この記事の監修者
医学博士
久手堅 司さん
2003年に東邦大学医学部卒業、東邦大学付属医療センター大森病院、済生会横浜市東部病院での臨床経験を経て、2013年8月に「せたがや内科・神経内科クリニック」開設。「頭痛外来」「自律神経失調症外来」など複数の特殊外来を立ち上げ、特に「気象病・天気病外来」「寒暖差疲労外来」はテレビ・新聞・雑誌・ウェブなど各種メディアで話題を呼んでいる。気圧予報・体調管理アプリ「頭痛ーる」監修医師。
日本内科学会 総合内科専門医/日本神経学会 神経内科専門医/日本頭痛学会 頭痛専門医/日本脳卒中学会 脳卒中専門医
自律神経は、心臓の動きや呼吸・発汗・血圧の調整などの生命維持に重要な身体のはたらきを支えている神経。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があり、この2つがうまく切り替わることで、心や身体の健康が保たれている。
交感神経は身体を動かすアクセルの役割を持ち、日中の活動時や緊張しているときに活発になる。一方、副交感神経は心と身体を休ませるブレーキのような役割があり、リラックスしているときや眠っているときに優位になる。
ストレスが多い現代では、慢性的に交感神経の活動が優位な人が増えている。自律神経を整えるには、意識的に副交感神経を刺激する工夫が必要。
ネットで検索すると「身体の不調=自律神経の乱れ」と結びつける情報が多く見られるが、実際には、別の原因で症状が出ていることも多い。
身体や心の不調をすぐに「自律神経の乱れ」と思い込むのではなく、まずは今の症状に合った専門科を受診することが大切。
頭痛なら脳神経外科、めまいなら耳鼻科、動悸なら循環器科といったようにそれぞれの専門医で検査を受け、それでも異常がない場合は、自律神経になんらかの問題が起きている可能性を考慮しましょう。
日常生活で、自律神経が乱れるおもな原因は以下の通り。
自律神経が乱れる1番の原因は、不規則な生活リズム。人の身体には約24時間半の体内時計(サーカディアンリズム)があり、このリズムに合わせて生活するのが理想とされる。
しかし、夜更かしや睡眠不足が続くと体内時計がずれてしまい、自律神経も乱れやすくなる。とくに現代は、夜遅くまで営業しているお店が多いことや、スマートフォンやパソコンを長時間使用する習慣など、夜型の生活になりやすい。
もう1つの大きな原因が日々のストレス。仕事や人間関係、将来への不安などのストレスに加え、気温や気圧の小さな変化も、自律神経に影響を及ぼす。
ほかにも、夏場に冷房の効いた部屋で長時間過ごしたり、冷たい飲み物を大量に摂取したりすることも、自律神経に悪影響を与える。
また、秋から冬にかけては、日中と朝晩の気温差や急な冷え込みなども自律神経に負担がかかるので、気温差に応じて服装を工夫し、体を冷やしすぎないようにすることが大切。
自律神経を整えることを意識しすぎると、交感神経を過剰に刺激してしまい、自律神経を乱してしまう原因となります。完璧を求めすぎず、ゆるやかに向き合うことが大切です。
自律神経の乱れは、頭痛・喉のつまり・動悸・だるさ・不眠・イライラなど、身体と心の両方にさまざまな症状を引き起こす。
不安・落ち込み・イライラ・怒りっぽい・集中力
倦怠感・疲れやすい・不眠・微熱
頭痛
つまり・イガイガ感
動悸・高血圧・立ちくらみ
食欲不振・胃痛・便秘
また、1つの症状だけでなく「いくつかの不調が重なりやすい」ことも特徴としてあげられる。
たとえば、胃腸の不調によって睡眠が浅くなり、眠れない日々を過ごすことで不安が強まる。その結果、頭痛が頻繁に起きる…といった悪循環に陥ることも。
交感神経の活動が優位になりすぎたり、優位な状態が長く続きすぎると血管が収縮し、血液の流れが滞りやすくなることで血液がドロドロになり、老廃物がたまりやすい状態になってしまう。
自律神経のバランスが整い、副交感神経の活動が活性化すると、縮んでいた血管が広がって、身体のすみずみまで酸素や栄養が届きやすくなる。
また、血流がスムーズになることで老廃物の排出も促進され、冷えやむくみ、肩こりの軽減などの効果が期待できる。
血流が改善する以外にも、自律神経が整うことで得られる効果はいくつかある。
「入眠に30分以上かかる」「夜中に何度も目が覚める」「夢をよく見る」といった状態は、眠りが浅くなっているサイン。
