皮膚のmRNA情報は、皮膚生理状態や疾患を理解する上で極めて有用です。一般的に皮膚のmRNAを取得するには皮膚生検が用いられていますが侵襲性が課題となっていました。
花王は、皮脂腺が細胞内容物を皮脂中に放出する全分泌機構に着目し、検証を行ったところ、皮膚表面脂質に測定可能なレベルのヒトmRNAが存在することを確認しました。また、そのmRNAが、皮脂の脂質成分によってRNaseによる分解から守られていることも明らかとなりました。皮脂RNAの発現情報を測定するためにAmpliSeqトランスクリプトーム解析を改良し、皮脂の網羅的解析技術である皮脂RNAモニタリング®技術を構築しました。
この皮脂RNAモニタリング®技術を用いて皮脂RNAの由来細胞を解析したところ、主に皮脂腺、表皮、毛包に由来するmRNAで構成されていることが分かりました。
また、アトピー性皮膚炎患者の皮脂RNAを解析したところ、炎症関連遺伝子の発現が増加し、表皮角化関連遺伝子の発現が減少していることが明らかになり、これまでの報告結果と一致しました。さらに、アトピー性皮膚炎患者の皮脂腺では、脂質合成関連遺伝子の発現が低下していることも確認されました。
これらの結果より、非侵襲で手軽かつ精緻にRNAの発現情報を確認できる皮脂RNAモニタリング®技術は、皮膚疾患の分子病態を理解する方法として非常に有望であると考えられます。
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2019年06月04日 花王ニュースリリース
皮脂中に人のRNAが存在することを発見。独自の解析技術「RNA Monitoring(RNAモニタリング)」を開発(kao.com)
乳幼児期には、アトピー性皮膚炎(AD)、脂漏性湿疹、接触性皮膚炎、新生児・乳児ざ瘡など様々な湿疹が生じます。中でも、乳幼児期早期に発症する早期発症型ADは、アレルギーマーチ(1)のリスクとなることが知られており、早期発見と治療が重要です。一方で、ADの診断は、前述の湿疹との鑑別、掻破行動の確認、湿疹の経過など様々な情報が診断に必要となり、診断が遅れる可能性があることから、客観的な指標に基づく診断が求められています。
これまで、軽症から中等症のAD乳幼児(生後6か月から5歳)の皮脂RNAの解析から、健常皮膚の乳幼児に対して、ADに特徴的な皮膚バリア機能(角層構造、細胞間接着分子、セラミド合成、抗菌ペプチド)やTh2型免疫応答に関連した多数の遺伝子の発現が異なることが検出されました。さらに、表皮角化やTh2型免疫応答に関する遺伝子がADの重症度と相関することも明らかになりました。
これらの検討結果から、皮脂RNA解析を活用することで、肌の機能が未熟な低月齢の乳幼児において、負担をかけず客観的な指標により、皮膚状態を捉えられる可能性が示されました。このことから 皮脂RNAモニタリング®技術は、診断の難しい乳幼児AD領域で、有益な技術になると考えられます。
(1)食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などさまざまなアレルギー疾患を次々と発症すること
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2023年04月12日 花王ニュースリリース
乳幼児アトピー性皮膚炎(AD)の予兆を生後1カ月の乳児の皮脂RNAに検出。-乳児期早期発症型ADを皮脂RNAモニタリング技術で捉える(kao.com)
老化は、体の機能が低下していく現象ですが、暦年齢(生まれてからの年数)が同じでも、老化の進行程度や症状の現れ方は個々に異なります。
近年、体の機能の低下程度から老化の進行程度を推定する“生物学的年齢”という考え方が注目されています。そこで花王は、皮脂RNAの発現情報を活用した、肌の生物学的年齢の推定について検討を行いました。20~59歳の女性113名を対象に、暦年齢と相関する皮脂RNAを探索したところ368種のmRNAが同定され、炎症や細胞死、細胞老化や表皮分化など、老化に関連する機能を担うものが多く含まれていることが明らかになりました。
これら368種類の皮脂RNAの発現量を用いて、暦年齢を予測する機械学習モデルの構築と検証を行ったところ、皮脂RNAによる予測値と暦年齢には高い相関が確認されましたが、同じ年代の中でも予測値が高い人と低い人が存在していました。そこで、同年代において老化に関する肌物性値と暦年齢、もしくは生物学的年齢の相関を確認したところ、生物学的年齢においてのみ有意な相関が確認されました。
これらの結果より、機械学習を用いて皮脂RNA情報から算出された生物学的年齢が、肌の老化程度をより強く反映している可能性が示されました。肌状態は加齢のみならず、一人ひとりの環境の違いに大きく影響を受けることが知られています。 皮脂RNAモニタリング®技術を活用し推定される生物学的年齢から、環境因子を見直すことで肌を健全に若々しく保てる可能性が考えられます。
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2021年08月16日 花王ニュースリリース
<皮脂RNAモニタリング技術>加齢に伴い変化する皮脂RNA情報を用いて“生物学的年齢”を算出。個々人で異なる肌の老化程度を推定可能に(kao.com)
パーキンソン病(PD)は、脳内のドーパミンを生産する神経細胞が死滅することで発症する、進行性の神経変性疾患です。手足の震え、筋肉の固縮、動作の遅さ等といった運動症状を呈し、日常生活における自立性の低下を招く可能性があります。現在のところPDを根治するための治療方法は存在しませんが、早期に確定診断を行ない、適切な治療を継続することで症状をコントロールすることは可能です。しかし、PDの診断には専門的かつ複雑な検査が必要であるため、より簡便な検査方法が求められています。
そこで、順天堂大学と株式会社Preferred Networksと共同で未治療のPDおよび健常者の皮脂RNAの発現プロファイル解析を実施したところ、PDではミトコンドリアの酸化的リン酸化に関連する遺伝子群の発現が変動していることが確認されました。さらに皮脂RNAの情報とExtremely Randomized Treesと呼ばれる機械学習モデルによってPDを判別できるか検証したところ、精度よくPDを判別することが示唆されました(AUC=0.806)。
本研究では、生体試料としてあぶらとりフィルム1枚で採取した皮脂RNAを用いており、侵襲を伴うことなく誰でも採取することが可能です。今後、皮脂RNAを用いた簡便なPDの検査方法が提供できるようになれば、PDの早期診断や先制医療の一助となる有望な技術になると考えられます。
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2021年09月21日 花王ニュースリリース
皮脂RNAにパーキンソン病患者に特有の情報が含まれることを発見。~ 皮脂RNA情報と機械学習モデルによる新たな検査方法の可能性 ~(kao.com)
2024年06月28日 花王ニュースリリース
パーキンソン病患者に特異的な皮脂RNA情報の同定に成功。新たな検査方法開発の一助に(kao.com)