
この記事の監修者
作業療法士
菅原 洋平さん

ユークロニア株式会社代表。国立病院機構にて高次脳機能障害や神経難病のリハビリテーションに従事。
2012年ユークロニア株式会社を設立。現在は、ベスリクリニック(東京都千代田区)で薬に頼らない睡眠外来を担当する傍ら、 大企業の健康経営や働き方改革を推進し、その活動は、テレビや雑誌などでも注目を集める。
主な著書に、14万部を超えるベストセラー「あなたの人生を変える睡眠の法則」、 12万部突破の「すぐやる!行動力を高める科学的な方法」「多忙感」など多数。

「2021年:経済協力開発機構」 のデータによると日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、OECD加盟国の中で一番短いというデータが出ている。
「令和5年 国民健康・栄養調査結果」 では、20歳以上で「1日の平均睡眠時間が6時間未満」の割合は男性38.5%、女性43.6%。
また、ここ1ヵ月間に睡眠で休養がとれていると回答した人の割合は74.9%で、約25%(4人に1人)の人が十分な休養が取れていないと感じている。
一般的に寝不足は「十分な睡眠をとれていない状態」というふうに説明されることが多い。
「睡眠の量」と「睡眠の質」の両方(もしくはどちらか)が不十分だと、寝不足による症状や影響が現れやすくなる。
【睡眠の量】
【睡眠の質】

【気持ち悪さや吐き気を感じる】
【頭痛が起こりやすくなる】
※原因の断定は難しい
【クマができやすくなる】
【肌が荒れやすくなる】
それぞれの原因は異なるものの、寝不足による血流の悪化や成長ホルモンの低下が、身体に悪影響を及ぼしている。
過去には、22~2時が成長ホルモンのゴールデンタイムという情報が広まったが、成長ホルモンの分泌量と就寝時間に大きな関連はなく、睡眠の深さに強く依存するというのが正しい見解。
そのため、早く寝ることよりも睡眠環境やリズムを整えて、深い睡眠に入れる工夫をすることが大切。

「寝不足の状態では、日中の覚醒度が下がり、集中力や判断力も低下する。結果として作業効率の低下や選択ミスなどにつながる。
逆に十分な睡眠を取った人は、テストの成績や手続き記憶(運動技能)の結果がよかったという研究も多数存在する。

寝不足が続くと、食欲を抑制する「レプチン」というホルモンの分泌が減少し、食欲を増進させる「グレリン」というホルモンが増加することがわかっている。
また、英国の27,263人の成人を対象に自己申告の睡眠(質と時間)と食行動を解析した調査では、睡眠の質が低い人や睡眠時間が7時間未満の人は「退屈・ストレス・怒りによる過食」「高カロリー食品の摂取頻度」が高い傾向にあるという結果も出ている。

睡眠中には免疫を含む細胞の調整や修復がおこなわれている。寝不足によって免疫細胞の働きが低下し、ウイルスへの抵抗力も弱まることで、風邪やインフルエンザなどの発症リスクが高まる。
免疫力を高めるには、まずは十分な睡眠を取ることが第一優先。いくら身体によいものを食べたとしても、土台となる睡眠が整っていないと、栄養素をうまく取り入れることができない。
また、「これさえ食べればOK」というものはないので、食事に関しては中長期的な視点で考えることが重要になってくる。

寝不足は感情制御機能を乱し、普段は気にならないことに反応したり、ちょっとしたことでイライラしやすくなったりする。
また、Sleep誌に2021年6月に掲載されたメタ分析では、寝不足はネガティブな気分(怒り・不安・落ち込みなど)を中程度(効果量 g≈0.45)増大させ、ポジティブな気分を大きく低下させると報告されている。

必要な睡眠時間は個人差が大きいものの、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では「1日の睡眠時間が少なくとも6時間以上確保できるように努める」ことが推奨されている。
とはいえ、「毎日6時間以上寝る」というふうに固執してしまうとハードルが上がり行動できなくなる。
そうではなく、毎日10分早く寝ることで「1ヵ月で睡眠時間が5時間増える」という累積量で考えることが大事。
また、「毎日の睡眠時間」を固定してしまうと、本来は早く寝られる日でも「今日は余裕があるから少しだけ映画を見よう」というふうに考えてしまい、睡眠時間を取りこぼしてしまう可能性も。

