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褐色脂肪組織でのエネルギー消費と茶カテキンによる活性化

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北海道大学 名誉教授
斉藤 昌之
近年、ヒトの太りやすさ/太りにくさの体質に関与する要因の一つとして
褐色脂肪組織が世界的に注目されています。さらに最近の研究の成果として、
褐色脂肪組織を活性化し、脂肪燃焼量を亢進させる作用が
茶カテキンにあることがわかり、肥満予防の面から期待を集めています。
そこで、褐色脂肪組織の研究の第一人者である斉藤昌之先生にお話をお聞きしました。
エネルギーを消費する褐色脂肪組織
 私たちの身体にある脂肪は体脂肪と呼ばれ、この体脂肪が増えると肥満につながります。体脂肪を蓄えている脂肪組織は、通常、白色脂肪組織と呼ばれ、牛や豚などの肉の切り身で白く見える脂肪と同じように白色をしています。その白色脂肪組織とは別に、褐色脂肪組織と呼ばれる特殊な脂肪組織があります。この褐色脂肪組織はほ乳動物のみに存在し、中でも冬眠動物では豊富に見られます。長年、ヒトの褐色脂肪組織については、乳幼児のときのみ存在し、成人するとなくなると考えられてきました。しかし、2006年のPETを用いた私たちの調査により、ヒトの成人でも褐色脂肪組織があることが確認されました。
 褐色脂肪組織は、脂肪をためる機能をもつ白色脂肪組織から運ばれる脂肪を燃焼して消費するという機能をもちます。つまり、褐色脂肪組織は代謝的熱生産によって脂肪エネルギーを消費させるのです。
褐色脂肪組織が熱をつくる主な理由は、体温低下を避けるためです。たとえばリスなどの冬眠動物は、冬眠中は5℃程度まで体温が低くなっていますが、冬眠から目覚めるときの急激な体温上昇の際に褐色脂肪組織で脂肪を燃やし、体温を上昇させます。褐色脂肪細胞がほ乳動物にのみ見られる理由としては、母体から胎児が生まれるというほ乳動物特有の性質にあると考えられています。たとえばヒトの場合は、生まれる時に37℃前後の胎内から産室の外気にさらされることになりますが、この際に褐色脂肪組織で熱を生み出して体温を保つのです。
寒冷刺激により活性が高まる
 褐色脂肪組織が注目されているのは、代謝的熱生産によるエネルギーの消費によって、体脂肪が減り、抗肥満効果につながるためです。では、褐色脂肪組織はどのような状態で活性化するのでしょうか。最も効果的なのは、寒冷刺激です。図1は、薄着の状態で室温19℃の部屋で両足を断続的に氷冷することによって、寒冷刺激を2時間与えた例です。この撮像データからは、肩や傍脊椎部で褐色脂肪組織が活性化していることがわかります。
図1 PETを用いた寒冷刺激の前後の褐色脂肪組織活性の撮像データ
 私たちは、2006年から2015年にかけて20〜73歳の健常被験者299名に対する調査を行いました。その結果、褐色脂肪組織には個人差があり、調査した被験者のうち褐色脂肪組織の活性化がすぐに見られたのは約6割で、残りの4割は、寒冷刺激を行ってもすぐには褐色脂肪組織の活性化が見られませんでした。褐色脂肪組織は、赤ちゃんのときには誰もが持っていますが、成長に従って減っていき、その減り方に個人差があります。また、褐色脂肪組織が活性化しづらい人のほうが体脂肪がたまりやすく、加齢に伴う肥満、いわゆる中年太りの原因になることもわかりました。肥満予防の観点から考えると、褐色脂肪組織の活性が低い人への対策が、より求められるということになります。
 それでは肥満している人の褐色脂肪組織を活性化するにはどうすれば良いのでしょうか? 最も効果的なのは寒冷刺激を続けることです。実際に、1日1回の寒冷刺激(17℃の部屋で2時間安静)を6週間続けて、その前後での褐色脂肪組織の量とエネルギー消費能力、および体脂肪量の変化を調べると、褐色脂肪組織が顕著に増加し、エネルギー消費能力が上昇して体脂肪量が減少することがわかりました。このように、褐色脂肪組織が減っても完全にゼロになるわけではなく、適当な刺激を与え続ければ、褐色脂肪組織を再度活性化し増やすことができるので、褐色脂肪組織は肥満対策の有望なターゲットとして注目されているのです。
茶カテキンによる褐色脂肪組織の活性化
