この記事の監修者
東京都市大学 人間科学部教授
早坂 信哉さん
高齢者医療の経験から入浴の重要性に気づき4万人以上の入浴を調査した、入浴や温泉に関する医学的研究の第一人者。「世界一受けたい授業」「あさイチ」などテレビやラジオ、新聞や講演など多方面で活躍中。著書「最高の入浴法」(大和書房)「おうち時間を快適に過ごす入浴は究極の疲労回復術」(山と溪谷社)など。
湯船入浴の代表的な効果が、身体を温める「温熱作用」。湯船に浸かると、ただ身体が温まるだけではなく、体温が上がることで血管が広がり、血の巡りもスムーズになる。
そもそも血液は、酸素や栄養を身体のすみずみまで運び、老廃物や疲れのもとになる物質を回収するはたらきがある。
血流が良くなると新陳代謝が活発になり、疲れを和らげ、身体をリフレッシュさせる効果が期待できる。
逆にシャワーを浴びるだけでは、十分に身体が温まらないため、身体を温める「温熱作用」が弱まってしまう。入浴できるときは、しっかりと湯船で身体を温めるのがおすすめ。
肩まで浸かった全身浴の状態でウエストを測ると、湯船に入っていないときと比べて数センチ縮む。
このように、お湯に浸かるとお湯の水圧によって身体がほどよくしめつけられ、全身がマッサージされたような状態になる「静水圧作用」がはたらく。
適度なしめつけによって、身体を温める「温熱作用」と同様に、血液の流れがよくなる効果が期待できる。
立ち仕事やデスクワークが長時間続くと、重力によって、足がむくんでしまう。水圧で身体をほどよくしめつけることで、溜まっている血液が心臓に戻り、むくみの解消にもつながる。
日常生活では、身体に常に重力がかかっているが、お湯の中では「浮力作用」がはたらくため、重力から解放された状態になる。
関節や筋肉への緊張がゆるむため、身体がリラックスした状態になる。
身体の汚れを洗い流す「清浄作用」も、入浴の大切な効果の1つ。身体を洗い流すことで、皮膚の表面についた汚れや皮脂を落とすことができる。
とくに温かいお湯に浸かると毛穴が開いて、毛穴に詰まった皮脂や汚れなどが流れ出やすくなる。シャワーだけで済ませるよりは湯船に浸かったほうが、全身をくまなく洗浄しやすい。
湯船に好みの香り入浴剤を入れたり、洗面器にお湯を張ってアロマオイルを数滴たらすと、浴室に香りが広がる。好きな香りに包まれることでリラックスでき、自律神経を調整する効果が期待できる。
また、鼻やのどの粘膜は、乾燥すると免疫力が落ちてしまう。湿度の高い浴室内で呼吸をし、湯気を吸うことで、鼻やのどの粘膜に湿り気を与え、乾燥を防ぐことができる。
湯船入浴の温度は、少しぬるいと感じる「38〜40℃」を目安にしよう。
幅広い年齢や体力の人にとっても入りやすい温度で、のぼせやヒートショックなどの体調不良も起こりにくい。
長くお湯に浸かりすぎると、のぼせなどの体調不良を起こしたり、身体に負担をかけたりするリスクが高まる。そのため、顔や額がじんわり汗ばむくらいを目安にして、10〜15分程度の入浴にとどめよう。
半身浴の場合、全身浴と比較して湯船入浴で得られる健康効果も半減してしまう。
とくに、半身浴では身体を温めて血流をよくする「温熱作用」が弱くなってしまう。また、全身浴では、下半身により大きな水圧がかかるため、むくみの解消に効果的な「静水圧作用」も強くはたらく。
ただ、湯船への入り方は注意。いきなり浴槽に浸かると、身体が驚いて負担がかかる可能性もあるため、まずはかけ湯で身体を慣らしてから湯船に入るようにしよう。
