この記事の監修者
医学博士・麻酔科医師
谷口 英喜さん
脱水症・熱中症・周術期管理の専門家として、テレビ・ラジオなどに多数出演(350本以上)。学術論文の他に著書も10年以上、年に1冊以上の執筆、出版を継続。最近では2023年「いのちを守る水分補給」、2024年「熱中症からいのちを守る」、2025年「現代バテ 即効回復マニュアル」(いずれも評言社)など。
人間の体温は、「一般的な体温」と「深部体温」の2つに分けられる。「一般的な体温」は、体温計で測る皮膚表面の温度であり、外気温の影響を受けやすい。一方、「深部体温」は、血液や臓器などの身体内部の温度であり、内臓機能を守るために一定の温度に保たれている。額や脇の下で計測する表面体温よりも約1度高い。
深部体温は、37℃(±0.5)前後が生命維持のために理想的とされているが、個人差もある。たとえば、筋肉質の人は代謝が活発なため、深部体温が高い。
医学的には、人体の真の体温は深部体温であるといわれている。深部体温の計測は、医療現場では血液や膀胱などから計測されるが、一般家庭では難しい。そのため日常生活では、脇の下やおでこで表面体温を計測する。このとき、深部体温が上がると表面体温も高くなるが、微妙なズレまでは反映されにくい。
人間本来の健康のバロメーターとして、深部体温の理解は非常に重要です!
深部体温は、健康状態や日常の活動と関わっている。1日の中で変化していて、寝起きは低く、日中にかけて高くなり、夜眠るころには下がるリズムがある。
人間は体温を一定に保つ「恒温動物」なので、自分の意志で深部体温を自由に変えることはできない。そのため、入浴・運動などを通じて深部体温をうまく調整することがポイント。
目的に応じて体温を上げた方がよい場合、逆に下げた方がよい場合があるので、シーンに応じた体温のコントロール方法を知っておくことが大切。
冷え症などで身体が冷えた状態が続くと、深部体温が下がり免疫力も低下する。そのため、冷え症対策には、深部体温を上げる必要がある。
深部体温を上げる方法としておすすめなのが、身体の外側と内側の両方から温めること。
外側から温める方法は、湯船に浸かったり、暖かい衣類を身につけること。内側から温める方法は、白湯など温かい飲み物を飲んだり、体熱産生を促す食事をとること。
具体的には、体温を上げるアミノ酸を含むお肉などのタンパク質、また発汗を促進するカプサイシンを含む辛い食材がおすすめ。
熱中症とは、深部体温が上がり、熱を体外に逃せないときに発生する症状。そのため、熱中症予防には、深部体温を下げる必要がある。
深部体温を下げる方法としては、下記の2つがある。
深部体温を下げるためには、太い血管が通っている部位を冷やすことが効果的なため、首・脇の下・足の付け根を中心に冷やすと良い。
手のひらには動脈と静脈を結ぶ血管があるため、手のひらを冷やすことで深部体温を下げることができる。ただし、手のひらを冷やす際には、水道水・常温など、約15℃程度の常温を目安にする。あまりに冷たいと血管が収縮してしまい、冷却効果が得られない。
最近注目されている「アイススラリー」と呼ばれるシャーベット状の冷たい飲み物も、スポーツをする人にはおすすめです。しかし、深部体温を下げるためには、冷たいものを飲むだけではあまり意味がないので、血管を冷やすことを意識しましょう。
深部体温を下げるだけではない!
熱中症予防には「暑さ慣れ」が大切?
熱中症を防ぐためには、単に身体を冷やすだけではなく、身体を熱に慣れさせる「暑熱順化」も重要。暑熱順化とは、身体を暑い環境に少しずつ慣らして、熱に対応しやすくすること。
最近は地球温暖化の影響で気温の変化が激しく、身体が気候に追いつかないことも増えている。こうした中で、急激に深部体温が上がるのを防ぐには、日頃から汗をかく習慣を身につけることが有効。
具体的には、暑い季節の前から軽い運動や入浴、サウナなどを取り入れて汗をかく練習をすること。また、汗をかくときには水分補給も忘れずに。こまめな水分摂取で、体温の急上昇を防ぐことができる。
睡眠の質を高めるには、就寝時に深部体温を自然に下げることがポイント。これをスムーズにおこなうためには、寝る直前に深部体温を上げない工夫が必要。
例えば、入浴はリラックス効果がある反面、体温を一時的に上げてしまう。そのため、寝る2〜3時間までに済ませるのが理想。同様に、食事も体温を上げるため、就寝前の2〜3時間は食事を控えることが望ましい。
また、汗は体温を下げるために欠かせない。睡眠中も自然に汗をかけるよう、寝る前にコップ1杯程度の水分を摂るのがおすすめ。
さらに、リラックスした状態で眠りにつくことも重要。私たちの体温は自律神経によって調整されており、交感神経が活発だと体温が上がりやすくなる。反対に、副交感神経が優位になると体温が下がり、眠りにつきやすくなる。就寝前は部屋を暗くしたり、落ち着く音楽を流したりして、心と体をリラックスさせよう。
熱中症、冷え症、睡眠の質などに関わる深部体温。深部体温のコントロール方法は、運動・食事・入浴を含めたさまざまな生活習慣と関連しています。深部体温を意識しながら、規則正しく毎日の生活を送りましょう。
深部体温を上手に調整する方法として、日常生活に取り入れやすいのが入浴。熱中症の予防や冷え対策、睡眠の質を高めたいときなど、目的に合わせた入浴を意識することが大切。
熱中症予防のための「暑熱順化」や、冷え症の改善には、深部体温をしっかり上げる入浴が効果的。シャワーだけではなく、湯船に浸かることが大切。ぬるめのお湯(約38℃)なら10分~15分、一般的な温度(約40℃)なら短時間の入浴でも問題ない。入浴が苦手な方は、半身浴から試してみよう。
質の良い眠りには、就寝時に深部体温をゆるやかに下げることがポイント。そのためには、寝る2〜3時間前にぬるめのお湯で入浴すること。サウナのように体温を大きく上げる入り方は、夜の眠りを妨げる場合があるので注意が必要。