達人コラム

高柳歯科医院副院長 高柳篤史先生
一生涯、自分の歯で食べて楽しむために

2020.06.23  |  生活スタイル、高齢社会

【達人コラム】 高柳歯科医院副院長 高柳篤史先生 一生涯、自分の歯で食べて楽しむために

高齢になると、口の中の環境が変化したり、手や指がうまく動かなくなったり、今まで通りのケアでは対応が難しくなってきます。歯の健康をいつまでも守るために、高齢者のオーラルケアにおける普段の生活で心がけることや歯みがきのコツなど、予防歯科の第一線で活躍されている高柳篤史先生にお話をうかがいました。

治療よりも予防、歯のケアは一生涯

歯を治療しても、数年するとまた別のところが悪くなって訪ねてこられる患者さんも少なくありません。
日本の場合、国民の約8割の方が1日に2回以上歯をみがいています。それにも関わらず、ほとんどの方が、むし歯や歯周病を経験しています。どうして歯が悪くなるのか、どうしたら防げるのか… 。

歯の治療をするのは歯医者ですが、歯のケアは一生涯、毎日、自分自身がやらなくてはならないものです。くらしの現場レポート「口を大きく開けて笑おう!人生100年時代のオーラルケア」にもありましたが、やはりセルフケアが予防には重要となります。

複雑な形をした口の中は、一生懸命やろうとする気持ちはあっても、実はなかなかきれいにできません。 患者さんが、自己流にならずに一生涯続けられるか…歯科医である私たちも生活者の立場に立って、毎日、頑張って歯をみがくのではなく、楽しく続けられる、セルフケアをめざした支援を考えていかないと、と思っています。

高柳篤史先生

小学生のむし歯の放置が高齢者の歯の数に影響⁈

40~50代で喪失歯が徐々に増えはじめ、60歳前後で急激に歯を失うケースが多くなります。歯は28本あるうち、20本くらいになるとそこから、歯の喪失のスピードが加速します。それは歯が20本以下になると、残された歯に負担がかかるためです。

歯の喪失の主な原因は、年齢のせいではなく、むし歯と歯周病です。
きっかけは、一番初めに生える永久歯(6歳臼歯)のむし歯の放置にまでさかのぼります。早くに治療すれば、問題ありませんが、ひどくなるまで放置すると、むし歯がひどくなって抜歯することになり、そこから徐々に不具合が広がりはじめます。
健康な歯を生涯保つには、小学生の頃からの予防とむし歯を放置しないことが大切です。

小学生のむし歯の放置が高齢者の歯の数に影響⁈

そして、20~30代は仕事や子育てなどで生活習慣が変化し、忙しさから歯のケアも滞りがちになる時期です。
ちょっと歯茎が気になる、ちょっと血が出る、小さなむし歯もあるなど、あまり実生活に影響はなくても、これらをちゃんとケアしておくことが、のちのち大きな差となります。

40~50代に入ると、少しずつ歯周病が進行し、咬み合わせのバランスが崩れはじめ、歯の間にものが詰まりやすくなります。詰まりやすいところからむし歯になってくる。歯茎が下がってくるとエナメル質よりやわらかい根元(象牙質)のむし歯がはじまります。

今まで、忙しさにかまけておこたってきたケアの影響が大きく出てくるのが、40~50代。 そして、その状態から急激に変化し、歯を失うリスクが高くなる60代になるわけです。

【高齢者のオーラルケアのポイント1】
自分の歯のケア、入れ歯の不具合を放置しない

自分の歯のケア、入れ歯の不具合を放置しない

高齢者になると、差し歯やブリッジ、入れ歯などで、口の中の環境が複雑になり、かぶせものの隙間や歯の間にものが頻繁に詰まるようになります。特に、入れ歯のバネの周りの部分や歯茎が下がった根元からむし歯になりやすく、歯を失う大きな原因になります。
そんな大人のむし歯予防にこそ、その発生と進行を防ぐ働きがある高濃度のフッ素入りハミガキでしっかりみがくことが重要です。
また、入れ歯は外してみがくのが原則です。

そして、就寝時には外しましょう。唾液の分泌が少なくなる就寝時は、入れ歯が入っていることで、細菌が繁殖しやすくなります。普段、入れ歯に覆われている粘膜を休ませる意味でも外しましょう。

「自分の歯をしっかりケアする」「入れ歯の不具合を放置しない」ことが大切です。

フッ素入りハミガキの使い方

大人のむし歯予防には1000ppm以上の高濃度フッ素入りハミガキを使用し、フッ素の濃度を保つことが重要です。一日に2回以上、そのうちの1回は就寝前にみがくのが効果的です。

歯磨きケアのポイント1

1.はじめに、少量付ける

時間をかけて歯と歯茎の間をていねいにみがく。

歯磨きケアのポイント2

2.最後の2分、ハミガキを歯ブラシの2/3以上付ける

むし歯になりやすい所、歯医者から指摘があった部分に薄まっていないハミガキを届けます。

歯磨きケアのポイント3

3.すすぎは少なめに

フッ素を流してしまわないようにすすぎは少なめに。

【高齢者のオーラルケアのポイント2】
自分の状況に合わせて道具を選ぶ

自分の状況に合わせて道具を選ぶ

小さなヘッドの歯ブラシですみずみまでしっかりみがいて、さらに歯間ブラシやフロスを使うのが、理想的ですが、すべての人が日常生活で継続できるわけではありません。そのため、自分の口の中の状態や継続できるブラッシング習慣にあった、道具を選択することも大切です。

