専門医に聞く!マタニティお悩みQ&A
2025.11.26 New
#臨月・お産 #産後ママのケア

逆子のため、帝王切開で出産することになりました。切開後の傷あとが残らないか心配です。傷あとをきれいにするテープがあると聞いたのですが、どんなテープをどのように使うのでしょうか?産後の痛みも不安です。痛みはどのくらい続くのでしょうか?
回答した専門医

産婦人科医師 (医学博士)
善方 裕美 先生
よしかた産婦人科院長
横浜市立大学産婦人科客員准教授
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日本産科婦人科学会専門医、女性ヘルスケア専門医、日本骨粗鬆症学会認定医。大学病院で臨床研究を通して若手医師の育成に携わると同時に、国際出産イニシアティブ(ICI)に関東圏で初めて認証された分娩施設の院長も務める。女性が本来持っている産む力を活かせるように、そして、ママと赤ちゃんご家族にとって、幸せな出産と育児になるように、安全で自然なお産を守り、産後ケアの充実に取り組んでいる。家庭では3人娘の母。
帝王切開の傷は、産後1カ月程度で治癒します。ただし、表面の傷がふさがっても、皮膚の下層は修復に3~6カ月かかります。そのため、産後1カ月が過ぎてから、傷あとがケロイドや肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)と呼ばれる赤く盛り上がった状態になってしまう人もいます。
これは体質によるところが大きいのですが、傷あとへの刺激を避け、皮膚用テープなどで保護することで、ある程度予防できます。
また、おなかの傷の痛みは個人差が大きいですが、一般的に術後3日目くらいには落ち着きます。

帝王切開の切開方法には横切開と縦切開の2通りあります。どちらの方法になるかは、ママと赤ちゃんの状態や産院の方針によります。いずれの方法でも、帝王切開の傷口は1週間程度で閉じます。
帝王切開では、どの妊婦さんも子宮壁は横に切開しますが、おなかの皮膚の切開方法は横切開と縦切開の2通りがあります。どちらの切開方法になるかは、ママと赤ちゃんの状態や緊急度によって選択されます。
横切開
デリケートゾーンに近い下腹部を横に切開する方法で、一般的に行われる切開方法です。皮膚から筋膜までを横に切開し、その下の腹膜は縦に切開、さらに子宮壁は横に切開します。傷あとが目立ちにくく、肥厚性瘢痕やケロイドになりにくいといわれています。
縦切開
おへその下から恥骨に向かって、縦に切開する方法です。皮膚から腹膜までは縦に切開し、子宮壁だけ横に切開します。術野が広く(執刀医が見やすく)なり、手術時間が短くなるので、赤ちゃんを一刻でも早く取り出したいときに選択されます。また、過去に何らかのおなかの手術をしたことがあり、癒着などのリスクが高い場合も縦切開になることがあります。
帝王切開は赤ちゃん誕生後に胎盤を取り出し、子宮内をきれいにしてから、縫合します。子宮壁、腹膜の縫合には溶ける糸を使用しますが、皮膚の縫合には、医療用ステープラーや縫合糸、または、皮膚用テープを使用する場合があります。どれを使って縫合するかは、産院の方針によります。
医療用ステープラー
最も多い縫合方法で、傷口をホチキスの針のようなもので固定します。傷口がふさがったあと、針を抜く必要があります。
縫合糸
糸で表皮を縫い合わせる方法。傷口がふさがったあと、抜糸する必要があります。
皮膚用テープ
傷口を皮膚用テープで固定する方法です。傷口が閉じたあとはテープをはがすだけで済みます。皮膚に穴が開かないので傷の治りがきれいで、形成外科でよく使われる方法です。