自律神経のバランスが整うと、最初の90分で深い睡眠(ノンレム睡眠)に入りやすくなり、そのあとの眠りも安定しやすい。
睡眠の質が向上することで、疲れが取れやすくなり、翌朝もすっきり目覚められるようになる。
交感神経の活動が優位な状態が長く続きすぎると、細菌やウイルスなど異物から身体を守るリンパ球が減少する。すると免疫力が低下し、風邪をひきやすくなったり、治るのに時間がかかってしまう。
自律神経のバランスを整えることで、免疫細胞である顆粒球とリンパ球の比率も安定するため、免疫機能の安定につながる。
自律神経を整えるには「バランスのよい食事」や「姿勢を意識する」など、普段の生活をちょっとずつ変えていくことが大切。
決まった時間に食事をとることで、体内時計も安定しやすくなる。栄養面では、ビタミンやミネラルを意識し、発酵食品を1日に1回取り入れると腸内環境が整いやすくなる。タンパク質も、肉や魚などの動物性と大豆などの植物性をバランスよく摂取するのが理想的。
順番としては、野菜や肉、魚から先に食べたあとに白米やパンなどの糖質を摂ることで、血糖値の急上昇を防げる。満腹まで食べるのではなく、腹八分目を意識しよう。
また、食事中のながら行為は、自律神経に負担をかける原因となるので要注意。とくにスマートフォンを見ながらの食事は、食べすぎや味覚の鈍化にもつながる。
スマートフォンやパソコンを見るときに下を向く姿勢が続くと、頭の重さによって首や背骨に負担がかかる。その結果、背骨を通っている自律神経にストレスがかかり、自律神経が乱れる原因になる。
横から見たときに背骨がS字カーブを描き、頭が骨盤の真上に乗っているのが理想の状態。胸を開いて、骨盤の上に身体をバランスよく乗せることを意識してみよう。
長時間の座位行動は総死亡リスクを高めるというデータもあるため、できるだけ座っている時間を減らし、立つ時間を増やす工夫をすることが大切です。
自律神経を整えるには腹式呼吸も効果的。鼻から息を吸って3秒止め、口から6秒間かけてゆっくり吐くのがポイント。意識的にお腹を膨らませる呼吸を続けることでリラックス効果が高まる。
とくにひざを曲げておこなうと腰の緊張が和らぐため、副交感神経の活動が優位になりやすくなる。
また、首や背骨のストレッチも姿勢の改善につながり、緊張を和らげる助けとなる。自宅でも気軽にできるストレッチとしては、タオルを使った首まわりのストレッチもおすすめ。
スマートフォンやパソコンの画面から出る強い光は、脳を刺激して交感神経の活動を優位にさせる。
また、SNSやゲームなどの情報も刺激となるため、寝る直前までスマートフォンを見ていると、身体がなかなか副交感神経に切り替わらず、眠りが浅くなりやすい。
自律神経を整えるためにも、就寝の2時間前からできるだけ電子機器の使用を控えるようにしよう。
睡眠の質を上げるためにおすすめなのが、就寝の1時間半~2時間前に38〜40℃のぬるめのお湯に浸かること。
10~15分ほどかけて浸かることで深部体温が上昇し、就寝のタイミングに合わせて下がり始める。これにより、自然な眠気を誘発することができる。
また、入浴で身体が温まると血管が広がり、副交感神経の活動が優位な状態に切り替わりやすくなる。
入浴による温熱効果で、首や肩のこり、背中の緊張などを和らげる効果も期待できます。とくに女性は男性に比べて血流が滞りやすく、冷えによる不調も起こりやすい傾向にあるため、全身浴で身体を温めるのがおすすめです。
現代の生活は、慢性的に交感神経の活動が優位になりやすいため、自律神経を整えるには副交感神経の活動が優位になる時間を意識してつくることが大切。
副交感神経をはたらかせる簡単な方法のひとつが、身体を温めること。交感神経の活動が過剰に優位な状態は血管を収縮し、血のめぐりを悪化させる。さらに、ストレスによって血液がドロドロになり、冷えや痛みの原因となる老廃物もたまりやすくなる。
身体を温めることで血管が広がって血液循環がよくなり、副交感神経の活動が優位になる。その結果、寝つきがよくなったり、血流が改善されることで冷えやむくみが和らぐ効果も期待できる。
とくに目元は、脳へ温感・触感を伝える三叉神経が多く分布しており、蒸しタオルで温めるなど、蒸気を含んだ状態で温めると効率よく熱が伝わり、血流の改善につながりやすい。