2025.05.29 New
これまで全然意識していなかったことでも、妊娠がわかった途端に、おなかの赤ちゃんへの影響が気になるママは多いようです。赤ちゃんの健やかな成長を守るために、妊娠初期に気をつけたいことを詳しく解説します。
監修した専門医
産婦人科医師 (医学博士)
善方 裕美 先生
よしかた産婦人科院長
横浜市立大学産婦人科客員准教授
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日本産科婦人科学会専門医、女性ヘルスケア専門医、日本骨粗鬆症学会認定医。大学病院で臨床研究を通して若手医師の育成に携わると同時に、国際出産イニシアティブ(ICI)に関東圏で初めて認証された分娩施設の院長も務める。女性が本来持っている産む力を活かせるように、そして、ママと赤ちゃんご家族にとって、幸せな出産と育児になるように、安全で自然なお産を守り、産後ケアの充実に取り組んでいる。家庭では3人娘の母。
薬の中には妊娠中に飲んでも問題ないものもありますが、影響を及ぼすものもあります。特に妊娠4~12週ごろは赤ちゃんの臓器がつくられる時期なので、注意が必要です。
ただし、ママの病気のために服用している場合は続けるほうがよい場合もあるので、薬を飲む場合や薬が欲しい場合は産院に確認するようにしましょう。
また、レントゲン(X線)は、歯の治療で受ける程度の放射線量であれば心配ありませんが、必ず検査前に妊娠していることを伝えましょう。
解熱・鎮痛薬として広く用いられ市販もされているアセトアミノフェンは、症状があるときだけの使用であれば、比較的安全な薬です。ただし、自己判断で市販薬を服用するのはやめましょう。妊娠経過に関わる病気が原因で痛みが起きている場合もあるので、産院で診察を受けることが大事です。
また、湿布も赤ちゃんに影響を及ぼすものがあるので、産院で相談してから使用しましょう。
便秘薬の中には子宮の収縮作用を持つものや、骨盤内の充血作用で流産のリスクを上げてしまうものもあるので、安易に市販薬を使用せず産院で処方してもらいましょう。妊婦さんによく使われるのは、便をやわらかくする働きがある酸化マグネシウムです。酸化マグネシウムで便秘が改善しない場合は、腸を動かすタイプの便秘薬が使われます。
花粉症などのアレルギーを抑える薬も、妊娠中に使用できる薬があります。点鼻薬、点眼薬も使用可能です。使用したい場合は産院で相談し、処方してもらいましょう。
歯の治療で受けるレントゲンなど通常のレントゲン検査であれば、赤ちゃんへの影響は心配しなくても大丈夫です。ただし、検査の前に医師に妊娠していることを伝えましょう。
妊娠がわかる前に受けたレントゲン検査に関しても、通常の範囲内であればほぼ心配はありません。受けたX線の量が100ミリグレイ以下であれば胎児への影響はないとされており、胸のレントゲン検査は1枚で0.01ミリグレイ以下のため問題ありません。
ただし、最終月経以降にレントゲン撮影を大量に行った場合など心配なときは、産科医にその詳細を伝えて相談しましょう。
飲酒やたばこは赤ちゃんの発育によくない影響を及ぼします。また、カフェインを大量に摂ると血管が収縮し、胎盤への血流が悪くなります。妊娠がわかったときから、これらは控えるようにしましょう。
アルコールは赤ちゃんの形態異常、脳萎縮、発育不全などの原因になるので、禁酒しましょう。なお、妊娠判明前に飲んでいたアルコールが赤ちゃんに影響することはありません。
たばこは、赤ちゃんの発育に影響するリスクがあります。また、周りの人が吸う受動喫煙でも悪影響がありますし、非燃焼・加熱式たばこや電子たばこも赤ちゃんに影響が出る可能性があります。妊娠を考え始めたら、夫婦共に禁煙しましょう。なお、過去の喫煙が赤ちゃんに影響することはありません。
カフェインには血管収縮を引き起こす作用があるので、できるだけ控えましょう。コーヒーなら1日1~2杯までなら許容範囲ですが、妊娠を機にカフェインレスの飲み物に切り替えるのがおすすめです。
カフェインの多い飲み物ランキング(浸出液100ml当たりに含まれるカフェインの量)
妊娠中に安心して飲めるもの