産後1カ月健診で医師は帝王切開の傷あとを確認しますが、普通はその時点で傷はしっかり閉じています。ただし、皮膚の下の組織はゆっくり修復されるので、少々盛り上がりや、硬さを感じているでしょう。この盛り上がりや硬さは3~6カ月くらいで落ち着いて、傷あとも目立たなくなります。もし、傷あとがケロイドになるとしたら、1カ月健診後の、皮膚の下で修復されていく過程で起こってくることです。
ケロイドや肥厚性瘢痕など目立つ傷あとは、術後数カ月かけて次第に現れてきます。なぜなら、術後1カ月で表皮がきれいに修復されていても、表皮の下にある真皮の修復には少なくとも3カ月かかるからです。真皮の修復過程で炎症が続くと、いったんきれいになった皮膚は盛り上がり、ケロイドや肥厚性瘢痕になることがあります。
ケロイド
赤みがあり、盛り上がっている状態。元の傷の範囲を超えて広がっている傷あと。
肥厚性瘢痕
赤みがあり、盛り上がっている状態。元の傷の範囲を超えていない傷あと。
皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3層構造になっています。表皮は約48時間で修復されますが、真皮より下層の修復には少なくとも3カ月はかかります。
その修復期間中に、傷あとに何らかの刺激が加わって真皮の炎症が続くと、傷あとが盛り上がり、ケロイドや肥厚性瘢痕になることがあります。

真皮に炎症が起こる原因は、こすれる・引っ張られるなどの物理的な刺激もありますが、体質によるところもあります。

きれいな傷あとのためには、こすれる・引っ張られるなどの刺激から傷口を守ることが大切です。そのために便利な皮膚用テープも市販されています。また、産後はおなかに圧がかかるような動きを避けるなど、日常生活の動作にも気をつけましょう。
皮膚用テープは、衣類などでこすれる刺激から傷あとを保護するとともに、動作で皮膚が引っ張られるのを抑制し、保湿効果も期待できます。抜糸後から使い始め、少なくとも術後3~6カ月使用するのがよいでしょう。
また、皮膚用テープにはいろいろな種類があり、ロールタイプもあればシートタイプもあります。素材も様々なので、使いやすさや、肌への相性などを考えながら選びましょう。迷った場合は助産師などに相談するのもよいでしょう。
帝王切開後はできるだけ傷あとに負荷をかけない動作を心がけましょう。赤ちゃんのお世話をするとき、猫背になるのも要注意です。背筋を伸ばした姿勢のほうが傷口に圧がかかりません。また、走る・ジャンプするなどの動作も傷あとに負荷がかかるので、術後3カ月くらいは控えるようにしましょう。
下着や洋服が皮膚に当たってこすれると、傷あとを刺激することになります。術後3カ月くらいは、ウエストを締め付けない服装にしましょう。また、直接肌に触れる衣類は刺激の少ない素材のものがおすすめです。
皮膚が乾燥するとかゆみが出やすくなり、かくと傷あとを刺激してしまうことにもなります。皮膚用テープを使用しなくなったら、おなかの保湿ケアを日課にしましょう。保湿剤は刺激の少ないものがおすすめです。
産後は、傷の痛みと子宮が収縮する痛み(後陣痛)が重なり、2~3日間は少し強い痛みを感じるでしょう。ただ、子宮が回復に向けて収縮する痛みは、経腟分娩の場合も感じる痛みです。痛みが強いときは、授乳中でも服用できる痛み止めを処方してもらいましょう。
痛みが落ち着いたあとも、おなかに圧がかかる姿勢や腹筋を使う動作をしたときなどに痛みを感じる状態はしばらく続きます。授乳のときも、授乳クッションを使うなどしておなかに負担がかからない姿勢を工夫しましょう。
こうした痛みがいつまで続くかは、個人差がかなりありますが、産後1カ月健診のころにはほとんどの人が痛みを感じなくなっているでしょう。ただし、体をひねるなどの動きによっておなかの中が突っ張るような、ちょっとした違和感は術後3~6カ月くらいまで続くことがあります。
いくらセルフケアをしていても、表皮の内側に炎症が起きて、傷あとがケロイドや肥厚性瘢痕になってしまう場合があります。退院後、傷あとが硬くなる、赤く腫れるといった場合は、炎症が起きている可能性があるので、産院、または皮膚科や形成外科を受診しましょう。
初期段階であれば、炎症を抑える薬や塗り薬で治療し、ケロイドや肥厚性瘢痕になるのを止められる可能性があります。また、ケロイドや肥厚性瘢痕になってしまった場合でも、形成外科での治療によって目立たなくすることは可能です。
退院後の傷あとの痛みに関しては、激しい腹痛、38度以上の発熱が起きた場合は、細菌感染も考えられます。以下のような場合にはすぐに産院を受診しましょう。
受診をしたほうがよい症状
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