この記事の監修者
医学博士・麻酔科医師
谷口 英喜さん
脱水症・熱中症・周術期管理の専門家として、テレビ・ラジオなどに多数出演(350本以上)。学術論文の他に著書も10年以上、年に1冊以上の執筆、出版を継続。最近では2023年「いのちを守る水分補給」、2024年「熱中症からいのちを守る」、2025年「現代バテ 即効回復マニュアル」(いずれも評言社)など。
女性の悩みにとくに多い「冷え症」。その中には、手足の指先は冷えているのに、顔や頭はほてってしまう方も少なくないはず。この「冷え」と「のぼせ」が身体の中で同時に起こっているのが「冷えのぼせ」。下半身は冷えているのに対し、上半身は汗をかきやすかったりほてったりするのが特徴。
【冷えのぼせの症状例】
上記の症状に当てはまる人は、冷えのぼせの可能性がある。ただし、症状が1週間以上続く場合は、ほかの疾患の疑いもある。
「冷えのぼせ」に似た症状として、更年期に起こる「ホットフラッシュ」があります。自律神経やホルモンバランスの乱れなど原因が共通している部分はありますが、決定的な違いは「冷えのぼせ」は年齢や性別を問わず誰にでも起こりうることです。発症する範囲が広いことからも、冷えのぼせの症状や対策などをしっかり理解しておくことが重要です。
「冷えのぼせ」が同時に起こる原因は、自律神経の乱れ。人間の身体は、自律神経の働きによって全身に均一に血液を送り、体温を一定に保つよう調整されている。自律神経の乱れが生じると、身体のある一部には過剰に血液が送られ、ある一部には血液が不足するという不均衡な状態が発生する。
冷えのぼせの場合、上半身では血管を拡張させる「副交感神経」が優位になり、血流が増加する。一方、下半身では血管を収縮させる「交感神経」が優位になり、血流が減少する。この上半身と下半身のアンバランスな状態が、まさに、頭はのぼせてぼーっとしているのに、手足は冷えている「冷えのぼせ」の起こるメカニズムである。
たとえば、夏は外気と室内の気温差で体温調節がうまくできなかったり、エアコンで長時間身体が冷える状態が続く。すると、リンパや静脈の流れが滞ってむくみが生じ、手足など末端の血流が悪くなり「冷え」が生じる。それでも、身体の大事な部分である脳の血流は保たないといけない、という作用が働くので、上部に血液が流れて「のぼせ」が生じる。
自律神経のバランスが崩れ体温調節機能が正常に働かなくなることが、冷えのぼせの根本的な原因である。
実際に身体を触ってみて、温度差を確かめるのが一番わかりやすい方法。上半身は汗で湿っているのに、下半身や手先は冷たいなどの明らかな違いがある場合は、冷えのぼせの可能性が高い。
もしも急に冷えのぼせの症状が現れた場合は、まずは安静にすることが大切。同時に、水分補給をして、血流を整えることも大切なポイント。落ち着いた環境で静かに身体を休め、症状の変化を見守る。
症状が改善しない場合、無理をせず早めに医療機関を受診するようにしてください。
冷えのぼせの対策としては、全体(全身)の血流を一律に整えることが重要。血流を整えるためのポイントを紹介。
手足を伸ばすだけ、腰を伸ばすだけでも、全身の鬱滞した血流を改善する効果がある。ポイントは、動作に呼吸を合わせること。ストレッチ中に呼吸を止めず、深くゆっくり呼吸しながら動かすことが大切。
具体的には、筋肉に力を入れるときに息を吸い、力を抜くときに息を吐く。呼吸と動作を連動させることで、血流が促進され、筋肉がほぐれやすくなる。あわせてリラックス効果が生まれ、自律神経のバランスも整いやすくなる。
たとえば、デスクワークの合間に胸を開いて深呼吸するだけでも十分。日常の中でこうした動きを意識的に取り入れることが、冷えのぼせ対策にもつながる。
冷えに効果的な食材を選んで取り入れるのも、冷えのぼせ対策におすすめ。
具体的には、体温を上げる働きのある「アミノ酸」を豊富に含んだ食材(肉類などのタンパク質)や、血行を促進する効果のある香辛料・辛いものを取り入れること。カラシや生姜など、冷えに効果的な食材を選ぶことで、身体を内側から温める効果が期待できる。
また、血流をよくするためには水分補給も欠かせない。血流改善のためには、体温よりもやや高めの白湯を飲むことを意識しよう。
入浴は、身体を温めるだけでなく、心身ともにリラックスして自律神経を整える効果がある。ただし、熱いお風呂に長時間浸かるのは、のぼせからのめまいにつながる危険があるので要注意。お湯の温度は、38~40℃のぬるめを目安にしよう。
炭酸系入浴剤を取り入れると、さらに血流改善の効果が期待できる。
冷えのぼせをやわらげるには、38~40℃のぬるめのお湯にゆっくり浸かる入浴が効果的。最初は半身浴からはじめて、慣れてきたら全身浴に切り替えるなど、無理のない範囲で行うのがポイント。
炭酸系の入浴剤を使えば、血行が促進され、香りによるリラックス効果も期待できる。 好みによっては、静かな音楽を流したり、浴室の窓を少し開けて空気を入れ替えたりするのもおすすめ。自分に合った方法で、快適なお風呂時間を楽しもう。
入浴前後はコップ1杯の水を飲んで水分補給を忘れずに。のぼせを感じたら無理をせず、すぐに湯船から出て休むようにする。
安全な入浴のために、入浴前後の水分補給や、のぼせを感じたら浴室の窓を少し開けるなど心がけよう。
身体を温めることも冷えのぼせ対策になる。とくに肩や首の後ろなどの太い血管が通っている部分を重点的に温めるといい。
中でもおすすめのやり方が、「仙骨マッサージ」。仙骨とは、背骨の最後・お尻の中央部分にあるお煎餅ほどの大きさの薄い骨。仙骨には、太い血管や神経がたくさん走っており、外からの刺激や熱が伝わりやすい。そのため、仙骨を刺激すると自律神経が活発になり、下半身の冷え症の改善につながりやすい。
具体的な実践方法は、入浴の前後に約40度のシャワーを仙骨から約10センチ離し、30秒〜1分ほど強めの水圧で当てるというマッサージ。仙骨を温めながら刺激すると、足だけでなくお腹の血流も促進し、便秘解消や食欲増進などの効果も期待できる。また、仙骨部分に使い捨てカイロを貼るのも、日常生活に手軽に取り入れやすい方法である。
仙骨マッサージはお風呂で手軽に取り入れられて、効果を実感できる方法なので、ぜひ今夜からでも試してみてくださいね。