後の居場所を考えた場合、家庭での関係性を良くすること、夫婦が対等な関係でいられるかどうかが重要になってきます。
それには、そこに至るまでの過程が問われます。お互いある意味下り坂になってからケアしようとしても、今まで出来ていなかったことは、いきなり出来ません。当たり前だけど夫婦での会話がどれだけあったか、お互いの体調の変化にどれだけ気付けていたかが問われるときでもあります。

年配の男性は「俺を尊敬しろ、お前が変われ」という人が多いようですが、「日頃から相手に敬意を払い、自分も変わる余地を持ってコミュニケーションをとる」ーーこれに尽きると思います。僕は夫婦であっても、お互いに敬意を払い合い、変わる余地を持つのが平等な関係だと思うので、それを心がけています。

自分に向き合える時間を立ち止まって作る

いまの中高年男性の多くの方は、定年まで働くイメージで、これまで立ち止まることなく、競争競争であおってこられた。
人生はあっという間です。スポーツジムのヨガでもいいし、行きつけの喫茶店で本を読んだり、ぼーっとするのでもいい。どんな手段でも構いません、仕事以外に立ち止まって我が身を振り返る、自分に向き合う、自分とコミュニケーションできる時間と場を作ることがキーポイントです。

Profile

大妻女子大学 人間関係学部准教授 たなかとしゆき先生のお写真

大妻女子大学 人間関係学部准教授
田中俊之(たなかとしゆき)先生

1975年生まれ。博士(社会学)。男性学を主な研究分野とする。
日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎると警鐘を鳴らしている。著書に『男性学の新展開』、『男がつらいよ―絶望の時代の希望の男性学』、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など。

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