達人コラム

立命館大学教授 矢藤優子先生
「見ているよ」が伝わる子育てが子どもを伸ばす

2021.05.11

親子だけで家で過ごす時間が増えたり、外出や子ども同士で遊ぶ機会が減ったりするなど、新型コロナウイルスの影響は子育て環境にも大きな変化をもたらしています。こうした変化が子どもの発達に与える影響を心配するママやパパも多いでしょう。子どもの行動発達・心理を研究されている矢藤優子先生に、今、子育てで大切にしたいことをうかがいました。

子育ても、今までどおりにいかなくて当たり前

「ミレニアル世代」といわれる今の20代後半~30代は、「育児は楽しいものだから、積極的にやらなきゃ損」と考える人が多いように感じています。現場レポート『withコロナを乗り切る育児 親子のコミュニケーションが社会性を育む』では「イクメン」という言葉に違和感を持つ親の声が紹介されていました。「イクママ」という言葉がないように、あえて「イクパパ」と表現するのは不自然。育児はママもパパも関係なくおこなうのが自然なことだという感覚を持っているのが、ミレニアル世代の特長でしょう。

また、多様な価値観で世の中が動く時代となり、親たちは、学歴うんぬんよりも「子どもがやりたいことをやって、自分を認めてもらう」ことが幸せな生き方だと感じ始めています。だから、子どもには「自己肯定感」や「社会性」を持ってほしいと強く願う傾向があるようです。それなのに、新型コロナウイルスの流行以降、他者とのコミュニケーションが制限されてしまい、子どもの発達に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

確かに発達心理学では、子ども同士で触れ合ったり、ケンカしたりする経験は大切だといわれています。しかし、それらの経験が少し減ったとしても、親やその周辺の人たちが子どもとの温かい関わりを保っていれば、社会性の発達が阻害されるということは、まずないでしょう。

今は世界中が同じような状況です。子育てにおいては、健康に過ごしてくれることが何よりもありがたいこと。家事も仕事もそうですが、子育てだって、「今までどおりにやらなくては」といった考え方を少しゆるめることが必要です。今までどおりにできないことを気にするのではなく、「今できることをする」という気持ちを持ちましょう。

「見ているよ」が伝わる子育てが子どもを伸ばす

自己肯定感は、何かをやるときの原動力であり、やる気の素になるものです。そして、乳幼児期の自己肯定感は、親など周囲の大人との関りの中で育っていきます。その関わり方で大切なのは、「ちゃんと見ているよ」が子どもに伝わるということです。

例えば、大人にとってはつまらないことのように見えても、子どもはとても真剣に取り組んでいる、といった場面はよくあります。そういうときに、見守る、ほめる、感心するといった、肯定的な親のフィードバックがあると、子どもは自己肯定感を持つことができます。

子どもを「見る」といっても、何もせずにじーっと見続ける必要はありません。家事をしながらでもいいので、子どもの様子がちゃんとわかっていれば大丈夫です。子どもが集中している間は静かに見守って、タイミングをはかって、ほめてあげましょう。

そのほめ方も、「えらいね」「上手だね」「よくできたね」でも悪くはありませんが、できるだけ具体的にほめることが大切です。例えば、塗り絵なら「鉛筆の持ち方がいいね」「はみ出さずに塗れたね」など、どこがよかったかを具体的に言いましょう。
また、プロセスをほめることも大事です。根気よく頑張っている過程や、工夫している過程をほめてあげると、子ども自身が「またやってみよう」と思える動機づけになります。

裏を返せば、具体的にほめるためには、『子どもの様子をちゃんと見ること』が必要です。意識して見ることで「1カ月前にはできなかったことが、できるようになった」など、子どものちょっとした成長に気付くことができ、それが親としての自信にもつながるかもしれませんね。

赤ちゃんだって、親の視線に敏感です

子どもは視線の動きにとても敏感です。生後5カ月の赤ちゃんでも、親の視線が自分から5度(数センチ)外れただけで笑顔が減る、という研究結果もあります。だから、スマホをしながらの育児は、要注意です。赤ちゃんが「あぁ」と声を出しても、ママやパパがスマホの画面に気を取られていたら、子どもは「自分よりもスマホのほうが大事なんだ」と感じてしまうことでしょう。「子どもといるときはスマホは見ない」くらいの気持ちを持ちましょう。

孤立育児にならないために、使えるものは使う!

コロナ禍で外出機会が減った上、親子向け施設の利用停止やイベントの中止なども相次ぎました。そうした中、子育てに孤独感を感じるママやパパもいるでしょう。そのような気持ちになったときは、「今、できることをしよう」と気持ちを切り替えて、子育て中のママや行政の育児支援などとつながるための情報収集をしてみてください。

本来、行政の子育て支援には、無料で参加できる親子向けの集まりやイベントなども多くあります。コロナ禍で、一時的にこうした支援が停止する傾向にありましたが、現在は感染症対策を取った上で再開する動きも出てきています。また、オンラインで親たちがつながれる取り組みを始めているところもあります。大学や企業、行政が協働しておこなっている子育て支援などもあります。

行政の広報や自治体のサイト、SNSなどで調べてみて、利用できるものは何でも使う気持ちで、一人で頑張りすぎないことが大切です。例えば集中して家事をしたいときやリフレッシュしたいときに自治体のファミリーサポートを利用するのもいいでしょう。夫でも祖父母でも頼れるものは頼りましょう。

コロナ禍での子育てQ&A

Q.子ども同士の遊び、どこまで大丈夫?
A.相手の親とざっくばらんに確認を。

人によって感染症対策に対する意識の違いがあるので、子ども同士で遊ばせることに気兼ねしたり、戸惑う人もいるでしょう。そんなときは、ざっくばらんに相手の親に確認してみればいいと思います。きっと、相手も「公園で遊ぶくらいなら、大丈夫かな?」「おうちで一緒に遊ばせてもいいかな?」など、考えを持っているに違いないのですから。また、リモートで友だち同士で話をする機会を持たせるなど、工夫してみるのもいいですね。

Q.マスク姿の大人とばかり接することの影響は?
A.目や動作、声でも気持ちは伝わります。

新型コロナウイルスの流行以降、外で会う大人がマスクをした人ばかりという状況が子どもに与える影響を心配する声も聞こえてきます。 確かに顔はコミュニケーションする上で大事なパーツです。しかし、人間は顔だけでコミュニケーションしているわけではなく、体の動きや声のトーン、話し方も表現ツールとして機能しています。目でちゃんと笑顔を作って、動作や声で親しみを表現できれば、その気持ちは子どもにしっかり伝わります。

Profile

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立命館大学教授
矢藤優子(やとうゆうこ)先生

立命館大学総合心理学部教授。大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了後、立命館大学文学部准教授、パリ第8大学LUTIN-User lab客員研究員、ジョージワシントン大学客員研究員などを経て、現職に。2018年度京都大学客員教授。研究テーマは、乳幼児期の子どもの発達における周りの環境との関りなど。2016年から、立命館大学大阪いばらきキャンパスを拠点にいばらきコホートを展開し、科学的根拠に基づく子育て支援のあり方についても研究している。2020年に花王株式会社 感覚科学研究所、サニタリー研究所との共同研究で「おむつ替え場面の親の言語コミュニケーションと子の社会性発達との関連」を発表。

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