達人コラム

インテリアコーディネーター 川上ユキさん
在宅勤務を快適にする暮らしのアイデア

2021.07.06

コロナ禍で急速に広がった在宅勤務。通勤などのストレスや移動時間から解放され、柔軟な働き方ができるようになった半面、住まいの中での仕事場の確保や、仕事モードと家庭モードの気持ちの切り替えなど、新たな課題もあります。快適な暮らし方の提案に定評があり、ご自身も在宅ワーク歴が長い川上ユキさんに、仕事がはかどり、家族みんなが快適に過ごせる環境づくりへのアドバイスをいただきました。

在宅勤務で住まいに生じた「緊張感」を解決!

これまで出勤していた人にとって、家は「リラックスする場所」であり、その中で「家事」をおこなっていました。しかし、在宅勤務が始まってからは、そこに「仕事」という機能も入り込んできたわけです。例えば、オンラインミーティングの実施など、家の中の空気が一変してしまうくらいの大きな緊張感が生まれ、さらに家の中のスペースも取ってしまっているのが、在宅勤務の状態です。

在宅勤務以前と今のイメージ図

在宅勤務以前と今のイメージ図

在宅勤務以前と今のイメージ図

※画像をクリックすると拡大してご覧いただけます。

上図のように家の機能も空間も密になって、窮屈さを感じやすい状態になっている、ということを認識した上で、じゃあ、どうするか?と考えたとき、まず大切なのは、「自分でオンとオフを切り替える意識を持つ」ということです。

くらしの現場レポート『タイミングや分担が変化 在宅勤務で変わる家事スタイル』では、在宅勤務の合間に家事もしている様子がみられました。だからこそ、夫も妻も仕事モードのオン・オフの切り替えがうまくいくように意識を変えていけば、仕事も家庭生活もうまく回っていくでしょう。

在宅ワークがはかどる空間づくり 3つのポイント

自身の設計した空間で、在宅ワークをする川上さん

仕事のオンとオフを切り替えるためには、ハードとソフトの両面からアプローチすることが大切です。ハードとは、仕事をする場所のこと。仕事をする環境が整っていないと、在宅勤務はうまくいきません。現状に無理を感じるなら、どこに仕事をする場所を持っていくか、環境を見直してみましょう。

専用に使える部屋があれば、そこで仕事をするのが理想ですが、部屋の確保が難しい場合は、集中しやすいように座る位置を変えてみたり、例えばダイニングでもグリーンで目隠ししたりといった工夫を。視界を調節するだけでも効果が上がります。 ポイントは以下の3つです。

【在宅ワークの環境づくり3つのポイント】

1.こもる感じをつくる
カフェでも、ちょっと奥の端っこの席が落ち着いたりしますよね。家の中でも同じこと。オープンな位置よりも、こもり感のある位置に席を移動して。

2.人が背後を通らない
背後を家族にうろうろされると落ち着かないものです。壁を背にしたほうが仕事に集中できます。また、パソコンの画面も人から見えない位置がベスト。

3.ドア(人の出入り)が見える位置 
いきなりそばに人が来ると、ドキッとしてしまいます。これを避けるために、人が入ってくるのが見渡せる場所に座って。安心して仕事に集中できます。

さらに、「リビングダイニングで仕事をする場合は、テーブルをリビングから遠ざける」「夫婦で同じテーブルに向かう場合には、直接視界に入らないように対角線上に座る」など、家族との距離をとる工夫も大切です。

在宅ワークの環境づくりの具体例

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空間づくりは思い込みを取り払うことがコツ

先に挙げた環境づくりのポイントを実践することで、仕事の効率は上がり、心理的ストレスを和らげることもできます。そうはいっても、限られたスペースで密にならない空間を作ることが難しいと感じる方も多いようです。

仕事柄、室内のレイアウトについて相談を受けることが多いのですが、活用されていない空間があるのに、ご本人たちは気づいていないケースが意外と多くあります。相談者は、ソファやテーブルなど、今ある場所が定位置のような固定観念が強いかもしれません。しかし、設計者目線で見ると、「ソファをちょっと壁から離すと、壁面に新たなスペースが生まれる」とか、「ここに棚を付けたら、収納が倍になる」など、いくつもの発見があります。

