達人コラム

株式会社Laere共同代表 大本 綾さん
消費税25%、幸福度の高い国デンマーク

2018.10.05  |  生活スタイル

【達人コラム】株式会社Laere共同代表/大本 綾さん

「世界一幸せな国」と呼ばれるデンマークの消費税は25%。これは世界的に見ても上位の税率です。これだけ高い税金を払いながらも、幸福度の高い暮らしが実践できる秘訣はどこにあるのでしょう。デンマークの暮らしや社会デザインに精通されている大本綾さんに、幸せ大国デンマークの暮らし方や幸福の感じ方、その背景についてお話をうかがいました。

根底にあるのは「シェア」「賢く使う」という考え方

大本綾(おおもとあや)さん

くらしの現場レポート『消費税10%まであと1年 買い物も節約も自分の暮らしに合わせて見直しを』では、生活者の変化として「フリマアプリなどの登場もあり、モノもお金も回しながら節約するようになってきた」とありましたね。そのあたりは、日本人の購買行動が、デンマークのそれに若干近づいてきているような気がしました。

デンマークでは、自分が使わなくなったモノは誰かに使ってもらおうと、Facebookに情報をアップしているのをよく見かけます。一方で、自分が必要なモノがあれば、まず周りに持っている人がいないか探します。税も含め、何を購入するにしても、「本当にそれだけのお金を払う価値があるのか?」ということを常に意識している人は多いと思います。

その姿勢は、ライフスタイル全体にも表れています。デンマークでは、19世紀に世界に先駆けて近代民主主義の基礎となる民衆教育活動が活発化し、70年代にはヒッピー・ムーブメントやコミューン運動の流行で、コーハウジングという共同生活の形式が広まりました。今でも多くの人が、複数の個人や家族で集まって共同生活を送っています。そこでの暮らしは、居住スペースは個人や家族単位でも、食堂や洗濯室などは共有スペース、食事作りは当番制にしていることが多いです。また、会社の同僚とフードクラブみたいなものを作って、メンバーから集めたお金で食材をまとめて買い、当番がランチを作ることもめずらしくありません。

洋服は、「古着屋さんで掘り出しものを見つけた!」というのが、若い人たちの話題になったりしますし、メンバーフィーを払って物々交換するようなシステムのお店もあります。
安くできる工夫をして、みんなで楽しみながら消費する。たくさん買うことよりも、あるものをいかに賢く活用するかというところに、生活の美意識があるような気がします。

市民意識の高さが、税金の納得感につながる

大本綾(おおもとあや)さん

「お金を賢く使って、いかに幸せになれるか」という哲学のようなものが、デンマーク人の中には根付いていて、それは社会政策とも相互に影響しあっているようです。

デンマークは消費税25%で高額なのですが、教育費や医療費は無料ですし、失業しても最大で前職の給料の9割が保証されます。納税者へのリターンが日常生活の中で実感しやすいので、国民は高い税金に納得している雰囲気があります。

税金が高いか低いかというよりは、富の分配がうまくされているかという点に国民の意識は向いていますし、自分たちが支払ったものがどのように活用されているかについては、とてもシビア。活発にディスカッションもします。デンマーク大使館が昨年末に発表した情報によると、デンマークの国政選挙では投票率が8割を下回ったことがないそうです。こうしたところにデンマーク人の政治的な意識の高さが表れていると思います。

選挙権は18歳から与えられますが、小学生くらいの子どものころから政治的関心は育まれています。例えば、男性も育児するのが当たり前のデンマークでは、労働時間は週37時間と定められていることもあり、大抵4時には帰宅し、夕食は家族一緒に食べるのが一般的。その食卓で話題にのぼるのは、学校の話だけでなく、宗教や政治、親の仕事の話、今起きているニュースなど。学校でも家庭でも、政治的トピックをタブー視しないし、活発にディスカッションする土壌があります。

創意工夫できる人が“かっこいい”

