
この記事の監修者
埼玉県立大学 教授・博士
有竹 清夏さん

睡眠や生体リズム、体温調節と睡眠の関係、運動や生活習慣が睡眠に与える影響を専門とする睡眠研究者。
温熱刺激や身体運動の刺激が睡眠の質に与える影響についての研究など、多面的なアプローチで睡眠のメカニズム解明に取り組んでいる。
また厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」の研究分担者として、エビデンスに基づいた生活習慣改善アドバイスの策定にも携わっている。

睡眠の質は、専門機関で脳波や睡眠段階を測って客観的に調べることができるが、主観でも判断できる。カギになるのは、朝のスッキリ感や「よく眠れた」という実感。これは睡眠医学でいう「睡眠休養感」で、質を見極める上で大事な指標になる。
人は眠りに入ると、「ノンレム睡眠(深い眠り)」と「レム睡眠(浅い眠り)」を1セットとして繰り返す。これも質の高い睡眠に関わってくる大事な指標。
【ノンレム睡眠とレム睡眠のサイクル】
深いノンレム睡眠が不足すると疲労が抜けにくくなり、熟眠感も低下する。一方、総睡眠時間が短すぎると、後半のレム睡眠が削られ、寝起きの悪さや日中のパフォーマンス低下につながる。睡眠時間が短いと質を上げることが難しく、質と量のどちらも重要になる。
【必要な睡眠時間】
良い睡眠が取れているかどうかは、主観と客観の2軸でいくつかポイントがある。両軸から見て、自分の寝る睡眠の質を判断することが大事。
【主観的な判断基準】
【客観的な判断基準】

睡眠の質を整えるためには、就寝時間のばらつきを減らすこと。起床時間は日常生活の中で固定されやすいが、眠る時間は仕事やプライベートな予定、家庭の事情などで決めるのが難しく、乱れやすい。入眠時刻の変動が大きいと、睡眠〜覚醒のリズムが崩れ、寝つきや熟眠感に影響しやすくなる。
休日だけ大幅に夜更かししたり、平日との差が大きくなると、一時的にリズムが乱れることもある。できれば平日と休日の差は小さくすると、睡眠のリズムが安定しやすい。
理想は、「この時間帯になったら寝る」という幅を作ること。毎日きっちり同じ時刻でなくてもよく、身体の入眠スイッチが入りやすくなる。

人間の身体は、光を浴びることで「セロトニン」や「ドーパミン」といった神経伝達物質の生成が促され、やる気や集中力が高まりやすくなる。また、夜になると眠りを誘導する「メラトニン」が分泌される。朝に光を浴びることで、夜メラトニンが分泌されやすくなる。
【セロトニン・ドーパミン】
【メラトニン】
太陽の光を浴びるのが難しい環境なら、カーテンを開けて室内の明るさを取り入れたり、室内照明をつけるだけでも良い。光の量は多いほど強く作用するとされるが、「眩しい」と感じられる明るさで十分。

朝はゆとりがないかもしれませんが、朝日を浴びて一呼吸置く程度でも光の刺激を十分受けられます。もし時間に余裕があれば、10~15分ほどを目指してください。光を浴びると身体がスッキリと目覚めます。

日中にしっかりと身体を動かすことで、夜の眠りがスムーズになる。活動量が少ないと身体が疲れないので、眠気を感じづらい。特にデスクワーク中心の人は、肩を回すなどの軽い運動でも血流が促されて入眠しやすくなる。
身体を動かすと筋活動によって熱が生まれ、深部体温が一度上がる。深部体温が緩やかに下がる過程で強い眠気が生じる。睡眠研究では放熱の促進が寝つきの良さにおいて重要とされており、運動はその促進を後押しする。
一方、直前に強い運動を行うと体温が高いまま維持され温度が下がり切らないため、寝つきを妨げる可能性がある。
【質の良い睡眠のための運動】

就寝直前に食事をとると、消化が続いて深部体温が下がりにくくなり、寝つきや睡眠の深さに影響する。消化活動には時間がかかるため、就寝2〜3時間前までには夕食を終えるのが理想。
食べ過ぎや脂っこい料理は消化の負担が大きく、胃酸逆流(GERD)や胸焼けの原因にもなりやすい。横になることで逆流が起こりやすくなるため、眠りが浅くなるだけでなく、夜中に覚醒する要因にもなる。
夕食が睡眠に近い時間になる場合は、食べ方を工夫して負担を軽減しよう。たとえば早い時間に炭水化物など消化に時間がかかりそうなものを食べ、就寝前に近い食事は野菜やスープなど消化の良いものを選ぶなど、分けて食べるのも1つの方法。
就寝前に空腹で眠れない場合は、ホットミルクなど温かい飲み物を少量とる程度なら問題ない。