 褐色脂肪組織の活性化・増量には寒冷刺激が効果的ですが、日常生活で寒冷刺激を与え続けるというのは現実的ではありません。そこで注目されているのが、食品に含まれる成分による褐色脂肪組織の活性化です。
 寒冷刺激による褐色脂肪組織の活性化は、皮膚にある寒さを感じる受容体(TRP)が刺激されることから起こります。この受容体は、皮膚だけでなく内臓にも存在し、さまざまな化学物質によって活性化されます。最近の研究により、この化学物質の中には、トウガラシに含まれるカプサイシンやニンニクに含まれるアリシン、マスタードなどの香辛料に含まれるイソチオシアネート、さらに緑茶に含まれる茶カテキンなど、日常的に摂取する食品に含まれる成分があることがわかってきました。
 このうち、茶カテキンによる褐色脂肪組織の活性化について、私たちは調査を行いました。まず最初に褐色脂肪組織の活性の高い人と低い人に、それぞれ茶カテキン540mgを含む飲料350ml(茶カテキン群)と、茶カテキンを含まない飲料(対照)を飲んでもらい、その後3時間にわたるエネルギー消費量の変化を調べました。その結果が図2ですが、どちらも飲料を飲んだ最初の15分くらいでエネルギー消費量が上がり、その後褐色脂肪組織の活性の高い人はエネルギー消費量が高い状態が続きますが、褐色脂肪組織の活性の低い人はすぐにエネルギー消費量が下がっています。このことから、茶カテキンによって褐色脂肪組織が活性化されたために、エネルギー消費が上がると考えられます。
図2 褐色脂肪組織の活性の高い人と低い人の茶カテキンによるエネルギー消費量の比較
 では、褐色脂肪組織の活性が低く肥満しやすい人に対して茶カテキンは全く効果がないのでしょうか? 寒冷刺激を毎日続けると褐色脂肪組織が再活性化して増えますので、茶カテキンを飲み続けると同じ効果が期待できます。そこで、褐色脂肪組織の活性の低い人を2グループに分けて、茶カテキン540mgを含む飲料350ml(茶カテキン群)と、茶カテキンを含まない飲料(対照)を、1日2回、朝と夜に5週間継続して飲んでもらいました。その結果を示したのが図3-A・図3-Bです。飲み続けているとエネルギー消費が増え、さらに脂肪の燃焼も増えていくことがわかります。エネルギー消費量や脂肪燃焼量が増えるということは、褐色脂肪組織が活性化したことを意味していると考えられます。
太りにくい体質につながる生活習慣とは
 これらの調査により、茶カテキンを多く含む緑茶飲料は、ヒトの褐色脂肪組織を活性化し、エネルギー消費を増やして体脂肪を減らす効果があるということがわかりました。この際に留意していただきたいのが、この効果を維持するためには、茶カテキンを摂取し続けることが必要だということです。継続が必要なのは、寒冷刺激やカプサイシンについても同じで、刺激し続けないと、褐色脂肪組織の活性は元に戻ってしまいます。
 茶カテキンをはじめとする食品成分を摂取することは、寒冷刺激に比べれば、日常生活に取り入れやすいものです。保健師、栄養士など健康支援を行う専門職の方は、紹介したエビデンスを頭の片隅に置いていただき、例えば嗜好品としてお茶を飲む場合には、茶カテキンをより多く含む緑茶をすすめる等のアドバイスをしていただくことができるかと思います。
 また、最近の研究では、食事の際に十分咀嚼して味覚を刺激すると満腹感も伝わりやすく、インスリンの分泌も多くなり、褐色脂肪組織の活性化が起こるということもわかってきています。食事をゆっくり味わいながらおいしくいただくというのはごく当たり前のことですが、食事そのもののあり方を見つめ直すといった指導も大切なことではないかと、改めて感じています。
 私自身の今後の研究としては、褐色脂肪組織の活性化になぜ個人差があるのかを調べていきたいと考えています。個人差の原因がわかれば、その個人に対して最も効果的な褐色脂肪組織活性化の方法を提案できるようになるでしょう。生活習慣病をより有効に予防するためにも、褐色脂肪組織の研究を進展していければと考えています。
図3-A 褐色脂肪組織の活性の低い人の茶カテキンによるエネルギー消費変化量の比較
図3-B 褐色脂肪組織の活性の低い人の茶カテキンによる脂肪燃焼変化量の比較
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