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Introduction

花王の中でもひと際強い個性を放つ化粧品ブランドが、「KATE」だ。今回は、そのKATEから2021年5月に発売され、発売から1年半以上経つ現在も大ヒットを飛ばしている口紅「リップモンスター」の誕生の秘密に迫る。一年に一度、花王全社の中で最も貢献したチームに贈られる社長賞も受賞したこの開発プロジェクト。その裏側には、若き商品開発担当の並々ならぬ商品へのこだわり、そして、その思いを支えながら、全員で新しいことに挑戦し続けたチームの団結力、総合力があった。

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パーパスブランディング起点で
新たな価値創出

1997年のブランドデビューからこれまでスローガン“no more rules.”を掲げ、ルールに縛られないクール&シャープな“攻めのメイク”を提案し続けてきたKATE。
独自の世界観や斬新なアイデアで数々のヒット製品を世に送り出してきた。
そしてブランド誕生25周年を迎える今年、新ブランドムービーで改めて“no more rules.”を打ち出し、スローガンを通じて生き方や美の価値観の変化に向き合い、自身を解放する自由なメイクを提案。「メイクにもっと自由を」という想いを、商品開発から顧客体験に至るまで一貫して実現すべく、パーパスブランディングを実践している。まさにその象徴と言えるのがリップモンスターだ。新型コロナ禍のインサイトを捉えた逆転の発想による商品開発に加え、喚起した興味を逃さず顧客化するまでデジタル体験を創造することで、メイク市場に斬新で新たな価値提案を行った。

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商品開発の思いと、
花王の技術が出会う。

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2019年、突如、世界中で感染が拡大した新型コロナウィルス。なかでも化粧品はとくに大きな影響を受けた分野の一つだろう。外出する機会が激減、出かける際もマスクの着用が求められたこともあり、口紅などのリップ市場も大きく冷え込んだ。ただ、そうした状況下でも「マスクを外した一瞬でも可愛くいたい」「口紅を楽しみたい」という若年層の声があることをKATEの商品開発チームは把握していた。今回の主役である商品開発担当は当時の様子をこう振り返る。「ブランドとしてどう売上を回復させるかということもありましたが、それ以上に新型コロナ禍の中で、お客様のために自分たちに何かできることはないだろうかという思いが強かったですね」。もともと口紅が好きで、仕事でもKATEの口紅の開発を任されていた商品開発担当。その彼女が、花王の研究所が持っていたある独自技術と出会うことで、このプロジェクトは小さな産声を上げた。「花王には色が変化することなく、つけたての色が落ちにくい独自技術がありました。この技術を使えば、新型コロナ禍のマスク生活でもメイクを楽しめる口紅がつくれるのではと思ったのです」。そこで、彼女は研究所とのやりとりをスタート。「もっとこうしたい」「こういうことはできないか」と何度も自分の理想を伝えながら、納得のゆく品質を目指してゆく。そして、研究所の社員も彼女の熱い思いに応えるため、「よし、わかった。やってみよう」と粘り強く品質の向上を目指し続けた。

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大きな壁として立ち塞がった
商品開発会議。

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この落ちにくい口紅の開発において、商品開発担当がとくに悩んだのは色だった。トレンドを押さえつつも、お客様がお気に入りの一本を見つけられるよう、あえて色幅は狭く設計し、11色を用意することにした。商品開発担当の上司である商品開発リーダーも「色に関してはかなり悩んだようでしたね。ただ、最後は担当者が自分で決めなければ、商品への愛着も責任感も生まれません。だから、アドバイスしながらも見守っていましたね」と当時を振り返る。また、この時期に「モンスター級の落ちにくさ」といった由来から「リップモンスター」という一度聞いたら忘れない商品名も決まる。ちなみに、商品開発担当の頭の中には、モンスターたちの暮らす別世界が出来上がっていて、11の色名も「欲望の塊」「ラスボス」など、その世界観に合ったネーミングにしたいというアイデアがあった。商品開発チームと常にタッグを組むマーケティングチームで、このリップモンスターのマーケティング担当も「商品の品質はもちろんのこと、この独特の世界観も面白いとすぐ思いましたね」と話す。「しかし、口紅の色名を前面に出すような売り方はこれまでしたことがなかったですし、何より、新型コロナ禍の中で口紅は売れないのではという声が聞こえてきていました」。実際、この商品の発売を行うか否かを会社として最終的に判断する「商品開発会議」は一筋縄ではいかなかった。