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妊娠中にママが細菌やウイルスなどに感染すると、赤ちゃんに影響したり、ママ自身の症状が重症化したりすることがあるので、これまで以上に注意が必要です。
感染症予防の基本は、手洗い・うがい、マスク、人混みを避けることです。ママだけでなく家族みんなで予防に努めましょう。病気によっては妊娠中も予防接種可能なものがあるので、産院に確認してみましょう。
また、感染症にかかった疑いがある場合は、まず産院に相談しましょう。
はしか(麻疹)、風疹、水ぼうそう(水痘)、サイトメガロウイルス、リンゴ病(伝染性紅斑)は、妊娠中に感染すると赤ちゃんの発育に影響するリスクが高い感染症です。そのため、初期の妊婦健診で、麻疹、風疹、水痘、サイトメガロウイルスなどの抗体価検査を行います(検査項目は必須ではないので、実施項目は産院によって異なります)。抗体価検査とは、その病気に対する抗体があるかどうかを調べる検査です。
妊娠中は麻疹、風疹、水痘の予防接種を受けることができません。これらの病気に対する抗体価が低い場合は、家族にも協力してもらいながら、感染しないように厳重に注意する必要があります。
市販の風邪薬などには、赤ちゃんに影響を与える可能性のある成分が含まれていることがあります。単なる風邪の場合でも、薬が必要な場合は産院で処方してもらいましょう。
妊娠中にインフルエンザにかかった場合、症状が重くなりやすい傾向があります。ただし、インフルエンザの予防接種は妊娠中も可能なので、流行時期に入る前に接種を検討しましょう。
インフルエンザにかかったことが疑われる場合は、できるだけ早く産院に電話したうえで受診しましょう。妊娠中も服薬できる抗インフルエンザ薬を処方されることが多いでしょう。
新型コロナウイルスに感染した場合、赤ちゃんに影響があるかどうかは今のところ不明です。ただし、妊娠中に発症するとママの症状が重くなりやすい傾向があるので、予防は大切です。
予防接種に関しては、妊婦への接種が可能なワクチンもありますが、接種するかどうかは主治医とよく相談して決めましょう。
もし、新型コロナウイルスに感染した疑いがある場合は、まず産院に電話をしましょう。治療薬の使用は、妊婦さんの持病の有無や症状などを考慮して、医師が判断することになります。
妊娠初期は体調が安定しないため、無理は禁物です。立ちっぱなし、自家用車・電車やバスなどでの長時間移動、深夜までの仕事などを避け、できるだけリラックスして過ごしましょう。また、食事をしっかり摂ること、体を冷やさないことも大切です。
妊娠中期に入って体調が安定するまで、性交渉はできるだけ控えましょう。性交渉をする場合は、感染症予防のためにコンドームを使用し、ソフトな行為を心がけて。おなかが張ったり出血したりした場合は、すぐに中断してください。
自転車はサドル部分が子宮に近いため、振動が直接子宮に伝わってしまうので、おなかの張りや出血を招く可能性があります。また、妊娠中は体のバランスが変わるので、思わぬ転倒につながることもあります。自転車はできるだけ乗らないようにしましょう。
どうしても乗らないといけないときは、足がしっかりつく高さにサドルを調節し、タオルなどをサドルに置いて保護し、速度を落として安全で平坦な道を選びましょう。
自宅で、頭部や背中など心地よい程度にマッサージすることは、リラックスするうえでもおすすめです。ただし、マッサージ店や整体院などで施術を受ける場合は、子宮などを過度に刺激してしまう可能性もあるので、注意が必要です。
専門知識があり、妊婦の扱いにも慣れた信頼できる施設で受けましょう。産院で実施していたり、おすすめの施設を紹介してもらえたりする場合もあります。
外出先で体調が悪くなったときなどに備えて、外出時は母子健康手帳と産院の診察券を携帯する習慣をつけましょう。また、感染症予防の観点から、できるだけ人混みは避けましょう。
妊娠初期は突然の出血が起こることもあります。妊娠初期の旅行はできるだけ控え、体調が安定しやすい妊娠中期以降、主治医に相談してからにしましょう。
妊娠中もシートベルトはきちんとつけましょう。正しく装着すれば、おなかを圧迫することもありません。
また、妊娠経過が順調であれば運転をしてもかまいませんが、今まで以上に安全運転を心がけて。ただし、眠気があるときや体調が優れないときは、運転を控えましょう。
