達人コラム

慶應義塾大学教授 加藤文俊先生
日常につながっているSDGsの話

2019.06.25

2015年、国連加盟国によって採択された「SDGs エスディージーズ」は、持続可能な社会を実現するために、2030年までに世界が取り組む目標です。日本でも、自治体や企業、学校などで、さまざまな取り組みが始まっています。では、私たち一人ひとりができることは、どんなことなのでしょう?慶應義塾大学SFC研究所 xSDG・ラボのメンバーでもある加藤文俊先生に、お話をうかがいました。

SDGsは、世界中の人々に向けての問いかけ

SDGs17の目標

SDGsに関しては、ここ数年でようやく少しずつ認知度が上がってきた印象があります。くらしの現場レポート『「知る」ことが「きっかけ」につながる SDGsへの関心が、未来を変える第一歩』にもあったように、自分でも何かしたいと考える人がいる一方で、「どういうアクションを起こしたらいいのか、わからない」と感じている人も多いのではないでしょうか。

SDGsでは17の目標と169のターゲットを掲げているものの、実現の方法について具体的なことは言っていません。そこがもどかしさでもあるのですが、それこそがSDGsのあり方を示しているとも受け取れます。
環境問題一つとっても、国や地域それぞれ事情が違いますから、問題への取り組み方も異なります。一概に「こうやりましょう」と言うことはできないのです。「やり方はみんなで考えましょう」と世界中に向けられた問いかけなのだと思います。

SDGsは"自分たちごと”として考えよう

17の目標は、一見すっきりとまとまっていますが、実は難題ばかりです。例えば、「開発途上国の雇用を増やしながらも、一方では、二酸化炭素の排出量を減らして気候変動対策を進めなければならない」など、どれかを実現しようと思うと、どれかを実現するのが難しくなるといった、ある種のトレードオフというか、ままならなさを含んでいます。

17の目標すべてをあるレベルまで解決するには、優先順位をつけるなどの配分が必要になります。つまり、SDGsの中で自分は何ができるだろう?と考えるとき、基本になるのは「自分にとって、本当に大切なものは何か」ということだと思います。「大切にしなきゃいけない」から大切にするのではなくて、「大切にしたい」と思うから大切にするんですよね。その気持ちがなければ、行動は起こせません。まずは、自分が大切にしたいものを突き詰めていくことから始めてみましょう。

その一方で、大人は「自分のためだけではない」という視点を持つことも大切です。SDGsのゴールとなるのは、子どもたち世代の未来だからです。例えば、環境に負荷のない生活をしようといっても、そのことの結果が出てくるのは数年後だったり、場合によっては自分が目撃できないくらい遠い未来だったりするわけです。SDGsはひとまずゴールを2030年に設定していますが、それでさえ10年以上先です。

「子どもたちが大人になったとき、世界はどうなっているのだろう」という目線を持って、自分ごとでも他人ごとでもなく、「自分たちごと」として考えることが必要です(「自分たちごと」は、故・渡辺保史さんに教えてもらった、大切にしたいことばです)。そのためにも、子ども世代と語るのはとてもいいことだと思います。環境問題のとらえ方にしても、それをどうやって解決しようかというアイデアも、大人の感覚では理解しづらいかもしれません。子どもを「自分の世代と違う価値観や好み、技術を持った、これから独立していく一人の人間」ととらえて向き合うと、子どもたちの豊かなイマジネーションからみえてくるアプローチもあるはずです。

身近なことを入り口にして、連想してみよう

SDGsの実現のために何ができるか?を考えるとき、身近なことを入り口にして連想してみるのもいいと思います。例えば、ネット通販で注文すると翌日届いて便利ですが、その便利さは「注文を受ける、商品を箱に詰める、運ぶ…」そういった連鎖的な環境で成立していることを連想できたら、配達が5分くらい遅れても「ご苦労さま」と言えますよね。物の動き・人の動き・お金の動きはすべてつながっているので、その中から課題や解決策が見つかるかもしれません。