大本綾(おおもとあや)さん

充実した社会保障でベーシックなニーズは満たされているので、自分に合った職業を追い求めて、ドラスティックに転職する人は多いです。例えば、農業から外務省の職員に、会社員から看護師に転向するなど。ただし、職業や出身校、肩書など社会的ステータスをひけらかしたりするようなことはしません。それは、“ジャンテロウ”(下記参照)と呼ばれる精神的模範が浸透しているからかもしれません。

デンマーク人はモノやキャリアではなく、精神的なものに幸福感を求める傾向があるようです。モノを多く持つことや、高級ブランドをありがたがる風潮もありません。あえて欲求があるとすれば、家具や家の中のことでしょうか。「家の中は、自分の魂を表すものだ」と語るデンマーク人は結構います。部屋に飾ってあるものや、家具の選び方が話題にのぼることは多いですし、誰もがこだわりを持っています。自分や家族へのプレゼントで椅子を買ったりする人も多いです。

一般的に、物を購入する際は、4R(リデュース=削減、リサイクル=再資源化、リユース=再利用、リフューズ=断る)の考え方が基本。家具に関しても、アンティーク店を探し回って安く買う、家族から受け継ぐ、自分で作る(DIY)など。そのように創意工夫して暮らしている人が、“かっこいい人”と認識される社会的雰囲気がありますね。

Jante Law(ジャンテロウ)
デンマークのアクセル・サンダモセ氏が1933年に考案したコンセプト。
「自分が何かすごい人間だと信じるべきではない」という考え方は、デンマークの国民性と深く結びついているようです。
 
1. Don’t think that you are special.
 (自らを特別であると思うな)
2. Don’t think that you are of the same standing as us.
 (私たちと同等の地位であると思うな)
3. Don’t think that you are smarter than us.
 (私たちより賢いと思うな)
 
など11の項目があります。

暮らしの中に幸せを見つけるコツ

大本綾(おおもとあや)さん

多くのデンマーク人が求める幸福のカタチは、「自分の好きなこと、好きな仕事を探求し、好きな人たちに囲まれて日常生活を豊かにする」ことかと思います。それを可能とする社会制度があるとはいえ、彼らは「自分はどんな人間で、どうしたら幸せな気分になるか」ということをよく考えています。こうした考えは、デンマークが輩出した哲学者セーレン・オービエ・キルケゴールの思想にも表れています。「どうしたら人間らしくなれるか、どうしたら自分自身になれるか」。こうした問いを持って生き方を振り返ることは、日本人にも参考になるのではないでしょうか。

まずは、「自分が幸せと感じたり、心が安らいだりするのは、どんなときか」を振り返ってみてください。そして、それを内面にとどめておくだけでなく、話題にして他者と共有することが肝心です。

より多様な人々と考えを共有し、学び合い、教え合うことが、人生を豊かにする。そういったメンタリティーを持つことが、とても大事なのではと思います。それと増税に向けて自分の暮らしを考える、お金のやり繰りを考えるというのも一つですが、政治に対して意見できるような市民意識が育つ環境みたいなものを作っていくことも必要なのだと思います。

Profile

株式会社Laere共同代表・クリエイティブプロセスデザイナー 大本 綾(おおもとあや)さん

株式会社Laere共同代表/クリエイティブプロセスデザイナー
大本 綾(おおもとあや)さん

大学卒業後、外資系広告代理店で大手消費財メーカーのブランド戦略、コミュニケーション開発に携わる。その後、デンマークのハイブリッド・ビジネス・デザインスクール、KAOSPILOTに初の日本人留学生として受け入れられる。起業家精神とリーダーシップを中心に学び、デンマーク、イギリス、南アフリカ、日本で社会や組織開発のプロジェクトに携わった。卒業後に株式会社Laere(レア)を設立。日本とデンマークを結び、国籍や年齢を超えて最高の学びをデザインする教育デザインファームで、人材育成、組織開発と同時に社会的問題に取り組む。ダイヤモンド・書籍オンラインの連載記事『幸福大国デンマークのデザイン思考』の著者。

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