呼吸器や心臓に持病がある方は、水圧で負担をかけてしまう可能性がありますので、かかりつけの医師に相談してから湯船に浸かるのがおすすめです。肩まで浸かると息苦しいと感じる場合は、無理をせずに湯船入浴を控えるようにしましょう。
基本的な湯船入浴方法は紹介したが、目的に応じて温度や時間を調整するのもおすすめ。基本的な湯船入浴方法を試してさらにこだわりたい人は、下記の目的別の方法を試してみよう。
それぞれの詳しい入浴方法は下記記事で解説しているので、詳細が気になる人はチェックしてみよう。
冬場に暖房のない脱衣所で服を脱ぐと、「寒さ」によって交感神経が刺激され、血圧が上がってしまう。そのあとに42℃以上の熱い湯に浸かると、その「熱さ」によってさらに交感神経が刺激される。冬場は脱衣所を温めておき、浴室との温度差をなくしておこう。
夏場に脱衣所で扇風機を使う場合、大きな温度変化はないため、ヒートショックのリスクも少ない。
ただし、強力な冷房で脱衣所を極端に冷やす場合(浴室が35℃・脱衣所が20℃などの大きな温度差がある場合)、急激な温度変化によって、ヒートショックのリスクが生じる可能性もあるので注意。
いきなり熱いお湯に浸かると、身体の心拍数や血圧が上がる可能性がある。
湯船に入る前に「かけ湯」をすることで、身体がお湯の温度や刺激にゆっくりと慣れていくため、心拍数や血圧の急上昇を防ぐ効果が期待できる。
また、「かけ湯」をするときは、手先・足先からはじめる。そのあとに胸やお腹などの内臓に近い場所にかけるようにしよう。
入浴中は、汗をかくことで水分やミネラルが失われるため、入浴前後の水分補給が大切。できれば、入浴中も水分補給をおこなうとよい。
飲み物は水でもよいが、おすすめはミネラルを含む麦茶。水よりも体内への吸収がよく、脱水を改善する作用が強いという研究結果が出ている。カフェインも含まないため、就寝前でも飲みやすい。
アルコール以外の飲み物であれば、好きなもので水分補給をして構いません。たとえば、スポーツドリンクなどのブドウ糖を含む飲料も、体内への吸収がよく、脱水を改善する作用に優れています。ただし、糖分が多いため、ダイエット中の人や子どもに習慣として飲ませるには、注意が必要です。
外出先から帰宅したあとに入浴することで、交感神経が活発な「仕事モード」から、副交感神経が優位になる「休息モード」へ、スムーズに切り替えることができる。
ただし、外出時に電車やバスを乗り継ぐだけでも、帰宅後は筋肉への血液循環が活発になっているため、30分程度の間隔を空けるのがおすすめ。
約30分後を目安にお風呂に入れるよう、帰宅後はすぐに入浴準備に取り掛かろう。
食事と入浴のタイミングについては、どちらを先にしてもいい。食事の直前・直後に入浴すると、胃腸に血が巡りにくくなり、消化の妨げとなってしまう可能性がある。
どちらを先にするとしても、食事と入浴の間は、30分程度の間隔を空けることを心がけよう。
入浴剤には「医薬部外品」と「浴用化粧料」の2種類がある。
医薬部外品は、疲労回復・肩こり・腰痛・荒れ性・しっしんなどに効果があるものを指す。浴用化粧料は、美容を目的としたもの。美肌によい成分などが配合されていたり、湯の触り心地や香りにこだわっている商品が多い。
また、入浴剤の種類として、お湯に入れると泡が出て溶け出していく「炭酸系」、肌にうるおいを与えたりする「スキンケア系」などがある。
香りについては、人によって好みが異なるため、自分が心地よいと感じる香りのものを選ぶのがおすすめ。
入浴剤は、「これがよい」「これがだめ」というわけではなく、湯船入浴の目的や、自分の状態・好みに合わせて選ぶようにしよう。