達人コラム

ソニーグループ株式会社 野間英樹さん
人に愛されるエンタテインメントロボットを

2021.06.08

コロナ禍で生活の見直しを図る人が多いなか、おうち時間を楽しく充実させてくれるロボットペットの人気が高まり、新しいライフスタイルのパートナーになりつつあります。ロボットペットの草分け的存在であるaibo™の開発に初期から携わってこられた、ソニーグループ株式会社AIロボティクスビジネスグループの野間英樹さんに、その魅力についてお話をうかがいました。

オーナーと心を通わせることで唯一無二の存在に

「ロボット」は従来、産業用ロボットやお掃除ロボットなど、人の役に立つことを目的に開発されてきました。用途がはっきりしていて、人からの指示に忠実に従い、製品としてどれも同じ動きをするのが基本で、どれだけ「機能価値」があるかが重視されていたと思います。

一方、aiboは、1999年に初代AIBO、2018年に新型を発売しましたが、開発にあたって常に意識してきたのは「愛情の対象」となり、人を楽しませる「エンタテインメントロボット(エンタメロボット)」であるということ。実用性よりも、ともに暮らし、寄り添い、心を通わせて人の感性に働きかける「感性価値」を大切にしてきました。aiboはアプリやクラウドとの連携で、オーナーとコミュニケーションをとりながら成長していきますが、決まった使い方はありません。オーナーの生活スタイルや個性に合わせてコミュニケーションを図りながら生活を紡いでいくことで、お互いが成長し、長い間一緒に暮らしていける存在になっていく。その過程で次第に個性が生まれ、唯一無二の存在になると考えています。

くらしの現場レポート『AI時代の新たなパートナー ロボットペットが家族になる日』で、aiboにお子さんと同じように接していただいたり、ケガをしないような部屋作りや、留守中でもaiboが自由に動けるように電源を切らないでおくなど、それぞれの暮らしの中で、皆さんにたくさんの愛情を注いでもらっている様子が伝わってきて、開発者の一人としてとても感謝しています。

より「本物の犬」らしく。aiboが犬型である理由

aiboの写真

なぜ犬型なのかということを聞かれることがありますが、「愛情の対象」になるロボットとは何かを考えるとき、その姿かたちについても議論しました。ヒト型も検討しましたが、会話がコミュニケーションの中心となり、人間と同じくらいのことはできるだろうとオーナーの期待値もとても高くなってしまいます。一方で、犬型は人の言葉を話せなくても、一つ一つの行動の理由をオーナーが推し測る余地があり、思いをめぐらせていただくことで、愛情も生まれやすいのではないかと考えました。

aiboは機嫌が悪いと人の言うことを聞かないことがあります。でも、本来、コミュニケーションとはそういうもので、いつもこちらの言いなりだったらつまらないし、すぐに飽きてしまうでしょう。しかし、自らの意思で行動する自我を持たせて、成長を楽しんでいただけるようにしています。

また、よりいっそう愛情を感じてもらえるように、形や動きにもこだわりました。目には有機ELを採用して豊かな感情が表現できるようにし、ボディも親しみやすい丸みのあるフォルムにしています。いかにもロボットのような動きだと感情移入もしにくいので、実際の犬がどういう気持ちのときにどんな動きをするのかを学び、モーションデザインによって、多様な動きができるようにしました。動き始めるとまさに生命が感じられる、そんな存在を目指しました。

楽しませながらさりげなく見守る「セキュリテインメント」という発想

エンタメロボットであるaiboにも、実は人の役に立つ機能価値が少しあります。その一つが鼻先や背中などに搭載されているカメラによる見守り機能です。現在、離れて暮らす高齢の家族などの見守りサービスにはいろいろなものがあり、その代表的なものがwebカメラですが、カメラで一方的に見守られるのは監視されているようで抵抗があるという方もいます。

