達人コラム
2021.09.07
持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals )」は、2015年に国連サミットで採択された地球や人類存続のために2030年までに達成したい世界共通の目標です。関心はあっても、自分一人の力ではどうしようもないと感じる方もいるかもしれませんが、一人ひとりの行動が大きな変化につながる可能性もあります。「人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動」=「エシカル」の普及に尽力されている末吉里花さんに、誰でも簡単に始められるSDGsアクションについてうかがいました。
くらしの現場レポート『コロナで変わった日常に新たな気付き ニューノーマルな暮らしとつながるSDGs』にもあったようにSDGsの認知度は、2019年から2020年にかけて急激に高まってきました。その理由は、メディアで取り上げる機会が増えたことに加えて、学校教育の影響もあります。小学校の授業ではSDGsを学びますし、2021年度に改定された中学校の教科書には初めて「エシカル消費」が記載されました。来年度からは高校の教科書にSDGsや「エシカル消費」の掲載が決まっています。
若い人たちがSDGsを当たり前のこととして捉え始めているので、企業も真剣に取り組ませざるを得ない状況も出てきました。今後は、下から突き上げるような形で、SDGsの普及がもっともっと加速していくのではないでしょうか。
くらしの現場レポートでも、大人に比べて学生のSDGs関心度は高い結果でした。日本に限らず、ほかの先進国でもそうですが、若者たちの意識の高まりが未来を開く鍵を握っているのだと強く感じています。
コロナ禍では、衛生面の対策で使い捨てが多くなったり、テイクアウトやデリバリーの利用による容器ごみが増えたりして、それが気になる人もいるようです。こうした懸念は、私たちが推進してきた「エシカル=私たちの良心と結び付いていて、人や社会、環境に配慮されている」という考え方の中でも、とても大事な視点だと思います。
例えば、エシカル消費やサステナブルな製品が世の中に広まったとしても、そういったものをたくさん作って、たくさん消費して、たくさん廃棄していては、元も子もないわけです。大事なのは、どうすれば全体の量を減らすことができるのか、ということです。
どうやったら、地球1個分の資源に見合った暮らしを、みんなで実現できるのか。それを考えたとき、「物を大切に使い続ける」「リサイクルできるからといって、たくさん作りすぎない」といったことに意識を傾けていくことが大事だと気付かされます。
SDGsを達成するためのアクションは、国や企業でなくても、個人の日常生活でもできます。お金もかからないし、誰でも簡単に実行できることといえば、エシカルな視点で生活者としての声を社会に届けていくことです。
例えば、食品売り場の鶏卵。鶏を狭いケージに押し込め、卵を産むマシーンのような扱いをするケージ飼いは、鶏に多大なストレスを与えます。一方、鶏が自由に動き回れて自然に近い環境で育てる平飼い(放し飼い)は、鶏にやさしい飼い方と言えます。鶏に与える負荷の違いは、卵の品質の差にも表れます。ある人は、自分がいつも行くスーパーに平飼いの卵が置いていなかったので、お店の人に「卵は動物に配慮したものを選びたい」と伝えました。すると翌月から、そのスーパーでは平飼いの卵も置かれるようになったそうです。
食品に限らず、その製品がエシカルなものかどうかを見極めるときに、助けになるのが認証ラベルです。エシカル協会が消費者庁との連携で小学生を対象に行っているワークショップでは、製品に付いている認証ラベルを中心に、その製品の背景にはどんなことがあるのかを考えます。ふだん食べているバナナやチョコレートの背景には、自分たちと同じくらいの子どもたちが学校にも行けず、友達とも遊べずに、低賃金で働かされている児童労働などの問題が隠れていることも伝えます。
ワークショップがきっかけとなって、子どもたちはエシカルに関心を持ち、その視点が家庭の会話で親に伝わり、さらには買い物で利用するお店に伝わって、結果的に社会を動かしていく。こうした手応えを感じています。
JAS法で定められた有機生産基準で生産、加工された食品。自然の力で生産されていることを示す
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森林保護や働く人の人権推進など、より持続可能な農法を行う農園で栽培された原料による製品を示す
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責任をもって管理されている森林の木材やリサイクル資源が使われていることを示す