湯船に浸かると深部体温が上がり、入浴後にその体温が下がる過程で眠気が強まる。この効果は、熱いシャワーだけでは得られにくく、ぐっすり眠るためには入浴は欠かせない習慣と言える。
入浴のタイミングは就寝の90〜120分前が理想。体温が下がるのには時間がかかるので、寝る直前に熱い温度で入浴をすると逆効果になる。お湯は40℃ 前後、入浴時間は10〜15分程度が目安。炭酸ガス系の入浴剤を使うと血行促進が起こりやすく、温浴効果によるリラックス感も得やすい。
温度が高すぎる、時間が長すぎる場合は、体温が上がりすぎて寝つきがかえって悪くなる場合もある。寒い季節は追い焚きしすぎず、浴室や脱衣所の温度差にも注意。
温度や湿度など寝室の環境が快適だと、寝つきが良くなり夜間に目覚めにくい。温度・湿度は季節で調整し、光は眩しすぎない暖色系が理想。遮光カーテンを使うと、朝日までさえぎるため、目覚めに悪い影響を与える恐れがある。窓の向きや日差しの入り具合で必要に応じて使うと良い。音は個人差があるが、気にならないレベルの音量が適切。
熱や湿気がこもりにくい寝具を選ぶことで、深部体温が下がりやすくなり、入眠しやすくなる。枕は首や肩に負担が少なく、呼吸がしやすい高さが目安。寝姿勢は横向きが快適で、背骨が自然に保ちやすい。
【温度】
【明るさ】
【音】

働き盛りで睡眠時間がどうしても短くなる人や、仕事の都合で睡眠時間が不規則になりやすい人は、サプリメントを使うのも1つの方法。
【睡眠に関係する成分例】
ただし、サプリメントは即効性を期待するものではなく、睡眠習慣や生活環境の調整と組み合わせて使うようにしよう。成分の合う・合わないや使用タイミングにも個人差があるため、あくまで選択肢のひとつとして考えておきたい。

目元を蒸気温熱で温めると、血管がゆるみ、血のめぐりが良くなる。目のまわりのこわばりがほどけ、身体も少しずつ緊張から解放される。
温めたあと、身体の熱がゆっくり外に逃げていく。この「温まる→熱が逃げる」という流れで、身体の温度が下がり始めることが、眠くなるきっかけのひとつ。
このとき働きやすくなるのが、副交感神経。副交感神経は、身体を休ませるときに働く神経で、スイッチが入ると気持ちが落ち着き、リラックスしやすくなる。
蒸気温熱は、40℃前後の温かさで熱がじんわり広がるため、短い時間でも副交感神経の活動が働きやすい。目元だけを温めても、血管を通して身体全体にあたたかさが伝わっていく。
寝る直前、ベッドに入ってから目元を温めても、目がさえにくいのはこのため。身体と気持ちが「休むモード」に切り替わり、自然と眠りにつきやすくなる。

入浴が難しい日や寝る直前にも部分的な温めは取り入れやすい方法です。スッと体温を上げて、スッと体温を下げるという流れがスムーズな寝つきを助けてくれます。
睡眠の質に関わる栄養素は複数あるが、まずは「足りているかどうか」を見極めるのが重要。偏りが大きいと、日中の覚醒や夜の眠気のリズムが乱れやすくなるため、食事で無理なく補いたい。
【トリプトファン】
【グリシン】
【マグネシウム】
【オメガ3系脂肪酸(DHA・EPA)】
【GABA(ギャバ)】
食べ物だけでなく、寝る前の「飲み物の選び方」もスムーズな入眠を助ける。
とくに温かい飲み物はリラックスや放熱を促し、入眠モードへ切り替わりやすくなる。量は少なめで、刺激の少ないものがおすすめ。

温かい飲み物にはリラックス効果もあります。寝る前に無理のない範囲で飲むことで、眠りに入りやすくなります。
夜の過ごし方は、入眠のしやすさや睡眠の深さに影響する。とくに、交感神経の活動を優位にしたり脳を刺激する行動は、眠りへの移行を妨げやすい。
例えば、寝る前にSNSや動画、ドラマなどを視聴すると、感情や興味が動いて脳が覚醒しやすくなる。ベッドの上でスマホを操作したり仕事や食事を行う習慣がつくと、脳が「ベッド=活動する場所」と学習してしまい、寝つきに影響することがある。
激しい運動や筋トレ、強い光を浴びる、42℃以上の熱い湯での入浴は心拍数や体温を上げ、眠気を遠ざける。アルコールは寝つきを早めるように見えて実際には睡眠が浅くなり、途中覚醒を増やす。カフェインは覚醒作用が強いため、夕方以降は控えめにしたい。
【寝る前に避けたい行動や習慣】

質の高い睡眠のためにできることは意外と多くあります。夕方から刺激や明るさを少しずつ落としていくことが理想ですが、寝る前に温かい飲みものを飲む、目元を温めるなど、短時間で自律神経の切り替えを助ける方法もあります。無理なく続けられることから取り入れることで、睡眠の質は自然と上がっていきますよ。