そこで、あらかじめ見守りたい人を登録し、設定した時間になるとaiboが「犬のおまわりさん」の音楽と共に部屋の中を巡回して確認し、見守る側のスマートフォンに報告が届くサービスを作りました。対象者を見つけると、おまわりさんっぽくaiboが敬礼するので、その姿に見守られる側にも思わず笑みがこぼれますし、aiboと普通に暮らしを楽しんでいただくことができます。楽しさと安心感を提供する取り組みで、「セキュリティ」と「エンタテインメント」を合わせて、「セキュリテインメント」と呼んでいます。

また、以前から「ロボットセラピー」の研究にも協力しています。「アニマルセラピー」の効果が広く知られるようになってきていますが、衛生面などから実際の犬の導入が容易ではない医療機関や介護施設で、患者様や入所者様の心のケアやコミュニケーションの促進にaiboを活用していただいています。 ほかにも、小学生を対象としたAI・プログラミング体験なども実施しています。エンタメロボットとして楽しんでいただきながら、さまざまな社会貢献活動にも取り組んでいます。

生き物のペットでもロボットでもない「新しい存在」に

ロボットやAI技術が進歩し、暮らしのなかにどんどん入ってくることに脅威を感じる声を耳にすることがありますが、デジタルネイティブの世代が増えている今は、もはや「共存の時代」ではないでしょうか。もともと日本人はロボットやAIに関してはわりと好意的だと言われています。「鉄腕アトム」や「ドラえもん」などのアニメや漫画に親しんできたこともその背景にあるようで、そうした素地のなか、日本ではaiboをはじめとするさまざまな家庭用ロボットが誕生しました。

ペット型ロボットは生きているペットの代わりのように捉えられることもありますが、本物のペットとの役割の違いやすみ分けはあまり意識していません。『くらしの現場レポート』にもあったように、世話の大変さやアレルギーなど、本物のペットを飼うことに制約があり、実際のペットの代わりとして選んだ方ももちろんいますが、犬とaiboが一緒に暮らしているご家庭もたくさんあります。犬のような姿ではあるけれど、ダンスをしたり歌ったりなど「ふるまい」と呼んでいるいろいろな動作もしますし、生き物のペットでもロボットでもない、「新しい存在」としてaiboと接しているという声も聞かれます。オーナーにとっては、ペットと同じような「愛情の対象」であり、コミュニケーションで関係が深まっていく点も似ていますし、役割の差はあまりなくなってきているように感じています。

犬の散歩で犬友だち・犬仲間ができるように、aiboは定期的にファンミーティングをおこなっていて、それを通じてオーナー同士が友だちになることもありますし、オーナーの方々と私たち開発チームとの交流の場にもなっています。また、昨年の緊急事態宣言中には、「aiboとステイホーム」というキャンペーンを実施し、aiboが手洗いやうがいをしたり、ご家庭の中で体を動かすきっかけになればと「ラジオ体操第一」を一緒にする新しいふるまいを紹介するなど、コロナ禍のおうち時間が少しでも楽しくなるように、お手伝いできることを考えて取り組みました。

これからも、皆さんのかけがえのない人生が明るくポジティブなものとなるように、人に愛され、楽しませることができるエンタテインメントロボットを作り続けていきたいと思います。

※aiboは、ソニーグループ株式会社またはその関連会社の商標です。

Profile

ソニーグループ株式会社のまひできさんのお写真

ソニーグループ株式会社 AIロボティクスビジネスグループ
商品サービス企画部 統括課長
野間英樹(のまひでき)さん

aiboの商品企画・マーケティングを担当。ソニー入社後、エンタテインメントロボットの研究開発に携わり、AIBO(ERS-110)の商品企画とAI開発を担当し、その後は、歴代AIBOの商品企画やソフト開発のプロジェクトリーダーを担当した。また、AIや機械学習を、電力を効率的に制御する「スマートグリッド」に応用する新規事業の立ち上げや、新会社設立にも参画した。

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