達人コラム

大正大学准教授 田中俊之先生
働き続ける男性にストレスケアの処方箋を

2017.11.14 | 働き方、おとなの男性

【達人コラム】慶應義塾大学教授 夏野剛先生

働き方改革が求められる一方で、職場でのプレッシャー、イクメン疲労など、男性はさまざまな悩みに直面しています。男性の生きづらさが注目される今、男性だからこそ抱えてしまう問題を扱う「男性学」の研究者、田中俊之先生に日本の男性の働き方についてお話をうかがいました。

男性は働く以外の選択肢がないワンパターン人生!?

くらしの現場レポート:職場でのわずかな時間も活用 「ためたくない!」男性の疲労対処法』で、30〜50代男性は「朝から疲れている」という声がありましたが、僕は、ビジネスマンが朝起きて会社へ行きたくないと考えるのは正常な思考回路だと思っています。なぜなら、日本の男性は「働いているのが当たり前」で、学校を卒業したら働く以外の選択肢がないという社会構造があるからです。男性は「外で働いていないとおかしい」というイメージが常に付いて回ります。

40代になって、この仕事に向いていないかもと気づいても、住宅ローンや子どもの養育費を抱えてもう引き返せないし、当の本人にも仕事の継続以外の発想がないので、何とかその場に居続けようとします。大人の男の人はちゃんとしていると思われているので、弱音を吐いたり悩みを打ち明けることもできず、何でも一人で抱えがちです。

こうした状況でこのまま定年まであと20年以上働かなければいけない、となったら、会社に行きたくないと思うのは無理もないこと。この恐ろしさを皆さんにも少し想像してもらえるといいかと思います。『くらしの現場レポート』は、男性がいかにワンパターンの人生を強いられているかをよく表していると感じました。

田中俊之先生

「経済力」も「イクメン」も求められる二重拘束

近年、「女性が輝ける社会」「女性活躍推進」「働き方改革」などの政策が打ち出され、男性も女性も多様な働き方が提唱されています。けれども、第1子出産後に仕事を継続する女性は今でも4割くらいですし、男性の育児休業取得率もわずか3%台です。

そこには女性の給与は男性の約7割という、男女間の賃金格差の問題が立ちはだかっています。家計を維持して家族を養うためには、給与の高い男性が働かざるを得ないのが現実です。特に高度経済成長期に、多くの人が会社に雇用され、男は職場で仕事、女は家庭で家事育児という「性別役割分業」が定着しましたが、結局、日本は今でもこの構造に支配されているのです。

そうした中で、「男性も家事育児を」と「イクメン」であることも求められますが、無職のイクメンや収入を減らしてまでも家事育児に参加することは歓迎されません。つまり、長時間労働が改善されず、お金は稼いで、でも早く帰ってきてというダブルバインド(二重拘束)状態に陥り、まじめな人ほど板挟みになってモヤモヤを抱えることになります。

もちろん、男性だけでなく女性だって大変です。「ワークライフバランス」を見直そうと言われても単純に変えられるものでもなく、今はまだ「目指しましょう」というかけ声と現実がすごくずれていると言わざるを得ません。

田中俊之先生

自分なりの息抜きを見つけ家事分担の効率化も

くらしの現場レポート』で、「ストレスや疲労の要因のほとんどは仕事」とありましたが、男性たちのしんどさは個人の問題だけでなく、多くは社会構造の問題です。僕は日頃、男性が働き方を見直し、多様な生き方をすることを提唱していますが、社会や意識が変わるには時間がかかるし、自分が思うように変わるとも限りません。そこで、ストレスを乗り切るためには、自分に効く「処方箋」を見つけることを勧めています。

◆仕事の合間の簡単な息抜き方法を見つける
僕の場合は、研究室に好きな漫画やフィギュアを置いてときどき手に取ったり、疲れたときやイライラしたときは軽く体を動かして発散します。出張先では息子へのお土産にご当地靴下を買うことにはまっていて、妻には「もういらない」と言われつつも、出張の楽しみになっています。ささやかですが、自分にとって面白いと思えるものを見つけることは処方箋になるのです。

ご当地靴下

ご当地靴下の一部(写真提供:田中俊之先生)

◆三種の神器の有効活用
我が家は共働きで、妻は育休中ですが、家事分担については「共働きの三種の神器」と呼ばれる、乾燥機付き洗濯機、食器洗浄機、ロボット式掃除機は必需品。家事ハラスメント問題でお互いにイライラするくらいなら、三種の神器を夫に選ばせて使いこなしてもらえばいいのです。コミュニケーションが取れていれば、お互いを思いやる気持ちも生まれて、家事分担もうまくいくものです。

◆楽しんで打ち込める趣味を持つこと
趣味を持つことで、そこから自然に仲間もできますし、違う価値観に触れることができ、仕事以外の評価も得られます。無駄に見えても本人にとっては価値があるものもたくさんありますから、やっていることが理解できなくてもやさしく認めてあげてください。

男性は今の仕事中心のワンパターン人生に疑問を持つことが一番重要なことです。とはいえ、明日も仕事があるわけですから、現実につぶされないように、自分なりのストレスケアの処方箋をぜひ見つけて取り入れてください。周りの人にも、働き続ける男性のつらさを分かってもらえたらと思います。

Profile

大正大学 心理社会学部人間科学科准教授 田中俊之(たなかとしゆき)先生

大正大学 心理社会学部 人間科学科 准教授
田中俊之(たなかとしゆき)先生

1975年生まれ。武蔵大学人文学部社会学科卒。同大学大学院博士課程単位取得退学。博士(社会学)。学習院大学研究員、武蔵大学社会学部助教などを経て、2017年から現職。専門は男性学、キャリア教育論。著書に『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』、『<40男>はなぜ嫌われるか』、『男が働かない、いいじゃないか!』など。

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