例えば、握力が弱くなってきたら、柄の太い歯ブラシの方が使いやすいでしょう。
また、ヘッドの幅が狭い歯ブラシだとなかなか狙ったところに、毛先を当てることが難しく、うまくみがけない方にとっては、ヘッドの幅が広い歯ブラシの方が使いやすいようです。

また、歯ブラシを選ぶ時は歯ブラシの毛の太さの特徴を知ることも重要です。 毛の細い歯ブラシのほうが、歯と歯の間には入りやすくなりますが、一回のブラッシングの動作で除去できる汚れの量が少なくなるので、極細毛の歯ブラシは時間をかけてじっくりみがく人に向いています。

「これは難しいけど、こっちなら続けられる。」といった自分の状況に合わせて道具を選ぶことが大切です。 自分自身の口の状態を歯科医院でチェックしてもらい、さらに自分の歯みがき習慣にあった道具を選んで使用するといいでしょう。

【高齢者のオーラルケアのポイント3】
誤嚥性肺炎にならないために

高齢者に多い誤嚥性肺炎ですが、きちんとオーラルケアをおこなうことでリスクを低減できると言われています。
大きくは、2つポイントがあります。

1つ目は、口の中をきれいにしておくこと。
入れ歯は食後は口の中から外して、流水でぬめりがなくなるまで、ていねいに洗います。そして、口の中の自分の歯は歯ブラシで1本ずつていねいにみがきます。

そして、2つ目は、口の中の機能をしっかり保つこと。
口の中や口の周りをしっかり刺激をすることで、口の動きがスムーズになったり、噛む力や唾液の分泌がよくなり、誤嚥の防止にも繋がります。 口の周りの筋肉が弱くなると、口が閉じにくくなり口の中が乾燥し、細菌が繁殖しやすくなります。 唾液を口の中に行きわたらせるためには、舌や口の周り全体を動かす体操や、耳下腺を刺激し唾液を促すといいでしょう。食べる前にこれらの準備運動をすることは、むせや誤嚥を防ぐのに効果的です。

舌体操の手順

舌を意識して動かし、それぞれ5回ほどおこないましょう。

  • 1.消毒液を適量 乾いた手のひらにとる

  • はじめに両手の指先に消毒液をすりこむ

  • 次に手のひらによくすりこむ

  • 手の甲にもすりこむ

【高齢者のオーラルケアのポイント4】
感染症を重症化させないために

感染症を重症化させないために

口の中をケアすることは、インフルエンザなどの感染を防いだり、重症化を防ぐ可能性があることが、近年の研究で報告されています。

高齢者施設において歯科専門家による口腔のケアによって、発熱する人の割合が減少することや、昼の歯みがきをしっかりしている小学校では、インフルエンザによる学級閉鎖の数が少なかったことなどが報告されています。

ウイルスなどの感染症で呼吸器がダメージを受けた場合、そこからさらに細菌が侵入し、重症化するのを防ぐのにも、日頃から歯や舌など細菌の多い口の中をきれいにし、唾液でうるおった粘膜を保っておくことは、とても大事であると考えられています。

歯のケアを一生涯続けるために

高柳篤史先生

2カ月くらいのダイエットは頑張れても、歯のケアは一生自分で続けないといけません。歯のケアを一生続けるコツは、「頑張る」ではなく、「楽しく」ケアすることです。例えば、自分の好きな歯ブラシやハミガキを見つけたり、いろいろな道具や味を試して、「これ気持ちがいい」とか、「面白い」とか、楽しめる工夫も大切です。

みがいたあとは、口の中のさっぱりした感じやみがけた感を感じながら、本当にみがけているのか、自分の口の中を鏡でよく見る習慣を付けるといいでしょう。 口の中を見ると、自分のみがき癖や、歯みがきで手が届かないところなど、いろいろなことが分かってきます。そして、半年に1回くらいは歯科医院でチェックしてもらいましょう。

口は食べたり、会話を楽しんだり、笑ったり、日常生活を楽しむための要といっても過言ではありません。そんな口の健康を保つための歯みがきですが、毎日一日に2~3回歯みがきをすると、1年で1000回も歯をみがいていることになります。毎日の習慣だからこそ、無理なく、楽しく続けることが何よりも大切です。

Profile

高柳歯科医院副院長 高柳篤史先生

高柳歯科医院副院長
高柳篤史(たかやなぎあつし)先生

歯科医師、博士(歯学)衛生学専攻、花王(株)パーソナルヘルス研究所嘱託歯科医、東京歯科大学衛生学講座 客員准教授、日本大学松戸歯学部障害者歯科学講座 兼任講師

新型コロナウイルスが暮らしに与えた影響

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