体調が安定し妊娠経過が順調であれば飛行機に乗ってもかまいませんが、必ず産院の主治医に確認しましょう。飛行機の予約や搭乗時には、妊婦であることを必ず伝えておきます。
また、妊娠中は血栓症になりやすいので、「エコノミー症候群」のリスクが上がります。搭乗中はこまめに水分を摂り、手足を動かすようにしましょう。
基本的には妊娠中、温泉に入っても問題ありません。ただし、妊娠中は立ちくらみ(起立性低血圧)が起こりやすいので、長湯は避けましょう。また、転倒にも気をつけてください。
つわりがあるうちは、「食べられるものを食べられるときに」が基本ですが、食品の中には感染症のリスクがあるものや、過剰に摂取すると赤ちゃんの発育によくない影響を与えたりするものもあります。
キンメダイやメカジキ、クロマグロなど大型の回遊魚に含まれるメチル水銀は、赤ちゃんに影響を及ぼす心配があります。ただし、週1回80g程度を食べるぶんには問題ないでしょう。
一方、サバやアジなどはメチル水銀の心配がなく、赤ちゃんの脳や神経の発達に大切なDHAとEPAが豊富なので、妊婦さんにおすすめの食材です。
メチル水銀の心配がなく、積極的に摂りたい魚
キハダ、メジマグロ、ツナ缶、サケ、アジ、サバ、イワシ、サンマ、タイ、ブリ、カツオ
生ハムやスモークサーモン、加熱殺菌していないチーズ(ナチュラルチーズ)などには、リステリア菌が存在している場合があります。妊娠中は感染率が非妊娠時の20倍に上がると言われ、ママがリステリア感染症を発症すると、おなかの赤ちゃんに影響する可能性があるため、妊娠中はこれらの食品を避けたほうがよいでしょう。どうしても食べたいときは加熱調理しましょう。
妊娠初期にビタミンAを大量に摂取すると、赤ちゃんの先天異常に影響する可能性があります。うなぎやレバーなどビタミンAが豊富な食品は控えめにしましょう。ただし、1~2回食べただけで影響が出るわけではありませんので、そこまで神経質になる必要はないでしょう。
トキソプラズマは寄生虫の一種で、ママが感染すると赤ちゃんの発育に影響する恐れがあります。感染源は、生肉や猫の糞便などです。肉はよく加熱して食べるようにしましょう。
また、猫の糞便が混ざっている恐れもあるので、ガーデニングをする際は素手で行わないなどの注意が必要です。
妊娠中は免疫力が下がるので、妊娠前よりも食中毒のリスクが高くなります。刺身や寿司などを食べる際は衛生管理が充分かどうかに注意しましょう。
昆布などに多く含まれるヨウ素を大量に摂取すると、赤ちゃんの甲状腺機能低下を招く心配があります。しかし、通常の量を食べるぶんには問題ありません。
ひじきには無機ヒ素が含まれているため、妊娠中は注意が必要という見解もありますが、毎日大量に食べ続けるのでなければ問題ありません。むしろ、ひじきには食物繊維や鉄分が豊富なので、妊娠中におすすめの食材です。
妊娠中だからといって、辛いものを控える必要はありません。ただし、辛いものを摂りすぎると、胃の粘膜が荒れたり、痔が悪化したりする恐れはあります。
およそ30~50年前と比べ、今は食のグローバリズムが進み日本に居ながらにしてめずらしい食材を楽しめるようになっています。しかし、日本食は日本文化のひとつであると同時に、健康食として世界から注目されています。赤ちゃんが来てくれたことをよいきっかけにして、食生活を見直してみましょう。
「妊娠初期の食事」というと、あれもダメ、これもダメと禁止事項ばかりになってしまいがちなのが悲しいところです。しかし、ダメな食材は知識として備えて、それにとらわれすぎず、温かい炊き立てご飯に、具沢山・減塩みそのお味噌汁、焼き魚、お野菜とお豆の煮物など、心と身体に優しいお食事を食べましょう。ママが美味しく楽しく食事できることが赤ちゃんへのご褒美になり、家族の健康にもつながります。
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胎盤が完成する妊娠中期までは、無理な運動をしないことが大切です。安産のために適度な運動を行うとしても、始めるのは妊娠中期以降にしましょう。妊娠初期は、ストレス発散のためのウォーキング、緊張した体を緩めるストレッチなどにとどめ、積極的な運動はまだ行わない時期です。