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環境や社会に配慮した生産が行われていることを表す、持続可能なパームオイルの認証マーク
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*活動状況をwww.rspo.org (英語)でご確認ください
水産資源と環境に配慮し適切に管理された、持続可能な漁業で獲られた水産物であることを示す
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製品の原料が生産され、輸出入、加工、製造されるまでの間に、国際フェアトレードラベル機構が定めた基準が守られていることを示す
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エシカル消費は、人や環境、社会に配慮した消費やサービスのことを指しますが、その中にはフェアトレードやオーガニック製品、障がいのある方たちが作る製品、動物福祉、リサイクル、アップサイクル、地産地消、応援消費など、多くのものを含んでいます。ただ、すべてに共通しているのが、こうした消費行動がいくつもの笑顔を生み出すということです。
例えば、『フェアトレード製品を購入すること』は、働き手と彼らが暮らす地域に貢献することにもつながります。なぜなら、その売り上げは働き手に渡るだけでなく、地域に不足しているクリニックや学校などを建てるための資金にもなるからです。また、フェアトレードの働き手は社会的立場の弱い女性たちが多いのですが、彼女たちの賃金が子どもの教育費になり、子どもたちは教育を受けることで、仕事を得る機会を得ることにつながっていきます。
フェアトレード製品は「値段が高い」と躊躇する人もいますが、例えば、安い洋服を何枚も買っているのであれば、エシカルな服1枚を大切に長く着てみてはどうでしょう?自分が購入することで生まれる、いくつもの笑顔を想像してみてください。服を着ることが誇りに思えてきませんか?誰かの笑顔によって生まれて、着る自分も笑顔でいられる。ただ「費やして消す」消費ではなく、「人と人との関係性を生む」消費が、エシカル消費です。
日本にはもともとエシカルな消費活動を簡単に表す言葉がありました。それは「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」。売り手と買い手が満足し、さらに社会貢献できるという、近江商人が昔から大切にしてきた商売の鉄則です。ここに、「作り手よし」「未来よし」を加えて「五方よし」となるのが、エシカル消費。買い手だけでなく、作り手も売り手も満足できて、地球の未来も守れます。
エシカル消費の第一歩は、何かを「欲しい」と思ったとき、「本当に必要なものか」を考えること。そして、買うときには、未来にも目を向けてみることが大切です。私たちはよく「エシカル消費は、過去・現在・未来を考えて消費すること」と言っています。どこで誰がつくったのか(過去)、どう使うのか(現在)、使い終えたらどうするのか(未来)を考えてみましょう。
使い終えたあとはリサイクルやリユース、リメイクができるのか、といった未来のことまで意識して買い物することが、結果的に世界の課題を解決することにつながります。
最近は、トイレットペーパーや洗剤などの日用品にも、サステナブルでありながら、お手頃なものも増えてきました。普段の買い物でも気軽にできるアクションです。
また、自分が好きなことや、いちばんお金を使ってきたことから、エシカル消費を始めてみるのも、おすすめです。例えば、よくコーヒーを飲む人ならコーヒーに関して、洋服が好きな人なら洋服に関して、その製品が生まれる背景を想像しながら、商品を選んでみましょう。
まずは自分が実行しやすい身近なことから始めてみて、そこから生まれる変化を、ぜひ実感してみてください。
Profile
慶応義塾大学総合政策学部卒業。TBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅した経験を持つ。2015年、一般社団法人 エシカル協会を設立し、日本全国の自治体や企業、教育機関で、エシカル消費の普及を目指し、講演を重ねている。著書に『はじめてのエシカル』、絵本『じゅんびはいいかい?〜名もなきこざるとエシカルな冒険〜』など。日本ユネスコ国内委員会広報大使。東京都消費生活対策審議会委員、日本エシカル推進協議会理事、日本サステナブル・ラベル協会理事、環境省中央環境審議会 循環型社会部会委員、花王株式会社ESGアドバイザリーボードなども務めている。