2026年8月25日
※本記事は、2026年5月に実施したインタビューをもとに構成しています。
もし大雨や地震で自宅に住めなくなったら、あなたはどこで生活しますか?
避難所というと、数日間だけ身を寄せる場所というイメージがあるかもしれませんが、ライフラインの停止や住宅被害によって数か月にわたり避難所で生活するケースもあります。
地震だけでなく、台風や大雨による大規模災害も頻発し、いつ自分や家族が避難所で生活することになっても不思議ではない時代です。避難所での生活はどのようなものか、今から何を考えておけばよいのか。全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)の明城徹也さんに、避難所生活の実状と課題を伺いました。


明城徹也(みょうじょうてつや)さん
特定非営利活動法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)理事
1970年福井県生まれ。米国の大学を卒業後、建設会社に勤務。その後、NGO業界に転身し、アフリカ支援・緊急人道支援のNGOにおいて現地事業責任者などを経験。2016年からジャパン・プラットフォームに勤務。東日本大震災の発災直後より現地入りし、緊急/復興支援に従事した経験から、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)の立ち上げに関わり、2016年11月の設立から理事・事務局長に就任。各地での災害支援のコーディネータとして関わりながら、平時には災害支援のネットワーク構築も行っている。
JVOADホームページ(外部リンク)
避難所は災害時に命を守る大切な場所です。しかし生活する場となると、さまざまな課題もあります。限られた空間で大勢の人を受け入れながら生活環境を整えることには、多くの難しさがあります。

今、提供されるのは段ボールベッドです。自治体で用意がない場合は、国や県が送ります。薄いマットと毛布が提供されるくらいで、マットレスや枕はありません。能登半島地震の時もそうでしたが、段ボールベッドが届くまでの最初の何週間かは、ごろ寝の状況が起きてしまいます。また、ベッドを入れることで収容人数が減るのであえて使わない、ということも起こります。
断水時に最初から携帯トイレや簡易トイレを使用するルールが徹底できるかどうかが問題。水が流れないのに無理やり使うと最初はぐちゃぐちゃになり、水が出るまでリカバリーできず、給水車が来たら誰かが洗うことになります。だから、自分で携帯トイレを備えて、使えるように一度練習しておくとよいでしょう。
避難所の掃除は避難している人たちが持ち回りでやることが望ましいですが、実際にはずっと掃除ができていない避難所も多く見受けられます。また、外のトイレから寝床まで土足のまま行ける避難所も結構あります。衛生面を考えると、下駄箱を作るなどして内履きと外履きを分けることを私たちは提案しています。
お風呂は自衛隊が持ってきてくれますが、ごく限られた一部の避難所しか利用できませんでした。国のガイドラインでは、入浴施設を50人に一つとする基準が示されており、今後状況が変わってくることを期待しています。
洗濯は後回しになりがちで、着の身着のままの状態が長く続くことが多いです。洗濯できても洗ったものをどこに干すか、プライバシーを守り女性にとっても安全な物干しスペースを確保できるか。エリアや利用時間を分けるなど工夫が必要です。

特に高齢者で課題となるのは、避難所に行ったことで寝たきりになってしまうこと。動かなくなると機能低下を引き起こします。対策として体操もありますが、スペースに余裕があれば食事スペースを別にしたい。そこまで歩き、食事をして後片付けもすれば、いろいろな人と話すきっかけにもなります。
メンタルヘルスにも注意が必要です。慣れない環境で不安で眠れない人も多くなります。心のケアの専門チームが避難所を巡回することもあるので、利用するといいと思います。
「ペットがいるから避難できない」と聞くことがありますが、今は「同行避難」といって避難所にペットを一緒に連れて行って、人とペットで居住スペースを分ける避難方法があります。ペットの受け入れのルールを公開している自治体もあるので、事前に確認しておくといいでしょう。また、開設された避難所に行く前にも、ペットの受け入れを必ず確認しましょう。
指定避難所は、基本的に行政の管轄なので、情報が入りやすいメリットがあります。また、いろいろな支援物資が届きやすい。周囲に人がいることで、精神的に安心できる人も多いです。
一方デメリットは、プライバシーが制限されること。体育館などでの共同生活が多いので、着替えや睡眠などの課題がありますし、暑さ・寒さの温度調整も個別にはできません。感染症拡大のリスクもあります。集団生活が苦手な人や、プライバシーがなくて落ち着かない人には難しさがあるかもしれません。
災害時には、まず「命を守る」行動が最優先です。どんな災害でも、まずは安全を確保する行動を取りましょう。その上で、避難所に行くのか、自宅にとどまるのかは、状況によって異なります。

