専門医に聞く!マタニティお悩みQ&A
2025.09.10 New
#マイナートラブル #産後ママのケア
妊娠後期からむくみがちでしたが、出産後は足がパンパンにむくんで、まるで象の足みたいです。このまま足のむくみは治らないのでしょうか?むくみをなくす方法が知りたいです。(産後2週間)
回答した専門医
産婦人科医師 (医学博士)
善方 裕美 先生
よしかた産婦人科院長
横浜市立大学産婦人科客員准教授
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日本産科婦人科学会専門医、女性ヘルスケア専門医、日本骨粗鬆症学会認定医。大学病院で臨床研究を通して若手医師の育成に携わると同時に、国際出産イニシアティブ(ICI)に関東圏で初めて認証された分娩施設の院長も務める。女性が本来持っている産む力を活かせるように、そして、ママと赤ちゃんご家族にとって、幸せな出産と育児になるように、安全で自然なお産を守り、産後ケアの充実に取り組んでいる。家庭では3人娘の母。
「むくみ(浮腫)」とは、皮下組織に余分な水分がたまった状態です。妊娠中は女性ホルモンの影響で皮下組織に水分がたまりやすくなるうえ、大きくなった子宮に圧迫されて下半身の血液やリンパ液が上半身に戻りにくくなるので、むくみが出やすくなります。
とくに出産後は、ママの体内の水分バランスが一気に変わるので、一時的にむくみが悪化しやすくなります。クッションなどで足を高くして寝るようにし、マッサージで下半身の血流を促すなど、対策をしましょう。ひどい場合には、むくみを解消する漢方薬もあるため、主治医に相談してください。
産後のむくみは一時的なもので、むくみのピークは産後2~3日、その後2週間ほど続くことが多いですが、そのあとは次第に解消していき、産後1カ月健診のころには元の状態に戻ることが多いでしょう。
産後は、分娩時の出血や産後すぐから出始める悪露(おろ:子宮壁からの出血や粘膜などが混ざったおりもの)でたんぱく質が失われ、体内の水分バランスが崩れやすくなります。
また、その他の要因も重なって足がむくみやすい状態です。 むくみをスムーズに解消するためには、クッションを使って足を高くして寝る、マッサージで下半身の血流を促すなどむくみ対策を心がけることが大切です。
むくみと、産後に体重が増える「産後太り」は違います。産後太りは下腹部やおしり、太もも、二の腕、あごなどに脂肪がつくことで体重が増えます。
しかし、むくみの場合は、余分な水分が増えることで体重が増えることはあっても、脂肪が増えるわけではありません。
むくみは心臓から遠い足や手の指に出やすく、朝よりも夕方に症状がひどくなるのが産後太りとの違いのひとつです。
こんな場合は、足のむくみ
むくみが起こる根本的な原因は、静脈の流れが悪いため水分が戻りきらず、皮下組織にたまってしまうことです。
産後は、体内の水分バランスが崩れやすいことに加えて、静脈の流れが悪くなりやすいので、多くのママが足のむくみを経験します。
むくみを起こしている原因には次のようなものがあります。
血液中にあるアルブミンというたんぱく質には、血管内外の水分調整をする働きがあります。
分娩時の出血や産後1カ月近く続く悪露によって、アルブミンが多く失われると体内の水分バランスが崩れ、むくみやすい状態になります。
妊娠中に分泌が増えていた女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンは、産後、急激に減少します。
エストロゲンには体内に水分をためこむ働き、プロゲステロンには水分を体外に排出する働きがあります。こうしたホルモンバランスの変化によって体内の水分バランスが崩れ、むくみが生じやすくなります。
妊娠中、ママの体内の血液量は最大で1.5倍ほどに増量していましたが、産後4~6週間かけて妊娠前の量に戻るといわれています。また、出産直後は羊水の排出によって体内の水分が失われます。
