この記事の監修者
東京都市大学 人間科学部教授
早坂 信哉さん
高齢者医療の経験から入浴の重要性に気づき4万人以上の入浴を調査した、入浴や温泉に関する医学的研究の第一人者。「世界一受けたい授業」「あさイチ」などテレビやラジオ、新聞や講演など多方面で活躍中。著書「最高の入浴法」(大和書房)「おうち時間を快適に過ごす入浴は究極の疲労回復術」(山と溪谷社)など。
熱中症と夏バテは、発生の原因がそれぞれ異なる。
熱中症は、「発汗による脱水」や「体温の上昇」によって引き起こされる急性の症状。気温が高い日中に外出し、当日の夜に症状が出るなど、原因が明確であることが多い。一般的には2〜3日以内に回復する。
一方、夏バテは正式な病名ではないが、おもに「自律神経の乱れ」が原因でおこる身体の不調。夏が進むにつれて現れる倦怠感など、長期的な症状。夏は、1日の間に10度前後の温度差が生じるため、自律神経のバランスが崩れやすい。自律神経の疲労度に応じ、回復にも時間を要することが多い。
夏場は浴室の温度が高くなっているため、長時間入浴すると体温が上がり、入浴中の熱中症のリスクも高まります。水分補給やお湯の温度調整など、季節にあわせた入浴法を取り入れることが大切です。
熱中症で体調がよくないときは、基本的には入浴しない方がいい。
体調が悪い時に無理に入浴すると、体温が上がるほか、水圧により身体に負担がかかり、場合によっては意識を失うリスクもある。シャワーを浴びる程度にとどめ、しっかりと水分補給をしながら身体を安静にすることを優先する。熱中症かどうかの判断は本人にも難しいため、体調が悪い時は基本的にお風呂に入らない方がいい。
身体がほてったり、大量の汗をかいている場合、冷たいシャワーで身体を冷やすことも効果的。体温より低い水温であれば効果があるため、夏場は水道水(25~30度)で十分。ただし、シャワーは熱中症になった際の対処法ではなく、あくまでも気分転換として取り入れよう。
夏の入浴は、「熱中症対策」や「夏バテ対策」としての効果も期待できる。
それぞれ原因が異なるため、入浴の方法も大きく異なる。
熱中症予防のためには、身体を暑さに慣れさせる「暑熱順化」が重要。
人間の身体は、気温変化に適応する力を持っているが、長い間その力を使わないと、だんだんと弱くなってしまう。そのため、冬から夏へ移り変わる時期は、身体が暑さに弱い状態なので、夏に向けて身体を暑さに慣らしておく(暑熱順化をする)ことが、熱中症の予防につながる。入浴はあくまでも熱中症予防のため、熱中症になったら入浴ではなく医療機関を受診すること。
人の身体は、汗をかくことによって体温を調節している。入浴で体温を上げ、汗をかきやすい身体を作ることが「暑熱順化」においては大切。
お風呂では汗が少しにじむくらいまで入るのがポイントで、目安としては40℃のお湯に10分ほど。身体が暑さに慣れるには2週間程度かかるため、最低でも暑さが本番となる2週間前くらいから取り組むとよい。
「暑熱順化」は約2週間で完了します。東京などの関東地方では、通常6月頃から熱中症のリスクが高まるので、2週間前にあたる5月中旬頃から「暑熱順化」のための入浴をはじめるのがおすすめです。2週間、毎日入浴することが理想ですが、負担に感じる場合は週3〜4回程度の頻度でも大丈夫です。
暑い外と冷房の効いた室内を行ったり来たりすることが夏バテの原因のひとつと考えられている。これにより、興奮状態の神経(交感神経)が頻繁に刺激されて、自律神経が乱れてしまう。
そのため、夏バテの予防・回復のためには、興奮状態の神経(交感神経)を落ち着かせ、リラックスする神経(副交感神経)を働かせるのが大切。
副交感神経を優位にしてリラックスするためには、「38℃のぬるめの湯に10〜15分ほど」浸かるのがおすすめ。42℃以上の熱いお湯や人間の体温以下の冷たい温度で入浴すると、交感神経が活性化して興奮状態になるので、夏バテ予防には逆効果になる。
夏バテ予防の入浴は夏本番(7月~8月)に実施する。流れとしては、「暑熱順化」を目的とした熱中症対策の入浴をして、そのあと夏バテ対策の入浴に切り替えるのがおすすめ。
「炭酸入浴剤」は、お湯に溶けた炭酸ガスが皮膚から吸収され、血管を広げることで血流を改善する効果がある。
ぬるめのお湯では、身体を温める「温熱作用」が弱くなり血流改善効果が少なくなるが、炭酸入浴剤を入れることでその効果を補える。
血流が改善すると、身体が芯から温まるだけではなく、全身の新陳代謝が促進されるため、疲れが取れやすくなる。
38℃前後のぬるめの温度でも、炭酸系の入浴剤の効果は期待できます。「夏ならではのお風呂の楽しみ方」として、試してみてはいかがでしょうか。
熱中症や夏バテを防ぐために、入浴の際は下記のポイントを意識してみよう。
入浴は、身体の汚れを落とす「清浄作用」だけでなく、さまざまな健康効果がある。
身体を温める「温熱作用」は代表的な効果のひとつで、身体が温まると血管が広がり、血流が改善して新陳代謝も促進される。
また、お湯の水圧で身体をやさしく圧迫し、血流改善やむくみ解消を促す「静水圧作用」や、水中で筋肉や関節などを休ませる「浮力」によるリラックス効果などもある。半身浴では、このような効果が半分ほどになるため、しっかりと全身でお湯に浸かることがおすすめ。
夏は浴室自体も暑くなっているので、全身浴がきついと感じる方もいらっしゃるかと思います。全身浴がつらく感じる場合は、半身浴をおこなったり、体温と同じくらいの温度(不感温度)まで湯温を下げても大丈夫です。
入浴で汗をかくと、水分やミネラルが失われるため、水分補給をおこなうことが大切。
できるだけ入浴前・入浴中・入浴後、すべてのタイミングで飲むのが望ましいため、自宅では入浴中の水分補給も意識してみよう。
飲み物は水でもよいが、ミネラルを含む麦茶がおすすめ。純水よりも体内への吸収がよく、脱水改善作用が強いという研究結果があり、カフェインも含まないため安心して飲める。
アルコール以外の飲み物であれば、好みで飲んで問題ない。例えば、スポーツドリンクなどのブドウ糖を含む製品は体内への吸収が良好で、脱水改善効果に優れている。ただし、糖分が多いため、ダイエット中の人や子どもに飲ませるには注意が必要。
暑いまま無理して入浴すると、のぼせる可能性があるため要注意。
汗がにじむ程度であれば問題ないが、汗がダラダラと流れる場合、体温が上がりすぎている状態のため、我慢せずにすぐに浴室から出るようにする。
次の日からお湯の温度を下げたり、入る時間を短くしたりと、身体に負担がかからないよう工夫をしよう。