避難の判断は、実はなかなか難しいです。水害と地震でも違うし、家族の状況や避難所までの距離によっても異なります。判断の基準は、自分のいる場所の安全性。どういう状況になったら避難するのかを、事前に考えておくことがとても重要です。
実際に災害が起きたら、警戒レベルなどの避難情報や気象情報、また建物の被害状況を踏まえて、最終判断します。事前の想定があれば、避難所に行く場合でも、タイミングも含めてすぐに行動に移せます。
災害が起こったらどうするか、年に1回は話し合っておきましょう。必ずしも家族が同じ場所にいるとも限りません。その時に、持ち出し袋や食料品などの在宅避難用の備蓄も確認しておくことをおすすめします。タイミングとしては、「防災の日(9月1日)」など日を決めるのもいいです。今はどこで大雨が降るかわからないので、梅雨・台風が続く季節の前に確認しておくのもいいと思います。
避難所での生活を想像し、「自分はこれを持っていきたい」「これを食べたい」など、自分や家族が安心できるものを入れた自分用/家族用の持ち出し袋を準備しておくといいと思います。両手が空くリュックサックなどがいいですね。安全に保管できて、すぐに持ち出せる場所に置くことがポイントです。浸水エリアなのに1階に置いて、使えなくなることがないようにしましょう。
備えにはいろいろな想像力が必要です。どこまで考えて準備できるか。それに尽きますね。
避難所生活は数日で終わるとは限りません。長い時は半年から1年かかるときもあります。家屋が全壊して住めない、床上浸水で家電が使えない、畳や壁を替えるのに数か月かかるなど家のダメージもあれば、水道・電気などのライフラインが復旧しないこともあり、避難を続けた方がいいことも。大きな災害での避難所の生活は、何か月と長期になるのを見越したイメージを持っておく必要があります。

物資に関して「ラストマイル」という言葉があります。物自体は集積所にたくさんあるけれど、最後、物資を必要としている被災者まで届かないという課題です。道路事情や輸送手段の問題もありますが、避難所の担当者が慣れていないこともあり、避難者のニーズをくみ取るのはなかなか難しいのです。だからこそ、避難している人たち自身が困っていることに「声を上げること」がとても重要で、それが環境改善にもつながります。待っているだけではなかなか変わらない。具体的に要望を伝えることは、決してわがままではなく、とても大切なことなのです。
妊婦さんや高齢者、障がいのある人などの配慮が必要な人が、支援を受けられないことがあります。避難所の担当者が、全ての避難者の状況を把握することは簡単ではないからです。支援が必要な場合は、避難所に入る際に自ら申し出ることが大切です。本人ができなければ、了解を得た上で周囲の人が代わりに伝えることも必要です。例えば、赤ちゃんがいることを伝えれば、乳幼児向けの食事や紙おむつなどの支援につながります。また、病気や障がいについてあらかじめ共有しておくことで、避難所を巡回する医師や専門職につないでもらえる場合もあります。子どもの遊び場が不足している場合も、伝えることで、遊び場を提供するNPOなどの支援を受けられることがあります。避難所では、一人ひとりの状況を周囲が気にかけ、声をかけ合いながら助け合うことが大切です。そうした支え合いが、誰もが安心して過ごせる避難所づくりにつながります。
自治体の中には、住民自らの運営を促すためにマニュアルを作ったり訓練したりしている所もあります。ただ避難所の立ち上げくらいまでが多いのが実情です。避難所の責任は自治体ですが、運営方法や運営主体が非常にあいまいです。自治体は避難している人に運営してほしい、避難している人は行政がやってくれるだろうと思っているのがほとんどではないでしょうか。
避難が長期化してくると、避難所は行けば何とかなる場所ではなく、自分たちで生活をつくる場所に変わっていきます。困っていることはきちんと声を上げて、行政と避難者とでできるところは協力し合う。お客さんではなく、避難所の一員として積極的に運営に関わることが避難所の環境を改善し、生活を続ける上でとても大事になってきます。

ー取材を終えてー
明城さんのお話を伺って、避難所での暮らしをほとんど想像できていなかったことにハッとしました。ときには長期間にわたって暮らす「生活の場」になるということが印象的でした。近年は、大規模な災害が頻発し、国でも防災庁の設置など防災体制の強化が進められています。しかし、自分や家族の命と暮らしを守るためには、一人ひとりが「もし自分だったら」「もしわが家だったら」と想像し、話し合い、備えておくことが欠かせません。そして避難所では、周囲と支え合いながら主体的に関わることも大切なのだと教えていただきました。