これらの血液量や水分量の変化が起きる際、体内の水分不足を補おうとして水分をためこもうとする力が働き、むくみが現れることがあります。
リンパには余分な水分や老廃物を運び出す働きがあります。つまり、リンパの流れが悪いことも、むくみの原因になります。
分娩時に赤ちゃんが産道を通過するとき、骨盤内に多く集まるリンパ節が圧迫されてリンパの流れが滞ると、足がむくみやすくなります。
とくに、分娩時間が長引いたり、赤ちゃんが大きかったりした場合に起こりやすいようです。
産後のママは、赤ちゃんのお世話以外はできるだけ体を休めて無理をしないことが大切です。そのため、運動量が減って血行が悪くなりがちです。
また、筋肉量が落ちることで血液を足から心臓へ戻すポンプ機能が弱まり、足がむくみやすくなります。
睡眠不足やストレスによって疲労物質の活性酸素がたまると、体内の水分調節を担う機能が低下します。その結果、むくみやすくなります。
授乳時など赤ちゃんのお世話をしているとき、ママが猫背で座ったままの姿勢を続けていると血行が悪くなり、下半身に余分な水分がたまりやすくなります。
授乳クッションを使う、足乗せ台(オットマン)を使うなどして、ラクな姿勢を探りましょう。
足のむくみを改善するには、疲れやストレスをためないこと、そして下半身の血行を促して血液が心臓に戻りやすくすることが大切です。
寝るときは下半身の血液が心臓に戻りやすくなるように、足の下にクッションを置くなどして、足が腰より高くなるようにしましょう。
また、起きているときもずっと同じ姿勢で座っていることを避け、時々足を少し高いところに乗せて血行を促すとよいでしょう。
ストレッチで血行を促すのもおすすめです。寝たままできるため、産後入院中から実践したいストレッチです。
足首を前後にゆっくり曲げ伸ばします。これを数回繰り返します。
足の指をギューッと前に折り曲げてグー、大きく広げてパー。これを数回繰り返します。
ふくらはぎの筋肉は、血液を心臓に戻すポンプのような働きをします。お風呂上がりなどに妊娠線ケア用のオイルや保湿クリームを使って滑りをよくした状態で、下から上にマッサージしましょう。
また、ひざの裏にはリンパ節があるため、ここに手を当て軽くなで上げるように刺激するのもおすすめです。
着圧ソックスは、ふくらはぎの筋肉に適度な圧力がかかるように設計されたソックスです。この圧力によって静脈の血流が促されます。
着圧ソックスには、圧力の強さ、長さ、素材などバリエーションがあります。締めつけすぎてもよくないため、サイズの合った適度な圧迫感のあるものを選びましょう。
塩分(ナトリウム)を摂りすぎると、体内に水分がたまりやすくなります。
一方、ブロッコリーやバナナなどに豊富に含まれるカリウムには体内の余分なナトリウムを排出し、水分のバランスを整える働きがあります。
また、ミネラルやたんぱく質にも体内の水分バランスを調整する働きがあるため、むくみの予防・改善に役立ちます。
足を温めると血流が促されるので、余分な水分がたまりにくくなります。38℃~40℃くらいの温度がおすすめです。
むくみがひどく長引いている、片足だけにむくみがある、息苦しさがあるなどの場合は、妊娠・出産に関連して何らかの病気を発症している可能性も考えられます。また、顔にもむくみがある場合は、心臓や腎臓、甲状腺機能などの異常も考えられます。すぐに受診しましょう。
気をつけたい病気には、次のようなものがあります。
下肢の静脈に血栓(血のかたまり)ができる病気で、血栓のできた側の足だけが強くむくみ、ときには腫れ上がるのが特徴です。
血栓が流されて肺の血管につまると、肺塞栓症を引き起こす場合もあり大変危険です。産後4~6週間は静脈血栓塞栓症を発症しやすいので注意しましょう。
出産前後に発症することがある病気で、心臓の筋肉の収縮力が低下することで、血液を全身に送り出す力が弱まり、心不全の状態を引き起こします。
足に限らないむくみ、動悸や息苦しさ、咳といった症状があります。
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