専門医に聞く!マタニティお悩みQ&A
2025.09.10 New
#臨月・お産 #マイナートラブル
疲れているのに布団に入ってもなかなか眠れず、熟睡できません。産後は育児で寝る時間もなくなると聞くのに、今から睡眠不足だと、この先やっていけるのか心配です。(妊娠9カ月)
回答した専門医
産婦人科医師 (医学博士)
善方 裕美 先生
よしかた産婦人科院長
横浜市立大学産婦人科客員准教授
プロフィールを読む
日本産科婦人科学会専門医、女性ヘルスケア専門医、日本骨粗鬆症学会認定医。大学病院で臨床研究を通して若手医師の育成に携わると同時に、国際出産イニシアティブ(ICI)に関東圏で初めて認証された分娩施設の院長も務める。女性が本来持っている産む力を活かせるように、そして、ママと赤ちゃんご家族にとって、幸せな出産と育児になるように、安全で自然なお産を守り、産後ケアの充実に取り組んでいる。家庭では3人娘の母。
妊娠後期のママは、短時間ごとに睡眠と覚醒を繰り返す赤ちゃんと同じような睡眠サイクルになりやすいといわれています。これは、子育ての予行演習ともいえる、自然な変化です。
「眠りたいのに眠れない」「数時間おきに目が覚める」と感じるかもしれませんが、こま切れ睡眠に慣れることが解決の第一歩です。それと共に、毎日の生活の中でリラックスできる時間をつくり、疲労をためないことが大切です。
妊娠後期に眠りづらくなる原因のひとつが、ママの体に起きている変化によるものです。また、出産が近づくことでの緊張など精神的な理由もあるでしょう。
いずれにせよ、「この時期はそういうものなのね」と気持ちを落ち着けて、ゆったり構えるようにしましょう。
妊娠後期は、大きくなった子宮がほかの臓器を圧迫するので、寝苦しさを感じやすくなります。
また、妊娠28週~32週ごろは心臓から送り出される血液の量が最も増える時期なので、そのぶん心臓に負担がかかり、寝苦しさを感じる人もいるでしょう。
妊娠後期になると、おなかの赤ちゃんもかなり成長して筋力がつき、神経の働きも活発になります。そのため、胎動も力強くなります。
ママの目が覚めてしまうほどの元気な胎動も、よくあることです。
【関連記事】
妊娠生活の疲れや出産への不安・緊張などがストレスになり、自律神経のバランスが崩れると、夜眠れなくなることがあります。
自律神経には活動型の交感神経とリラックス型の副交感神経がありますが、交感神経のほうが活発に働いていると、眠気を感じにくくなります。
足のふくらはぎがつった状態を「こむら返り」と呼びます。妊娠中は、大きくなった子宮を支えたり、運動量が減ったりすることで、血流が悪くなり足がつることがあります。
こむら返りは、運動中や横になって休んでいるときに起こりやすいので、夜寝ているときにこむら返りが起こって目が覚めてしまうこともあるでしょう。
むずむず足症候群(レストレスレッグス症候群)は、夜眠ろうとするとふくらはぎや足裏がむずむずして眠りが妨げられるもので、妊娠中に発症しやすい病気です。
原因はまだはっきりしていませんが、鉄分不足によって、神経伝達物質であるドーパミンの働きが低下することや、ビタミンD、葉酸の不足も原因のひとつと考えられています。出産すると自然に症状が消えることが多いでしょう。
寝不足による疲れをためないための日中の過ごし方や、入眠を促すコツをご紹介します。
ただし、こむら返りが軽減しない、足のむずむず感が治まらないなど、不快症状が継続する場合は我慢せず、かかりつけの産院に相談しましょう。
この時期、睡眠サイクルが変わるのは自然なことです。今までの「夜、7~8時間しっかり寝なくては!」という考えを捨て、こま切れ睡眠に慣れることが解決の第一歩ともいえます。
日中も疲れたり、眠気を感じたりしたら横になって休みましょう。ほんの10分のうたた寝でもOKです。妊婦さん、授乳中のママはすぐに深いノンレム睡眠に入ることができるので、それだけでも脳が休まります。
主治医から安静の指示が出ていないかぎり、妊娠後期にも適度な運動はおすすめです。程よい疲労感が得られて、寝つきがよくなるでしょう。
また、血行がよくなることで、肩こり、腰痛、こむら返りの軽減、便秘やむくみの解消にも役立ちます。ウォーキングやマタニティヨガなど、無理のない範囲で運動しましょう。
スマートフォンやパソコンの画面を見続けると、画面から出るブルーライトに刺激されて、脳が覚醒してしまいます。
また、心地よい眠りへいざなうセロトニンというホルモンの分泌が抑制され、入眠しにくくなります。就寝の2時間前からはスマートフォンやパソコンを使わないようにしましょう。
また、就寝時間の少し前から部屋を暖色系の暗めの明かりにし、脳に夜であるとシグナルを送って入眠への準備をすることが大切です。
牛乳に多く含まれているトリプトファンは、スムーズな眠りに導く働きをするホルモンであるメラトニンの材料となる栄養素です。
また、牛乳に含まれるカルシウムやビタミンB1には疲労回復作用があります。お休み前にホットミルクを飲みながら、ゆったりくつろぐ時間を持つのもよいでしょう。
シャワーだけで済ますと体が温まらず、リラックスもあまりできません。暑い季節でも湯船につかって入浴しましょう。
その際、お湯の温度は副交感神経が優位になりやすい38℃~40℃がおすすめです。副交感神経が優位になると寝つきやすくなります。温度が熱すぎると、脳が覚醒してしまうので逆効果です。
大きなおなかで仰向けに寝ると、おなかが圧迫されて血圧が下がってしまいます。寝るときは横向きで、クッションや抱き枕も利用しながら、ラクな姿勢を探しましょう。
体の左側を下にし、うつ伏せに近い横向きになり、右足を曲げた姿勢の「シムスの体位」は、母体にもおなかの赤ちゃんにも負担になりにくい姿勢です。
シムスの体位
リラックスすることで、脳の緊張がほぐれ、眠りやすくなります。
軽いストレッチやマッサージ、体の力を抜く呼吸法、好きな香り、好きな音楽など、自分がリラックスできる方法を見つけておくことは、出産で陣痛が始まったときにも役立ちます。
なお、ハーブティーやアロマオイルには、妊娠中は避けたほうがよいものもあるので、注意しましょう。
【関連記事】
眠れなくても、多少の寝不足は赤ちゃんに影響しないため、まずは安心しましょう。むしろ、「寝不足だと赤ちゃんによくないのでは?」と思い悩むことがストレスになり、さらに眠りが妨げられることのほうが心配です。
「今は子育ての予行演習で、こま切れ睡眠に慣れる時期」だと考えて、リラックスできる時間を大切にして疲れをためないよう心がけるとよいでしょう。
ただし、2~3日まったく眠れていない、寝不足でめまいなどの不調が出ている、といった場合は、産院を受診しましょう。
あわせて読みたい