起床時間が揃っていると、夜に眠くなりやすいです。一方、「夜何時までに寝ないといけない・何時までに起きないといけない」と考えると睡眠が難しく感じてしまいます。
眠くなったタイミングで思い切って寝てみる・朝は同じ時間に起きることを習慣にすることで、深い睡眠に入ることができ、夜に自然と眠れるという好循環が生まれやすくなります。

体内リズムには「メラトニンのリズム」「深部体温リズム」「睡眠覚醒リズム」などがあり、どの影響を受けやすいかは個人差が大きい。
【メラトニンのリズム】
【深部体温リズム】
【睡眠覚醒リズム】
1つのリズムが整うと、ほかのリズムも同調して整いやすくなるので、全部を同時にやることにこだわる必要はない。
また、無理に毎日続けなくても、週に4日以上続けることができれば、自然と全体のリズムも整ってくる。

生活リズムは2週間単位で変化しやすいので、もっともやりやすいものを週に4日以上続けることを目標に取り組んでみましょう。

日中に身体を動かして適度な疲れを感じると、夜に眠気を感じやすくなる。
また、人間の深部体温は、起床から11時間後あたりをピークに、そこから徐々に低下していく。このタイミングで身体を動かして深部体温を高めておくことで、下がり幅が大きくなり、眠気を促進することができる。
身体を動かすといっても、激しい運動や筋トレが必須な訳ではなく、生活スタイルに合わせて、できそうなことから始めてみよう。

朝食を摂ることで朝型のリズムに整いやすくなるが、このときに朝食前の絶食時間(前日の夕食~次の日の朝食までの時間)をできるだけ長くすることがポイント。
そのためにはできるだけ夕食を早めに済ませることが望ましいが、毎日実行するのが難しい場合は、休日は夕食を早めにすることから始めてみよう。
また、平日は残業で帰宅が遅くなる場合は、残業前に軽く食事を取り、帰宅後はできるだけ消化のよいものを食べるなど、帰宅後の食事量を減らすのも有効な方法。

湯船に浸かると深部体温が上昇し、入浴後には頭頂部や足の裏から放熱が起こり、1時間30分~2時間くらいかけて深部体温が下がる。この深部体温の低下によって自然な眠気が誘発される。
湯船の温度は40℃前後で、10~15分ほど浸かるのが目安。42℃以上の熱いお湯は交感神経の活動を優位にしてしまうので、夜は避けるようにしよう。
また、炭酸入浴剤(炭酸ガス系)を入れると、血行促進効果や温浴効果が高まり、眠気の誘発や熟眠感の向上も期待できる。

日本睡眠学会では、寝室の適温は16〜20℃、湿度は40〜60%が推奨されている。
ただし、住んでいる地域の気候や住宅の造り、体質によっても変化するので「自分が快適に感じるか」を基準に設定するとよい。
また、布団の中の環境も睡眠の質に影響を及ぼすとされており、日本睡眠科学研究所の実験では、寝床内気象(寝ているときの布団の中の温度や湿度)の理想的な条件は「温度33℃±1℃」「湿度50%±5%」が最適であることが報告されている。
深部体温の上昇〜放熱によって自然な眠気が誘発され、深い睡眠に入りやすくなる。深部体温を効率よく低下させるには、足などの末梢から放熱を促すことが重要。
たとえば、蒸気温熱で目元を温めるとリラックス効果が高まり、放熱が促進されることによって、スムーズな入眠を促してくれる。
また、リラックス効果が高まることで余計な緊張や肩の力が抜けて、睡眠の質にも良い影響を与える。

睡眠と覚醒のリズムを維持するには、起床から約6時間後を目安(遅くても15時まで)に30分以内の仮眠をとるようにしよう。30分以上寝ると夜の睡眠に悪影響を及ぼす恐れがある。
また、カフェインは摂取後30分ほどで覚醒効果が高まるので、昼寝の前にカフェインを摂ると、覚醒のタイミングに合わせてスムーズに目覚めることができる。
昼寝の時間を取るのが難しい場合は、1分ほど目を閉じるだけでもスッキリした感覚を得ることができる。