この記事の監修者
東京都市大学 人間科学部教授
早坂 信哉さん
高齢者医療の経験から入浴の重要性に気づき4万人以上の入浴を調査した、入浴や温泉に関する医学的研究の第一人者。「世界一受けたい授業」「あさイチ」などテレビやラジオ、新聞や講演など多方面で活躍中。著書「最高の入浴法」(大和書房)「おうち時間を快適に過ごす入浴は究極の疲労回復術」(山と溪谷社)など。
湯船入浴でリラックス効果を得るためには、副交感神経を刺激する「38〜40℃」がおすすめ。42℃以上の熱いお湯は、交感神経を強く刺激して、身体に負担がかかってしまう場合も。
夏場など暑く感じるときは、38℃のぬるめの温度にして、炭酸入浴剤を使うとよい。38℃では、温熱効果は弱まるが、炭酸の作用で血管が広がり、血の巡りを促す効果が期待できる。
38〜40℃をぬるく感じて、どうしても熱いお湯で湯船入浴したい場合は、一気に熱いお湯につからず、段階的に温度を上げるようにしよう。まず40℃くらいのぬるめのお湯に5~6分浸かり、そのあと追い焚き機能で少しずつ湯温を上げていく方法がおすすめ。
42℃以上の熱いお湯に浸かると、交感神経が刺激され、身体が緊張状態になる。その結果、心拍数や血圧が上がり、血液が固まりやすくなるため、身体に負担がかかりやすい。
とくに日中は交感神経が活発にはたらいているため、帰宅後の湯船入浴では副交感神経を優位にして、身体をリラックスさせるのが理想的。そのため、38~40℃で副交感神経が優位になる温度で湯船に浸かろう。
適温であっても、長時間湯船に浸かるのは身体への負担になります。血圧の変動や脱水などのリスクが高まってしまうため、肩まで浸かる全身浴の場合は、15分程度を目安にするのがおすすめです。
42℃以上の熱いお湯に入ると、体温が急激に上がる。人の身体には、体温を一定に保とうとするはたらきがあるため、体温が急激に上がると汗をかいて早く冷やそうとして温かさが長続きしない。
適温で湯船に浸かったほうが、身体がゆっくりと温まり、入浴後の温かさが持続しやすい。
実際に、サーモグラフィーを使った実証実験でも、入浴1時間後の体温を比較すると、42℃のお湯よりも、41℃のお湯に浸かったほうが温かさが保たれていたという結果がでている。
質の高い睡眠には、「体温の下がる幅が大きいこと」と、「副交感神経が優位になること」の両方が大切。
42℃以上の熱いお湯は体温を急激に上げるため、下がる幅は大きくなる。しかし同時に交感神経も活発になってしまい、興奮状態が続いて眠りを妨げてしまう。
適温での湯船入浴なら、体温を穏やかに上げながらも交感神経を過度に刺激せず、体温がゆるやかに下がることで副交感神経が優位になる。これが睡眠の質を高めてくれる。
通常、人の体温は夕方にもっとも高くなり、夜にかけてゆっくり下がっていきます。この体温が下がるタイミングで眠気が訪れます。そのため、湯船入浴で適度にいったん体温を上げ、そのあと下げることで、より心地よく眠りにつくことができます。
湯船入浴の基本となる温度は「40℃」。この温度で10〜15分程度浸かると、しっかり身体が温まり、疲れが取れやすく、リフレッシュ効果が得られやすい。さらにこだわりたい人は、お湯の温度や入浴時間を調整するのもお風呂の楽しみ方の1つ。
肩こりや腰痛を和らげるには、しっかりお湯に浸かり筋肉を温めて、血の巡りをよくするのが効果的。
「40℃のお湯に10分」ほど入ると、副交感神経が優位になり、身体がリラックスしやすい。肩こりの場合、肩まで湯船に浸かり肩を温めるのがポイント。5分ほど肩を温めてから湯船のなかで肩や首をゆっくりと回して緊張した筋肉をほぐすと、さらに効果的。
また、湯船に浸かると「浮力」の効果で腰への負担が減り、痛みの緩和が期待できる。両手で片方の湯船の縁をつかむ方法で腰をゆっくりひねってみるのもおすすめ。