「お弁当」を例に挙げてみましょう。今はお弁当用にさまざまな冷凍食品が販売されています。中には、冷凍庫から出してそのままお弁当箱に詰めれば、保冷材の役目を果たし、昼頃には溶けて食べ頃になる商品もあります。実は、これは冷凍食品の技術が進んだという話だけではなく、男女を問わず働く人が増えて時間の使い方が変化したということと無関係ではないはずです。

冷凍食品といえば、フランスではオードブルからデザートまである高級冷凍食品が人気のようです。「冷凍食品でごめんね」という感覚ではなく、「冷凍食品でもおいしいものが食べたい!」という欲求を満たしてくれるもので、これが意外といいお値段です。そう考えると、冷凍食品は男女が平等に働くことを支援する技術であり、食べ方であるという見方もできます。

このようにお弁当から冷凍食品、冷凍食品からジェンダーのこと、といった具合に連想することもできるのです。

アクションを続けるカギは、コミュニティ

すでに環境保護やエコのためなど、何らかのアクションを起こしている人もいるでしょう。でも、それをずっと続けるとなると…。SDGsの難しさの一つは、結果がみえるのが数年後や遠い未来だということ。また、そのアクションが本当に役に立っているのかのフィードバックみたいなものが足りないことも、継続を難しくしていると思います。

アクションを続ける秘訣の一つは、私はコミュニティづくりだと思っています。「自分と似たような考え方で、日々実行している人がこんなにいる」「自分よりもっとすごい人がいる」といった情報が入ってくれば、続けるモチベーションになります。

例えば、「ダイエット目的で走ろう!」と決めても一人じゃ続かないけれど、友だちと一緒なら続けやすいのと同じように、同じ活動をする仲間を作ると継続しやすくなります。InstagramなどのSNSに投稿して、関心を持っている人たちとつながるなど、誰かに見守られているという感覚も、アクションを続ける力になるのだと思います。

SDGsは特定の誰かに課されたものではなく、世界中のみんなでやらないと解決できない課題です。ですから、行動を起こしても孤立していたら、本当の解決にはつながらないでしょう。

ごみ問題を例に挙げるなら、「環境負荷の少ないものを使おう」というような賢さは、すでに多くの方たちが身に着けていると思います。しかし、「私はこれをやっているから、他は別にいいでしょ」「自分はやるけど、他人は知らない」というのでは、解決にはなりません。
反対に、お隣さんや同じマンションの住人、自治会のメンバーなど、他者と関り合いながら進めると、活動は広がりを持ち始めます。

ご近所同士が気軽に行き来できた昔の団地のようなコミュニティを再現しようというのは無理な話ですが、それに代わるコミュニティのあり方が何かあるはずです。フリーマーケットや個人宅で開く料理教室のようなもの、シェアハウスやシェアオフィスなどが流行っているように、一緒に何かやりたい・つながりたいという欲求を抱えている人は、意外と多いのではないでしょうか。

SDGsの17番目、最後に設定されている目標は『⑰パートナーシップで目標を達成しよう』です。周りの人たちとコミュニケーションをとりながら考え、行動を起こす。そうやって人間同士のコミュニケーションを取り戻すことが、実はSDGsの裏テーマとしてあるのでは…と、思ったりもしています。


SDGsは、10年先、20年先、それよりもっと先の未来に向けての壮大な取り組みです。だからといって、遠い世界の話ではありません。すべては身近なもの・こととつながっています。まずは、想像力をふくらませ、誰かと語り合い、一緒に考えることから始めてみましょう。その一歩が、大きな変化につながると私は思います。

Profile

慶應義塾大学教授かとうふみとし先生のお写真

慶應義塾大学教授
加藤文俊(かとうふみとし)先生

慶應義塾大学環境情報学部教授 兼 大学院政策・メディア研究科委員。 慶應義塾大学SFC研究所 xSDG・ラボメンバー。専門はコミュニケーションデザイン、ファシリテーション論、定性的調査法。1962年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。龍谷大学国際文化学部助教授などを経て、現職。2003年より「場のチカラ プロジェクト」を主宰。学生たちと全国のまちを巡りながら「キャンプ」と呼ばれるワークショップ型のフィールドワークを実践。著書に『ワークショップをとらえなおす』『おべんとうと日本人』など。

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