達人コラム

『ACROSS』編集長 高野公三子さん
コロナ禍で変化するファッションへの意識

2021.02.09

新型コロナウイルスの影響で外出機会や人との交流が減少し、マスク着用が当たり前になった日常の中、ファッションに関する意識にも大きな変化が現れているようです。若者のファッション、カルチャーに詳しい株式会社パルコ『ACROSS(アクロス)』編集室の編集長 高野公三子さんに、お話をうかがいました。

ファッションの意識は「他人軸」から「自分軸」へ

『ACROSS』編集室では、東京の若者とファッションを観察・分析する「定点観測」を行っています。初めて緊急事態宣言が発動された昨年4、5月は、お店も臨時休業になり、渋谷・新宿・原宿では本当に人がいなくなりました。

緊急事態宣言解除後に若い人が再び都心部に戻ってきたとき、意外と新しい服を着ている人が多いことに気付かされました。街で買い物ができなかった間は、インターネットで購入していたようです。トレンドの白いTシャツを着ている人も多くいましたが、単に白いのではなく、質やデザインなどにこだわりを持って選び抜いたものを着て街に出ていました。

外出自粛期間に、「自分が着るもの」「自分を装うこと」に対して改めて向き合う心理があったのだろうと思います。くらしの現場レポート『美容で気持ちをアップ! 自分磨きでwithコロナを楽しく』にも、誰かの目線を気にしてではなく、自分自身のために美容に励み、そのことによって明るい気分になっていた様子がありました。同じようにファッションも、立場やTPOに合わせたり、他人の目線よりも、「自分が気持ちいいものを着よう」とか「自分が好きなものを着る」という意識が強くなったのではないでしょうか。

私たちは、分析でよく「自分軸・他人軸」という言葉で表現していますが、新型コロナウイルスによる外出自粛期間を経て、自分の着ているファッションが「他人からどう見られるか」より、「自分自身がどうありたいか」に変化してきたという印象を持っています。
そうした意識は、衣服のデザインや素材の選択だけでなく、「誰が作ったものか」という点も重要視されるようになっています。例えば、若者の中には「応援」という意味で、友だちや知り合いのお店の作る衣服を買っている人もいました。

マスクは機能性とさりげなさで選ぶ

コロナ禍以前から花粉症などでマスクに慣れ親しんできた日本人の場合、ファッションとマスクは別物という意識が強い気がします。

ファッションに関心が高い人たちも白い不織布のマスクを使用している様子が多くみられますが、若い方には、フェイスラインにフィットする形・素材で、グレーやベージュ色の全身になじむような、さりげなくコーディネイトできるものが好まれています。黒も人気ですね。

一方、上の世代はというと、洋服に合わせた柄やレースなど、ファッションアイテムとしての一面も楽しみながら選んでいる方が多い気がします。お子さんがいる方だと、子どもの洋服の柄に合わせてマスクも親子でおそろいにしていたりして。そういった手作り感があるものもいいですよね。

ウチとソトがつながる衣服へのニーズ

「自分が気持ちいいものを着る」という話にもつながりますが、新型コロナウイルスによるステイホームの影響で、日常着の選び方にも変化が起きました。

例えば、会社員の場合、オンラインミーティングで上半身がかちっと見えるように、きちんと感のあるシャツブラウスやリラックスできる襟付きのシャツを買い足したり。一方で学生は、いつでもすぐにエクササイズできるような着心地のいいスタイルが増えたりもしました。
パジャマみたいだけどパジャマじゃないといったシャツとパンツのセットアップのように、自宅でリラックスできるけどテイクアウトを買いに行く程度の外出はできる。そんな、ウチとソトがつながる衣服へのニーズは、これからもあると思います。

また、オンラインを意識したり、マスクを日常的に使うようになったことで、顔の周りに何かしらの装いをしたいという気持ちがあるようで、アクセサリーが人気です。イヤリングだとマスクのゴムの邪魔になるので、ネックレスなど。最近は男性のネックレスも増えています。

閉塞感のあるときこそ、装いを楽しんで

2020年12月時点の定点調査では、ファッションや髪色、マスカラがカラフルになるなどの変化がみられました。『ACROSS』でも「金髪」をテーマに取り上げています。閉塞感が漂うときだからこそ、カラフルな髪色で気分を上げたい!という思いがあるのかもしれません。
今は美容技術が進歩して、生地の染色と同じようにきれいなグラデーションを髪色につけることもできます。洋服の柄を選ぶように、髪色もファッションのパーツとして自由に選ぶ時代になってきたようです。

新型コロナウイルスが収束しないまま新しい年を迎え、「2021年春のファッションはどうなるか」と考えたとき、昨年に引き続いて居心地のよさを重視するライフコンシャスなものや、SDGsを意識したスタイルが幅広い層に受け入れられると予測できます。でも、その一方で、カラフルな髪色に象徴されるような気分を上げてくれるプレジャーなもの、ハッピー感のあるスタイルも求められていくのではないでしょうか。

「服」は社会で自分を表現するものでもあるため、リラックスできるものだけでなく、新たな装いを試してみるのもいいかもしれません。この春は、自分の美を鍛えるつもりで、新しい情報のインプットを意識してみてはどうでしょう。そして、ちょっと気になる装いがあれば試してみると、新しい気づきがあるかもしれません。ファッションと気分は密接な関係です。だからこそ、装いを楽しむ気持ち、大切ですよね。

Profile

『ACROSS』編集長たかのくみこさんのお写真

株式会社パルコ『ACROSS(アクロス)』編集室 編集長
高野公三子(たかのくみこ)さん

パルコのファッション&カルチャーのシンクタンク『ACROSS』の代表。東京の若者とファッションを観察・分析する「定点観測」をベースに、外部企業と共同研究を行う他、トレンド予測や大学などで講師も勤める。2021年春、『東京のファッション・カルチャーの現代史〜定点観測1980-2020の記録』(パルコ出版)を上梓予定。 共著に『ファッションは語りはじめた~現代日本のファッション批評』(フィルムアート社)、『ジャパニーズデザイナー』(ダイヤモンド社)他。日本流行色協会トレンドカラー選考委員、昭和女子大学・文化学園大学院講師。

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