達人コラム
2022.02.22
月経前になると体調が悪くなったり、イライラや気分の落ち込みが激しくなったりすることはありませんか?それがPMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)やPMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder:月経前不快気分障害)であれば、対処法を知り、適切に対処することで症状を軽減することができます。産婦人科医の武田卓先生に、PMS・PMDDかどうかの見分け方と対処法についてお話をうかがいました。3月1日から8日までは「女性の健康週間」です。この機会に自分の体と心の声に耳を傾けてみませんか。
PMSは月経の1~2週間前に症状が出始めて、月経が始まるとだんだん治まってくる諸症状を指します。その症状には、身体的症状と精神的症状があり、特に精神的症状が中心でより症状が重い場合はPMDDと診断されます。
PMSの身体的症状も精神的症状も実にさまざま。下の表に示したのはごく一部で、細かいものを合わせると150種類以上の症状があるといわれています。
中には「ぜんそくなど持病の症状が月経前にひどくなる」「月経前にニキビなど肌のトラブルが起こりやすい」など、PMSとは関係ないような症状が出る人もいます。そのため、実はPMSなのに本人が気付いていないケースも多くあります。
PMSの原因は何か?実は正確なところはまだわかっていません。ただ、脳内のセロトニンやGABA(γ-アミノ酪酸)といった脳の神経に作用する神経伝達物質の低下や、排卵後に分泌が増える黄体ホルモン(プロゲステロン)が影響していると考えられています。
黄体ホルモンがしっかり分泌されるということは、定期的に排卵があり、月経があるともいえます。つまり、月経周期が安定している人こそ、症状が現れやすいということができます。大人だけでなく、むしろ思春期の方が重症度が高いことにも注意が必要です。
また、生理痛の強い人はPMSの症状も強い傾向があるようです。しかし、生理痛とPMSでは原因がまったく違うので、別々に考える必要があります。「生理痛がひどいから、月経前の体調不良もあきらめるしかない」などと考えず、PMS・PMDDだったら改善できる可能性があることを知ってほしいですね。
「月経前に調子が悪くなる」という人は、まずは自分のPMS度を下記の表でセルフチェックしてみましょう。
また、月経期間の日付と共に、いつ・どのような症状が出るかを記録して、より正確に自分の症状を把握することも大切です。健康管理アプリでも手帳でもいいので、2カ月ほど記録してみてください。PMSやPMDDであれば、月経が始まる1~2週間前に3~10日間ほど症状が現れます。
チェック表や症状の記録から、自分はPMS・PMDDの可能性が高いとわかったら、症状を軽減するための生活習慣&セルフケアを実践しましょう。また、必要に応じて婦人科を受診し、治療を受けることも大切です。
PMDs(PMS、PMDD)
【A】生理が始まる1~2週間前より次のような症状があらわれますか?
各設問について、以下4つの選択肢のうち、当てはまるものをお選びください。
1.まったくない 2.軽度 3.中等度 4.重度
【B】以上 ①から⑪の不快な症状の少なくともひとつで下記のようなことがありますか?
各設問について、以下4つの選択肢のうち、当てはまるものをお選びください。
1.まったくない 2.軽度 3.中等度 4.重度
1.はい 2.いいえ
【A】の設問①~④のうち中等度以上1項目以上、設問①~⑪のうち中等度以上5項目以上、【B】の設問①〜③のうち中等度以上1項目以上、をすべて満たすと中等度以上のPMSが疑われます。
※ PMDs症状スクリーニング票 (Takeda T, Arch Womens Ment Health. 2006)に基づいて作成。
この問診票は個人利用以外の使用を禁止されています。
月経前に起きる症状の記録をとったら、それをぜひ活用してください。自分はいつごろ症状が出るかを把握することで、その時期にはきつい仕事を入れないようにするなど予定を調整することができるようになります。自分の体調を予測しながら、家事や仕事の量をコントロールすることで、かなりラクになるでしょう。
また、PMS・PMDDはストレスとも大いに関係しています。「規則正しい生活」「十分な睡眠」「軽い運動」を意識して生活習慣を整え、ストレスを減らすことで、症状の緩和が期待できます。実際に、睡眠時間が短い人のほうが、症状が重くなりやすいという調査結果もあります。
食生活も見直してみましょう。
PMSが起こる原因の有力な説として、脳内のセロトニンやGABAなどの神経伝達物質の低下があります。その観点から、セロトニンを作るのに必要なビタミンB6とマグネシウムを積極的に摂取することがおすすめです。また、カルシウムには精神安定作用があります。
一方、PMS症状に良くないといわれているものには、肉などに多く含まれている飽和脂肪酸があります。肉よりも、DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸が多い魚を食べるほうがいいでしょう。
ストレスがたまると甘いものを食べたくなる人は多いと思いますが、糖分には注意が必要です。血糖値が急激に上がって、またそれが急激に下がるのは、精神の変調にもつながるからです。甘いものが食べたくなったら、砂糖の入ったお菓子よりも、食物繊維が豊富で血糖値がゆるやかに上昇する焼き芋などの炭水化物がよいでしょう。
生活習慣を改善しても症状がつらい、しんどくて日常生活や仕事に支障があるといった場合は、ぜひ病院を受診してください。例えば、「市販の痛み止めを飲んでも効かない」「イライラして人間関係が険悪になる」といった人。我慢しないで婦人科に相談してみてください。
内科を受診する感覚で、婦人科も気軽に受診してもらいたいと思います。病院選びに迷うときは、婦人科の中でも「女性医学学会」(https://www.jmwh.jp/)に所属する専門医を訪ねてみるとよいかもしれません。「女性の一生におけるトータルヘルスケア」を目指す学会なので、PMS・PMDDへの深い理解に基づいて診療してくれるでしょう。
中等度以上の治療では、排卵を抑えてホルモン変動を減らすためにピルを使用したり、セロトニンを増やす作用のあるSSRIという抗うつ薬を使用したりするのが一般的です。また、現在は、日本で初めてのPMS・PMDDの保険適用薬として、ビタミンB6の一種である「ピリドキサミン」の治験が始まっています。
月経痛もPMS・PMDDも、女性のヘルスケアを考える上ではずせない問題です。不要な我慢をしないためにも、まずは、女性自身が自分の体のことをしっかり理解して、あきらめることなく対処していくことが大事だと思います。
さらに、女性だけでなく社会全体が、正しい知識を持って理解することが必要です。アメリカなどの海外では、何年も前から「社会全体で月経を正しく認識しよう」という運動があり、月経をタブー視せず、尊厳をもって問題に向き合おうというキャンペーンが大々的に実施されています。日本でも、社会全体で意識を変えていけるように願っています。
Profile
1987年大阪大学医学部卒業、1995年同大学大学院博士課程修了。2012年より近畿大学東洋医学研究所所長・同女性医学部門教授。東北大学医学部産婦人科客員教授。日本産科婦人科学会専門医。日本女性心身医学会副理事長。漢方・産婦人科・腫瘍・内分泌の専門医として、女性のヘルスケア全般を西洋・東洋医学の両面から研究している。