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配信動画の制作でも、
開発の思いや過程を共有。

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「営業時代に自分には感性が足りないと感じ、その苦手な部分を磨こうと思ってKATEに異動してきたんです」と語る商品開発担当。それが、いざリップモンスターを担当したら次から次へとアイデアが出てきたという。しかし、花王の商品開発会議は感性やアイデアだけでは通過できない。商品開発チームとマーケティングチームが一体となり、様々な市場データを徹底的に集め、提案資料を作り込んだ。商品開発リーダーも経営層を前に熱弁を振るった。それでも一度目は通らなかったという。ただ、ここで諦めるわけにはいかない。口紅カテゴリーのマーケティング担当と連携し、改めてデータや販促施策などを整理し、再度プレゼンテーション。今度はなんとか商品化の許可を得ることができた。そして、この辺りからプロジェクトチームに女性若手マーケターも加わる。「入社後、在宅勤務が続き、ようやく出社できるようになった頃でした。実際に商品を試すと全然落ちなくて驚きました。自分でも心からほしいと思える商品でした」とリップモンスターとの出会いを語った。その後、前例のないプロモーションの施策に挑戦していくことになる。モノ×デジタルのDX起点で、YouTubeやLINEやTikTokなどSNSを用いて、商品を理解しながらワクワクするデジタルを活用した若年層へのアプローチだ。まずLINE 公式アカウント内サービス「KATE MAKEUP LAB.」にてデジタルテスター・メイク診断といった体験の場作りを行う。YouTube公式チャンネル「KATE CHANNEL」では、配信動画の企画・出演も、社内メンバーで行うことに。商品開発担当は「どんな思いで、どんなところに工夫しつくった商品なのか。リアリティを大切にしたいと思ったのです」と社内制作にこだわった理由を明かす。KATEの動画にも出演している女性若手マーケターは「配信直後から手応えを感じていました。開発チームがこだわった色の名前に関しても、“もっと聞きたい”というコメントが届くなど、これまでの商品とは異なる反応がありました」と当時のことを教えてくれた。

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SNSの拡散をきっかけに、
全色大ヒット。

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そして、2021年5月。ついにリップモンスターは世の中に送り出された。マーケティング担当は、そこから1ヶ月のことを今でもよく覚えているという。「リリース直後からSNS上で情報やレビューが拡散されると、そこから一気に人気に火が付いたのです」。商品は飛ぶように売れ、予想をはるかに超えた売れ行きとなった。「ある程度の自信はあったものの、この売れ行きには正直、驚きました。でも、それだけ“口紅を楽しみたい”という声があり、それに応えられたことがうれしかったですね」と商品開発担当は語る。発売後に入社し、チームに加わった男性若手マーケターも「“この商品と出会えてよかった”“メンズメイクももっと教えてほしい”といったお客様の声が続々と届き、動画制作・配信のモチベーションも高まりました」と話す。商品開発リーダーは「商品開発担当が自らの思いや感性にこだわり抜き、さらにこの商品に関わった全員の努力が実った瞬間でしたね」と振り返る。そして、このプロジェクトはその年の花王の社長賞も受賞。「商品のヒットだけでなく、新型コロナ禍という逆境の中、化粧品の力、自分たちの力を信じて挑戦したことが評価されたのだと思います。それが、一番の喜びでしたね」と若き商品開発担当は受賞の思いを口にする。花王という会社は、高い技術力を持ち、マーケティングでも徹底的にデータにこだわる。しかし、商品の一番の根底には、「お客様に喜んでほしい」「こんな商品を開発してみたい」という担当者の思いがあり、その熱を共有できるチームの絆がある。異例の大ヒット化粧品、リップモンスターは、まさにそのすべてが詰まったよきモノづくりだった。

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