急性の腰痛(いわゆる「ぎっくり腰」)の場合は、腰の筋肉に急激に炎症が起きている状態ですので、注意が必要です。医師の診断を受け、許可が出るまでは湯船入浴をしないように注意しましょう。
冷え対策には、40〜41℃のお湯に10分程度浸かるのがおすすめ。
冷えた身体を早く温めようと42℃以上の高い温度で湯船に浸かると、一時的に体温は上がるが、その温かさは長続きしない。
人の身体には、できるだけ体温を一定に保とうとする仕組みがある。そのため、急激に体温が上がると、たくさん汗をかいて早く体温を下げようとする。その結果、入浴直後は体温が高くなるが、すぐに冷えてしまい、冷えの症状は改善されにくい。
湯船入浴には気分の不調を和らげる効果があり、医学研究や心理学の実験でも認められている。
気分の不調には、「イライラするタイプ」と「やる気が起きないタイプ」の2つがあり、それぞれに合った入浴法がある。
イライラしたり焦りを感じているときは、交感神経が優位になり、身体が緊張している状態。そのため、湯船に浸かり副交感神経を刺激するのが効果的。「40℃のお湯に合計20分程度」と長めに浸かって、身体をリラックスモードに切り替えよう。ただし、連続して20分間の入浴は長いので、汗をかいたら途中で湯船から出て休憩をしながら入浴すると良い。
反対に、何もやる気がでないときは、熱いお湯で身体を活動モードに切り替えるのがおすすめ。「42℃のお湯に5分」入ることで、交感神経を刺激することができる。
「お風呂に毎日入る人には幸福度が高い人が多い」という研究結果もあります。毎日入浴をし、ゆっくり身体をリラックスさせる時間をつくることは、心の健康を保つためにもおすすめです。
高血圧の人は、熱いお湯は避けるべき。38~40℃の湯に浸かることで、血の巡りがよくなり、血圧を下げる効果が期待できる。
一方、低血圧の人に起こりやすい、めまい・立ちくらみ・朝のだるさなどの症状には、温冷交代浴がおすすめ。
「40℃の湯に3分ほど浸かり、25℃前後の水を手足に10秒ほどかける」ことを2〜3回繰り返そう。温かい湯で血管を広げ、水を浴びて血管を縮めることで、自律神経を整える効果が期待できる。
また、寝起きのだるさで身体が動きにくい人は、「42℃でシャワーをサッと浴びる」ことで、交感神経が刺激され、スムーズに活動モードに切り替えられる。
夏は40℃のお湯でも暑く感じることがあるため、37~38℃のぬるめの温度にするのもおすすめ。
夏は外と室内の温度差が大きいため、交感神経のスイッチがずっと入ったまま、身体が緊張状態になりやすい。この状態が続くと、自律神経のバランスが崩れ、夏バテの原因になることも。
「37~38℃のぬるめのお湯」に入ることで、副交感神経が優位になりリラックスしやすく、夏バテの防止にもつながる。
また、湯温は体温より低くしないことが大切。体温より低く、身体が「冷たい」と感じる湯温で湯船入浴すると、逆に交感神経が刺激される。夏バテ対策や身体をリラックスさせたいときは、副交感神経を刺激する必要があるので、体温よりも低い温度での湯船入浴は避けよう。
冬は熱いお湯で身体を温めたくなるが、温度の上げすぎには要注意。
42℃以上の熱いお湯に入ると、体温が急激に上がる分、身体がすばやく体温を下げようと反応してしまうため、かえって温かさが長続きしない傾向がある。40℃前後(39〜41℃)のお湯でじんわりと身体を温めたほうが、入浴後も身体の温がさが長持ちする。また、副交感神経が優位になり、身体がリラックスしやすくなる。
入浴の事故の数は冬になると圧倒的に増えます。浴室との温度差をなくすため、事前に脱衣所を温めておくようにし、入浴前の水分補給、浴槽に入る前のかけ湯など、ヒートショック対策をおこなうようにしましょう。