工学研究科生命先端工学専攻 2019年卒業

私の所属するハウスホールド研究所では、衣料・台所・住居用洗剤、柔軟仕上げ剤などの製品開発を行っており、そのうちで私が在籍する研究室は、海外の衣料用洗剤を担当しています。日本で生活する私たちとは違う海外のお客様の生活文化や価値観に日々驚きながら、お客様の生活が少しでも豊かになるよう研究開発に努めています。またそのような生活文化から着想を得て、新規テーマを立ち上げることもあります。例えば日本よりも外食文化が盛んな国において、外出時に頻発する不意な食べこぼし汚れをその場で落とすべく、衣服の汚れやニオイを拭き取るウェットシートの開発テーマが立ち上がりました。私は製品を形にするために、洗浄力や消臭･抗菌力が最大化される処方開発を行い、目標性能に向けて試行錯誤を重ねています。
私たちが当たり前に過ごす日々は、誰かにとっての当たり前ではありません。それを目の当たりにしたときに、自身の常識を疑い新しい発想を得るきっかけになります。誰かにとっての大切な当たり前の日々に寄り添い、お客様の価値に繋がるような製品開発を私たちは行っています。

私の開発テーマの衣服の汚れやニオイを拭き取るウェットシートは、水が使えず洗濯できない場面で衣服を清潔に保つ方法として期待でき、入社2年目には国際宇宙ステーションで生活する宇宙飛行士向けの製品開発に取り組みました。初めて主担当として業務に携わることとなり、かなりプレッシャーを感じていました。さらに国際宇宙ステーションで使用される製品は、使用可能な成分に制限があるため、制約を満たしつつ十分な性能を達成することが困難でした。
しかし生じた問題を一つ一つ紐解き、目の前で生じている現象が理解できたときには、充足感が得られました。そして花王のこれまでに培われた研究開発の知見と一本の線で結びつき、自ずと突破口が見出されました。花王では物事の本質に迫る“本質研究”が励行されています。疑問が残ったままではモヤモヤする私の性格に合っていると思います。
また一つの製品が出来上がるまでに、社内外を問わず、たくさんの方からご支援ご協力をいただきました。花王は多岐にわたる研究分野、製品の開発に取り組み、様々なバックグラウンドを持つその道の専門家が多数在籍しています。わからないことに対して親身に相談に乗って下さる先輩方に、感謝と同時に尊敬の念を抱いております。そのような方々と一緒に製品を完成させられたことを嬉しく思います。

私の目標はお客様の悩みや期待を決めつけることなく想像力を働かせ共感し、そして押しつけではない価値提案ができる研究員になることです。入社以来、洗剤や洗濯の研究をしているからこそ問題に気づくようになりましたが、お客様はそうではありません。簡単に言えば、自分が欲しいと思った製品は、必ずしもお客様の欲しい製品ではなく、また悩みを声に出す方もいれば、悩みが声にならない方もおり、“お客様の立場に立つ”難しさを感じています。そのような場合、洗剤や洗濯の一場面だけを切り取るのではなく、お客様の生活全体を俯瞰的に見ることを心掛けています。お客様の一つ一つの発言や行動の背景を理解することで、生活の悩みや期待が浮かび上がることもあります。お客様の発言や行動から導かれる価値観をもとに、生活の悩みや期待を想像し共感しながら、お客様に新しい価値を提案できるような研究員になりたいと思っています。

これから就活をする学生の皆さんへお伝えしたいことがあります。
まずありたい姿で振る舞うことを諦めないでください。また、ありたい姿に向けて少し背伸びをしてみてください。私の就活を振り返りますと、面接の合否結果が届くたびに自分自身の立ち振る舞い一つ一つが気になり、ありたい姿からどんどん遠ざかったことを記憶しています。ただ一方で、面接をされる方々はこれから一緒に働きうる方々です。皆さんのありたい姿を後押ししてくれる方々が必ずいます。どうか諦めず、自分自身に自信を持ってください。
次に学生時代の研究に打ち込んでください。学んだ知識・スキルはもちろん、研究の進め方や考え方、目標達成に向けて最後までやり切る粘り強さが身につきますし、何かに必死に取り組む経験は必ず今後の糧になります。大きな成果を生み出せなかったとしても、ましてや失敗であったとしても、そこで得られる学びと育まれる価値観が大切だと思います。
私が花王を志望した理由は、花王の高い技術力によって開発された高品質な製品を世界中に広め、世界中の人々の暮らしを豊かにしたいと思ったからです。しかし私たちはまだまだ道半ばです。そのためにも、皆さんが社会人になられた際には、自分のためだけでなく、自分以外の誰かのために働いていただきたく思います。小さくとも一人一人の社会への貢献が世の中を少しずつ豊かにします。そして、もしその心意気があるなら、是非一緒に働きましょう。楽しみにお待ちしています。