達人コラム
2014.12.09 | 子育て
子どもに手洗いなどの生活習慣を身につけさせるためには、親子で楽しくコミュニケーションをしながら、一緒に行うことが大きなポイントです。そして、親子のスキンシップは、子どもの心の成長にも大きな影響を与えます。今回は、肌のふれ合いが心に与える影響を研究する、臨床発達心理士で桜美林大学教授の山口創先生に、スキンシップの効用と取り入れ方を教えていただきました。
『くらしの現場レポート:幼児の手洗いはママがサポート ほめたり歌ったり一緒に楽しく手洗い』で、お母さんがお子さんの手洗いのためにさまざまな工夫をしている実例を報告していただきましたが、わが家でも見習いたくなるほど、すばらしいと思いました。一緒に歌を歌ったり、楽しい雰囲気をつくりながら生活習慣を身につけさせていくやり方は、大いに賛同できます。
お母さんが楽しそうに喜んでくれることは、子どもにとっては大きな励みになります。また、できたらほめてあげることも大切です。最初のうちは「おやつの前に手を洗ったらほめられて、おやつももらえた」など、子どもがうれしくなるような流れを作ると良いでしょう。行動理論の専門用語で「強化」と言いますが、「それ」を行うといいことが起こるという経験をくり返すと、その行動が強化されて、嫌がらずにだんだん自発的にできるようになっていきます。外から帰ったら靴を脱ぎ、洋服を着替えて、手を洗っておやつ、など一連の流れを幼少期にルーティン(決まりきった作業)にしてしまえば、「外出から帰ったら手洗い」ということが習慣化して、大きくなってからも継続してできるようになるでしょう。
まだひとりでは手洗いができない幼いお子さんを抱きかかえてサポートしたり、やり終わった後に「よくできたね」と手をとってぎゅっと抱きしめてあげたり、肌をふれ合わせるスキンシップをしながら行うのも、子どもの成長にとってとても重要なことです。
スキンシップを積極的に行うと、脳内で作られる「オキシトシン」という物質が出やすくなることが研究によってわかっています。このオキシトシンは「絆ホルモン」ともよばれ、愛着関係を深めたり、ストレスを軽くしたり、情緒を安定させたりする働きがあります。スキンシップをしているときには、親子双方のオキシトシンの分泌が促進されるので、お互いの距離も縮まりますし、子どもだけでなく親のほうにも、癒されたり血圧が下がったりなど精神面と健康面でさまざまな良い効果をもたらします。
幼少期のスキンシップが不足すると、オキシトシンが出にくい脳になり、情緒不安定になったり、感情のコントロールがうまくできずに、切れやすくなったりすることもあります。逆に、スキンシップをたっぷりすれば、オキシトシンが出やすい脳になり、親子間だけでなく他人に対しても親近感が持てたり、信頼することができたりなど、人間関係を豊かにします。
オキシトシンはスキンシップ開始から10分くらいすると出てくるので、赤ちゃんのいるお母さんには、10分間の「ちょい抱き」というのをおすすめしています。少し大きくなったお子さんなら10分間のふれ合いタイム。1時間に10分でいいので、子どもと濃密に関わり合う時間をつくってあげてください。そうすることで、お母さんと離れているときでも、子どもは「自分はママに愛されている」「ママはまた戻ってくるから大丈夫」という確信が持てるようになり、ひとりの時間も落ち着いて過ごせるようになっていきます。オキシトシンは、ずっとべったり一緒にいれば高まるというものではないので、短時間でも濃密に関わることが重要なのです。
また、オキシトシンの出方には性差があります。女の子(女性)のほうが出やすく、男の子(男性)は少し出にくい傾向にあるので、男の子には少し意識的にスキンシップを取り入れてあげると良いでしょう。さらに、女の子はやさしいふれ合い、男の子はこちょこちょ遊びなど、少し刺激的なスキンシップのほうが出やすいという報告もあります。男の子が喜ぶ遊びのツボはお父さんがよく知っていると思いますので、お父さんも積極的に子どもとのスキンシップに関わりましょう。
小さい頃はたくさん肌をふれ合わせたほうが将来自立しやすくなりますが、いくつになっても赤ちゃんの抱っこのようなスキンシップでは逆に自立の妨げになることもあるので、少しずつ距離を離しながら、年齢に応じてふれ合い方を変えていく必要があります。
また、オキシトシンの分泌は心理状態とも関連していて、「やらなくちゃ」という義務感にかられてふれ合うと出にくくなってしまいます。ですから、「今からスキンシップするぞ!時間をつくるぞ!」と構えすぎずに、日常生活の中で自然に行えると良いでしょう。たとえば、洋服を着替えさせるときに背中を軽くさすりながら着せたり、お風呂でもササッと機械的に子どもの体を洗うのではなくて、泡で楽しく遊んだり……。生活習慣を身につけさせていく中にも、親子のスキンシップを楽しめるチャンスはいろいろあると思いますので、さりげなく取り入れてみてください。
Profile
早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は、健康心理学、身体心理学。聖徳大学人文学部講師を経て、現職。主な著書に『幸せになる脳はだっこで育つ。強いやさしい賢い子にするスキンシップの魔法』、『子供の「脳」は肌にある』、『皮膚感覚の不思議』など。
\ 読者から寄せられた感想 /
まず褒めるというのがとても大切だと改めて感じました。スキンシップが子どもの成長に欠かせないことも改めて感じたので、実践していきたいです。(29歳・女性)
「ちょい抱き」のコラムは非常に参考になりました。理由も交えて、子どもと関わることの大切さがわかりました。(25歳・男性)
絆ホルモンがいっぱい出るようにたくさん触れ合いたいです。印刷して夫にも見せました。今は冷蔵庫に貼っています!(30歳・女性)