今後、妊娠経過が進むにつれ、腰痛・尿もれなどの不調が出やすくなります。それを予防する意味でも、インナーマッスル(体の深層部にある筋肉)を動かすストレッチはおすすめです。ただし、無理なストレッチはよくありません。体が伸びて気持ちよく感じる程度に行いましょう。
また、ウォーキングも手軽にできる運動です。つわり症状が落ち着いていれば、無理のない範囲でゆっくり歩くのもよいでしょう。
プールでのスイミングもヨガも、マタニティ向けのものが安心です。どちらも妊娠中期以降に始め、専門指導員のもとで行うことをおすすめします。
妊娠中は、妊娠前に比べて肌が敏感になる人もいます。今まで問題なく使用していた薬剤でかぶれたり、においで気分が悪くなったりすることもあるので、美容関連の施術を受けるときは注意しましょう。
ヘアカラーやパーマの施術は、つわり症状が落ち着いてからのほうがよいでしょう。妊娠前よりも肌がかぶれやすいので、薬剤のパッチテストを事前に行ってもらいましょう。また、施術中に気分が悪くなったらすぐに伝えましょう。
体調が急変したときなど、医師は爪の色で健康状態を判断することがあります。また、ネイルをしていると血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターが正しく作動しない恐れもあります。ジェルネイルなどすぐに拭き取れないものは妊娠中控えましょう。
電気シェーバーや脱毛ワックスなどが赤ちゃんに影響することはありません。ただし、妊娠中は肌が敏感になっているので、脱毛したい場合はできるだけ肌に刺激の少ない方法を選びましょう。
クリニックやサロンで行うレーザー脱毛は、妊娠中の施術はNGになっているところが多いようです。
フェイシャルエステ程度ならかまいませんが、全身エステはおなかの赤ちゃんへの影響が心配なのでやめましょう。また、妊娠中は避けたいアロマオイルがあることも覚えておきましょう。
妊娠全期を通じて避けたいアロマオイル
セージ、フェンネル、ヒソップ、バジルなど
妊娠初期はつわりなどで、思うように働けないこともあるでしょう。頑張りすぎると切迫流産になることもあるので無理は禁物です。上司にだけでも早めに伝え、無理のない働き方を心がけましょう。また、おなかが張ったら休憩しましょう。
妊娠初期には、「いつ妊娠を報告するか」「仕事内容は今のままで大丈夫か」など、色々悩ましいと思いますが、信頼できる上司に早めに相談しておくのも一つの手です。
体調に変化がなければ仕事自体は続けても大丈夫ですが、通勤ラッシュ、重い物を持つ・運ぶなどの重労働、長時間の立ち仕事は避けましょう。また、体を冷やさないようにし、デスクワークの人はときどき体を動かして血行を促すことを意識しましょう。
放射線や特殊な薬剤(有機溶剤など)に触れる可能性のある仕事の人は、妊娠したらすぐに職場や産科医と相談し、安全な仕事内容に変えてもらうようにしましょう。
保育士や幼稚園の先生など、子どもと触れる機会の多い仕事では、こまめな手洗いやマスク着用などをより意識して、感染症対策を徹底しましょう。
とくに、妊娠20週未満に感染すると赤ちゃんの発育に影響する恐れがあるリンゴ病(伝染性紅斑)、幼児の尿や唾液から感染することの多いサイトメガロウイルスは要注意です。
母子健康手帳についている「母性健康管理指導事項連絡カード」は、重いつわりや切迫流産などで療養が必要と医師が判断した場合に、医師が記入して職場に渡すことができるカードです。
このカードを使うことで、医師からの診断や指導事項などを的確に職場に伝えることができます。体調不良で職場に配慮してもらいたいときに活用しましょう。
安定期に入るまでは不安に感じることも多いかもしれませんが、そんな時期だからこそ、リラックスを心がけたいものです。
家庭内では、家事の分担を減らし、ママがやらねばならないことは最小限にしましょう。時間に余裕を作るように心がけ、妊娠初期に気をつけることを理解したうえで、「楽しい」「心地いい」「わくわくする」と感じられるように過ごしましょう。
天気の良い休日にご家族と公園に散歩し、「赤ちゃんが生まれたらここに来ようね!」など、ゆっくり会話する時間を持てるといいですね。
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