達人コラム

神奈川県立保健福祉大学教授 佐野喜子先生
血圧も血糖も「高い」の手前が要注意

2020.03.10

高血圧も糖尿病も、生活習慣病の代表的な疾患です。これらの病気は、本人が気付かないうちに進行するケースも多く、特定健康診査(メタボ健診)の対象となる40代以降はもとより、20代、30代にも予備軍が!保健指導の現場に精通する佐野喜子先生に、高血圧や高血糖が気になる人への健康アドバイスをうかがいました。

高血圧も高血糖も、最初の兆しは「肥満」です

生活習慣病の中でも重い病気といえば、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化系疾患です。これらの病気は、ある日、突然発症するようなイメージがあります。実際、50代で脳卒中や心筋梗塞を発症した人が、それまでにどんな病気があったのか?をみてみると、40代までの自覚症状は「肥満だけだった」というのは、よくあることです。 それまでは血圧も中性脂肪も少し気になる程度だったのに、50代で突然、病に倒れることがあります。これは、「メタボリックドミノ」の典型的な例。気付かないうちに、高血圧、高血糖、脂質異常が病気へと進行し、脳卒中や心筋梗塞へ、と連鎖していくのです。この一番最初の症状が、肥満なんです。

くらしの現場レポート『できることから一歩ずつ 健診結果を改善へつなげよう』でも、高血圧や高血糖を意識している人は「体重を減らせば、数値はよくなる」とよく理解していて、減量を意識している姿が見受けられました。ただし、多くの人は、肥満の先に待ち受けている深刻な病気と自分を結びつけてイメージできないのが実状だと思います。
 
健診などで保健指導をしていても、「若い頃より10㎏、20kg体重が増え、血糖や血圧が少し高め」だけど、本人がその重大さに気付いていないことが多々あります。そういう人は、「数値が高めですが、何か不都合を感じていませんか?」と聞いても、「ない」と答えることがほとんど。でも、「最近、腰痛がありませんか?」とか、「階段を駆け上がったりして息が切れると、以前よりも元に戻るのが遅いのでは?」と聞いたりすると、思い当たることが多いのです。こうした変化も、高血圧や高血糖がもたらす体のSOSサインなんです。

「やせている」「正常値」だからと安心しないで

高血圧も高血糖も「前兆は肥満」と言うと、体重増加だけに目が行きがちですが、40代以降で体重管理ができていても油断はできません。30代後半からは、運動習慣がないと筋肉は確実に落ちていきます。つまり若いときと体重が変わらないということは、筋肉が落ちた分、内臓脂肪に入れ替わっているのです。これも生活習慣病の前兆です。

健康を維持するためには、「体重」だけではなく、骨密度や筋肉を含めた「体組成」にも注視することが大切です。今は体組成が測定できる家庭用体重計も販売されています。こうしたアイテムも上手に使いながら、健康管理をおこないましょう。
 
高血圧や糖尿病などの生活習慣病を予防するために、健康診断をうまく活用してほしいと思います。健康診断の結果が「正常」だと安心してどこかにしまい込むことが多いのですが、それは間違い。健診結果は、過去数年から現在にいたるまでの経年変化を見てこそ、体の変化に気付くことができ、的確な予防策が立てられます。
 
例えば、血圧や血糖値が正常の範囲内であっても、微少でも年々上昇傾向がある場合は、注意が必要です。そして、特定健診の場合、血圧や血糖が「正常高値」であれば、病気の一歩手前ということになります。「正常高値」というのは、高血圧や糖尿病と診断される数値まではいかないけれど、発症リスクが高いということ。血圧の正常高値は130-139/85-89㎜Hg、空腹時血糖値の正常高値は100~109mg/dLです。この段階で対策を立てれば、少しの調整で疾病や合併症の予防が可能です。

生活改善には、正しい知識と保健指導を活用しよう

「体重が増えたし、高血圧や高血糖も気になる。だから、体重を減らしたい」と思っても、なかなか思うように減量できないのはなぜでしょう。それは、やり方が間違っていたり、自分に合った方法ではなかったりするからです。
 
食べすぎや食後の高血糖対策として「食事は野菜から」を実践しているのに、成果が出ないのはなぜか。それは食べる野菜量が根本的に不足していたり、よくかんで食べていなかったりするからです。本当に効果を出そうと思ったら、食事はサッと済ませるのではなく、1日350g程度の野菜をゆっくりとよくかんで食べることが必要です。また、エネルギーを抑えたいのでお昼は「おにぎりと春雨スープ」というのも間違ったアプローチ。炭水化物のみで、たんぱく質も脂質も不足した食事だと血糖値は急上昇するので、血糖が高めの人にはリスクが高い。腹持ちも悪いので空腹感に負けて結局、間食することになってしまいます。
高血圧も高血糖も結局は血管に関わる病気なので、予防するには血管に優しい食生活が重要です。摂取エネルギーや栄養バランスを考えるとともに、「欠食をしない」「毎日できるだけ同じ時間帯に食べる」「夕食を食べすぎない」といったことも必要です。
 
さらに、世間で話題のダイエット法が、必ずしも自分に合ったやり方とは限りません。健康維持のための生活改善策も洋服と同じで、既製品よりオーダーメイドの方が、自分にフィットします。そこで、ぜひ活用してほしいのが、健康診断の際に受ける保健指導です。
保健指導を受けるときに、相談者にお願いしたいのは、「自分ができること・できないこと」をはっきり伝えてほしいということです。例えば、「運動は苦手」と教えてもらえれば、「ひとまず、食生活の目標を優先しましょう」と提案できます。スタートは実践しにくいことを目標に立てるより、既に実践していることのバージョンアップや興味のあることを目標にする方が、継続性が高いはずです。

目標設定は「具体的」「現実的」が成功のコツ

ところで、生活改善の目標を立てるときのコツがあります。それは、より具体的に目標を立てる、ということです。
例えば、「できるだけ歩く」ではなく「1日8000歩、歩く」など、具体的な数値にした方が達成感が伴うのでやる気も持続します。また、「週2日は休肝日」という場合も、何曜日と何曜日を休肝日にするかまで決めます。「金曜日は飲み会が多いから無理だし、休日は朝からでも飲めるので難しい。それでは、月曜から木曜日の中で決めましょう」といった具合に、より具体的に決めておくと毎日「評価(〇、△、×)」ができるので修正がしやすく、実現可能な目標になります。
 
生活改善の目標を立てるときに、自分だけで考えるのはなかなか難しいものです。専門の第三者の視点が入ることで、より現実的で効果的な目標設定ができます。そうした意味でも、専門家の保健指導をぜひ活用してもらいたいと思います。

Profile

神奈川県立保健福祉大学教授さのよしこ先生のお写真

神奈川県立保健福祉大学教授
佐野喜子(さのよしこ)先生

管理栄養士。女子栄養大学栄養学部、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程卒業。東京都中野区保健所・教育委員会勤務を経て、2004年から株式会社ニュートリート代表取締役、(独)京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室研究員を歴任。2013年4月より現職。「身近な気づきを大切に!」をモットーに、その人らしさを大切にし、生活に密着した健康支援を目指し、活動する。

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