2020年入社
商品開発担当
今回のプロジェクトの主役。新型コロナウイルスで社会が混乱する2020年4月に入社。希望部署の一つであった商品開発部の配属となるも、出社できない状況が続き、日々新しい課題を前に悪戦苦闘を続けていた。
1991年入社
商品開発マネジャー
今回の主役である商品開発担当を入社時から見守ってきた商品開発マネジャー。同部署の先輩として豊富な知識と経験を生かし、今回の開発プロセスにおいても常に寄り添い、商品開発担当をサポートし続けた。
2015年入社
研究員(包装技術)
花王のよきモノづくりを支える研究開発部に所属。今回のプロジェクトでは主に包装技術(商品の容器)の面で、若き商品開発担当をサポート。いつでも相談に乗ってくれる兄貴的な存在としても慕われている。
2001年中途入社
部門人事
若き商品開発担当が所属するコンシューマープロダクツ事業部門の専属の人事担当。入社前から様々な面でサポートを行い、今回のプロジェクトでも業務に行き詰まった際、的確かつ温かいアドバイスを送る。
新型コロナが猛威を奮う2021年初頭。花王では、これまで汗やニオイ対策のデオドラントとして生活者に親しまれてきた「ビオレZ」のブランドリニューアルのプロジェクトが始動した。そのミッションは、まだ世の中で解決策が見つかっていない未発掘なニーズに対して、新たな価値を提案できる商品を2022年中に開発、発表すること。その新生ビオレZの第一弾となる新商品のメイン担当として、当時まだ入社1年目だった社員に白羽の矢が立った。今回は、この若き商品開発担当の挑戦の日々を追いながら、花王におけるよきモノづくりの醍醐味、周囲のメンバーとの関わり方を紹介していく。
花王は、若いうちから社員に裁量を与え、大きな仕事を任せていく。当時、入社1年目の終盤を迎えていた若き商品開発担当も、そのことを日々の仕事内容から感じてはいたものの、2年目を前にしていきなり「ビオレZ」というブランド全体の主担当になることが決まった時は驚いた。しかも、このブランドから新しい生活習慣の創造につながるような新商品の開発も任されたのだ。当時の気持ちを尋ねると、「コロナ禍での入社ということもあり、家で一人で仕事をすることが多く、先輩や上司と面と向かって接する機会が少ないことで、仕事の難易度以前に社会人としての振る舞いや仕事における心構えにも不安を感じていました」と打ち明けてくれた。実際、業務で関わることの多い研究員は「最初の頃はメールの書き方もわからなかったのでしょうね。仕事の相談がある時も直接電話がかかってきました」と笑う。しかし、その研究員は当時から、この商品開発担当の勉強熱心さには一目置いていた。容器のことでわからないことがあれば何でも積極的に聞いてきたし、調査結果などで納得できない点があれば議論の相手を頼まれたという。商品開発担当も「私自身の経験がゼロだったので、どのように生活者のニーズを掘り起こせば、新生ビオレZとして世の中に新しい価値を提供できるのかが分かりませんでした。商品コンセプトもほぼゼロからのスタートでしたからね」と振り返る。そして、そのゼロはそう簡単にイチになってはくれなかった。
花王のよきモノづくりはすべてのプロセスで妥協することがない。その出発点となる商品コンセプトの開発となればなおさらだ。商品開発担当は、同じ部署の商品開発マネジャーやグループメンバー、他部門とも何度も議論を重ねながら、コンセプトの開発に尽力した。しかし、最後の関門である部長が首を縦に振ってくれない。約5ヶ月もの間に何度も何度も部長の壁に跳ね返される。「いま思えば、生活者のニーズに対する深掘りがまったくできていなかったのです。ただ、その時は正直、“もう無理だ”と心が折れそうになっていました」。入社時からこの若き商品開発担当を見守ってきた部門人事も「あの時は周囲からの厳しい意見でかなり参っていましたね。私のところにも相談に来たので、“意見の批判と人格の否定は異なるよ。厳しい意見を含め徹底的に議論するのは、全員が共通して生活者に真に役立つものを開発したいという思いを持っているからだよ”と伝えました」と当時の様子を振り返る。商品開発担当はその言葉に頷くと、改めて身近な友人や家族に直接電話をかけまくり、コロナ禍ならではの汗に関する不満や要望をしつこく探り続けた。そして、再び部長の元へ。今回は1対1で議論した。「ようやく、生活者のことを本気で考えるようになったな。これだったら通すことができる」と商品コンセプトが部内で承諾されたのだ。
商品コンセプトが商品開発部の会議を通過したからといって、そのままスムーズに商品が世の中に出ることはまずない。今回の新商品でも従来のビオレZとは異なる包装技術を検討する必要があったのだが、最初は「これは無理だよ」と研究所の反応は冷ややかなものだった。しかし、あきらめるわけにはいかない。日頃から公私ともに相談を受ける研究員も、「包装技術に携わる立場からしたら、かなり難しい容器であることはすぐわかりました。ただ、商品開発担当の想いも伝わってきましたし、一研究者としても生活者の役に立てるなら挑戦するべきではと思ったのです」と理解を示してくれていた。商品開発担当も「この会社の人たちは本当にプロフェッショナルばかり。仕事では厳しいことを言われることもありますが、本当に頼りになる人たちです」と語る。そして、なんとか研究所の同意を得ることができ、容器開発のフェーズへ。その後もパッケージデザインの検討、安全性評価と一段一段階段を昇っていった。もちろん、どのステップも楽に通過できることはなかった。それでも全員で力を合わせ乗り越え、プロジェクトのスタートから約8ヶ月後の9月初頭。いよいよ会社として最終的にGOサインを出すか否かの商品化決定会議までたどり着いた。「一人では決して無理でしたね。とくに、最も近くにいる商品開発マネジャーは常に同じ目線に立って、並走してくれました」と商品開発担当は上司への感謝を口にした。
コロナ禍の混乱の中で始まった新入社員の大きな挑戦は、現在、無事に商品化が決定し、生産ゼロバッチと呼ばれる実際の生産工場でのテスト段階まで突入した。とはいえ当然、世の中の人たちがどのような反応を示すかはまだわからない。ただ、この商品開発に携わった花王のメンバーたちは、若き商品開発担当を筆頭に全員が自信を持って新生ビオレZを送り出すことだろう。そして、同時にこの商品開発担当の成長を喜んでいるに違いない。隣で見守り続けた商品開発マネジャーは「本当に、粘り強くなったね。ビオレZブランドの主担当として、どんどんヒット商品を生み出してほしい」と評価し、エールを送った。研究員も「最近はメールをくれるようになった。社会人としても成長したね」と笑う。部門人事は「コロナ禍で社内のコミュニケーションの絶対量が足りない中、よく頑張ったと思う」と労った。商品開発担当自身も「深く掘り下げ、生活者のニーズの本質を捉えたストーリーづくりの重要性を学びました」と成長のポイントを語り、「商品を開発するということが、ここまで苦しい仕事だとは思っていませんでした。でも、やっぱり全員の力で様々な壁を乗り越える仕事は面白いし、やりがいも大きい。これからも生活者の心を掴んで離さないような新商品を開発し続けたいですね」とさらなる目標を力強く語った。