特集

〜85年前の暮らしと家事科学研究・取材記〜
生活者とともに「家事科学研究85年」

2019.07.23

1887年(明治20年)に創業した花王。1934年に、家事に科学的にアプローチし「生活者により良い暮らしを提案したい」というおもいで『家事科学研究所』が設立されてから、今年で85年になります。まだ情報の伝達手段が限られていた時代に、花王の「伝えたいおもい」と生活者の「知りたいおもい」はどのようにつながっていたのでしょうか?

1890年に発売した「花王石鹸」。国産の高級化粧石けんの先駆けであった。

家事のほとんどが女性による手作業でした

85年前といえば昭和9年。第二次世界大戦が始まる前の時代に、人々はどのような暮らしをしていたのでしょう。住居の多くは木造の日本家屋、部屋は畳、廊下は板の間。一般家庭には電化製品はほとんどなく、家事は掃除も洗濯もほぼ手作業でした。はたきでホコリを払い、ほうきで掃き掃除をしたら、雑巾を絞って拭き掃除。洗濯は、たらいと洗濯板でゴシゴシと手洗いをしていました。

全国的には水道もまだ普及しておらず、入浴も洗髪も今のようにできない時代。また、女性の多くは長い髪を油でまとめた髪型だったので、洗髪には今では考えられない労力と時間を使っていたようです。この頃、「女性の洗髪は月に2回程度だった」ということにもうなずけます。

「より良い暮らしを届ける研究」の誕生

そのような暮らしの負担を少しずつ軽くしてくれる商品が誕生し始めたのもこの頃でした。
花王からは、髪洗い石けん『花王シャンプー』、『小粒洗濯石鹸ビーズ』、家庭用クレンザー『ホーム』などが次々と発売されました。さまざまなカテゴリーの花王製品が暮らしのなかに広がり始めると、花王の2代目長瀬富郎氏は「商品がより暮らしに役立つものであるためには、生活者と直接対話して、商品の情報や使い方を伝えることが必要」と考えたそうです。
そこで1934年に設立されたのが、家事を科学的に捉えた日本初の研究所である『家事科学研究所』(1937年『長瀬家事科学研究所』に改名)なのです。

「品物を使う人の気持ちになりきる」ために

研究所の設立書には、「家事を科学的に調査研究し、以って我國家庭生活ひいては婦人生活の向上を計らん」とあります。
また、当時の社内報「ナガセマン」に掲載された、『おかみさん尊重』と題した、長瀬富郎氏の記事には「家事科学研究所ができて一番嬉しい事は、私たちと消費大衆との関係が一層密接になる事です。〜中略〜品物を使う人の気持ちになりきって親切につくり、売ることの必要性を家事科学研究所は一層よく私共に教えてくれるでしょう」とあります。

家事科学研究所の設立には、ただモノを作るだけでなく、生活者、特に家事を担う「おかみさん」が知りたいことを尊重したい、という花王のおもいが伝わってきました。

※『おかみさん尊重』 社内報「ナガセマン19号」から抜粋

「伝えたいおもい」と「知りたいおもい」が出会う活動

「家事科学研究所」の活動を見てみると、「家事と美容に関する講習会」が全国で開催されています。南は九州から、北は北海道を越えて樺太まで、6年間で計4,536回、参加者は延べ150万人だったそうです。生活者の知りたいおもいは今も昔も同じなのでしょう。テレビは登場しておらずラジオさえもあるのはまれで、情報を得ることが難しい時代だけに、全国各地で大勢の参加者があったようです。写真資料からは、女性たちが熱心に家事のコツや美容の講習に聞き入る様子が見られます。

<実際の講演会の様子>

  • 実際の講演会の様子の写真

<実際の講演会の案内>

同様に、出版物でも情報を発信。新聞記事や月刊誌『家事の科学』などで、家事の工夫や暮らしの知恵を紹介していました。また、映画も一つの情報源だったので、花王でも家事や衛生に関する情報映画を作成し、講演会で上映したり、貸出などもおこなっていました。

講習会や雑誌で紹介された情報は、研究員による実験の裏付けがあり、例えば「着物のしみ抜き」などは当時の女性のニーズに応えたものだったようです。そうした生活者のニーズや生活実態の調査も家事科学研究所の大事な活動の一つでした。

<『家事の科学』 当時の新聞記事>

〜取材後記〜
生活者とつながり続けてきた85年

家事科学研究所の写真資料に見られた「結い髪に着物姿」で講習に熱心に聞き入る女性の姿は、とても印象深いものでした。
時代が変わっても「知りたいおもいは同じ」と感じると同時に、85年前の女性たちにとって、講習会の情報は、どれだけ興味深く、新鮮なものであったのだろうとおもいをはせずにはいられませんでした。「知ること」は、使いやすさ、暮らしやすさにつながるもの。当時、きっと、彼女たちも「ちょっと良い生活」を手に入れたのではないのでしょうか。

こうした機会から、生活者のおもいや声が花王に届き、それがモノづくりに活かされて、また生活者に届けられるというつながり(ループ)が生まれたようです。 今回の取材から、家事科学研究85年とは、「生活者」「花王」「モノづくり」のつながりが85年間ずっと続いてきた、ということなのだと感じました。

(ライター 黒岩 久美子)

これまでもこれからも、
生活者とともにうれしい明日へ。

生活者の声に耳を傾け、そのおもいをモノづくりに活かす「消費者起点」の姿勢と、より良い暮らしを提案していくというおもいは、85年前と変わらず、今も花王の活動に受け継がれています。私たち『くらしの研究』も、生活者のお宅を訪問して暮らしの様子を見せていただいたり、今のおもいを聞かせていただきながら、これからも、みなさまといっしょに、こころ豊かなくらしをみつけていきたいと思っています。
「きれいを、こころに。未来に。」お届けできるように。

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