在宅ワークの空間づくりの具体例

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家具やスペースの用途を限定しないで、「これをあっちに置いたら」「あれをこっちに持ってきたら」といった、さまざまな可能性を探ってみてください。視点を変えて家の中を見回してみると、スペースが生まれやすくなります。ぜひ、試してみてください。

食べる・入浴・寝る…日常の質を上げてオフに

次に、ソフト=気持ちの切り替えについて考えてみましょう。通勤していたころは、【オフィスに行く-帰宅する】ことで、気持ちのオン・オフができました。また、帰宅途中に寄り道したりすることで気分転換もできたかと思います。

在宅勤務になり、ずっと家の中にいると、自分で意識して気持ちを切り替える必要が出てきます。とはいえ、家族がいると自分のためにたくさん時間を割くことは難しいでしょう。そこで、おすすめなのが、食べる・入浴する・寝るなど、日常的におこなっている行為の質を上げることです。

私の場合は、食事なら大きな器に余白を残してかっこよく盛り付けて、気分を上げる!息が詰まったら、ロールオンの香水を顔まわりに塗布して気分転換!入浴時は湯船に浸かって好きな香りの入浴剤でリラックス!といった具合です。また、ひな祭りやハロウィンなど、季節感のあるイベントを家の中に取り入れてみるのも気分転換になります。

家事も、布巾や洗剤などの日用品もお気に入りを見つけることで、ぐんと楽しくなります。

「次の休日にリセットしよう」とかではなくて、毎日、小さなことを一つずつ積み重ねたほうが、気持ちにゆとりが生まれますし、仕事の生産性アップにもつながると思います。

【間接照明でオフ空間にチェンジ!】

気分のオフにおすすめなインテリアアイテムが、室内の間接照明です。

灯りを切り替えるだけで、いつもの部屋がリラックス空間に変わります。白いシェードの置き型ランプで十分なので、顔の斜め上あたりに照明器具がくるように置いてみましょう。

ちょうど暖炉を見るような感覚で、高揚していた気分が落ち着き、リラックスできます。

良好な家族コミュニケーションが在宅ワークを快適にする

在宅ワークで密になっているからこそ、家族間のもめ事を避け、いいコミュニケーションをはかる必要があります。それは「家族は仲良しがいい」といった単純な理由ではなく、言い合いやケンカで生じた険悪な状態から仕事モードへの切り替えが、想像以上に気持ちの負担となるからです。

家での仕事は基本的に人との距離をあけ、お互いに心理的ストレスをかけないようにしますが、それは家族間でいいコミュニケーションが取れている上でおこなうのが理想です。良好なコミュニケーションが取れていると、余計な気遣いをせずにすみ、安心して仕事に向かえます。

そのためには、オンラインミーティングや出社や外出など、お互いの予定をあらかじめ伝えることが大事です。
「今日はこの場所を使いたい」「この時間帯は静かにしてほしい」といったことを気軽に話し合える関係であれば、気持ちよく過ごすことができると思います。また、距離をあけるばかりではなく、一緒に料理をする・一緒に食事をとる・一緒に運動するなど、意識的に接点を持つことも必要です。

コロナ禍で在宅勤務という働き方が広がったことは、「家」の機能を見直すきっかけになりました。家族が協力して、スペースの使い方を工夫し、「家事も仕事も快適にこなせて、リラックスもできる」、そんな住まい環境がつくれるといいですね。

Profile

インテリアコーディネーターかわかみゆきさんのお写真

インテリアコーディネーター/プロダクトデザイナー
川上ユキ(かわかみ ゆき)さん

コクヨ株式会社退社後、インテリアコーディネーターの資格を取得し、川上ユキデザイン事務所として活動開始。住宅メーカーと協働でくらし研究を行い、家具や住宅などの商品開発、コンサルティングを行う。また、インテリア・収納にとどまらない暮らし方全般の提案に定評があり、セミナー、雑誌、テレビなど幅広いメディアで活躍。著書は『カエテミル』シリーズ、『心とカラダがやすまる暮らし図鑑』など多数。

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