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歩行支援プログラムによる歩行の改善

歩容とは

 歩行に関する身体運動の様子を統合して「歩容」といいます。歩行動作を詳しく測定することで、歩容を表す様々な値が得られます。

表-1
歩行時の足圧力分析で得られる歩容の測定値の例

図-1
歩幅、歩隔、歩行角度の測定

歩行測定システムの構築

 歩行の量だけでなく、質についての研究も進めるため、歩行の状態を測定するシステムを構築しました。この歩行測定システムでは、シート式圧カセンサー、ビデオカメラ、解析コンピュータを使用します。シートタイプのセンサーを利用することで、自然な歩行のデータを、多数の被験者から得ることができます。測定にあたっては、歩行路を設定します。歩行路の測定区間に、幅0.8m、長さ2.4mのシート式圧力センサーを設置し、その記録データから、歩行速度、ケイデンス、歩幅、歩隔、歩行角度、つま先角度などを求めます。

図-2
シート式圧力センサーを用いた歩行測定

図-3
歩行記録

歩行評価アプリケーションの開発

 歩行測定システムによる測定の継続により、1万人以上の歩行データを収集することができました。対象者は、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層を含みます。得られた歩行データを用いて、歩行機能の評価や健康との関わりを調べる解析研究を行いました。

 まず、年齢と歩容の関係を検討しました 1)。対象者は、東京近郊に在住する21歳から88歳、独立歩行が可能な成人女性353名としました。歩容の計測はシート式圧カセンサーを用いた歩行測定システムで実施し、靴下での歩行を4回行いました。測定44項目中、36項目が年齢と有意に相関し、最も年齢と相関の高い項目は、身長及び歩行比でした。平均相対歩幅(歩幅を身長で基準化したもの)は加齢とともに短縮し、ケイデンスは加齢とともに増加しました。歩幅、歩隔、歩行角度の左右差は、加齢に伴い増加しました。年齢を説明変数、歩容指標を目的変数として重回帰分析を実施したところ、歩行比、平均相対歩幅、歩行角度の左右差、平均相対立脚期の4指標からなる式が得られました。4つの歩容変数による推定年齢と実際の年齢の相関係数はr=0.618となり、歩行速度と年齢の相関係数r=-0.418を上回りました。

 次に、膝痛、尿失禁、転倒に関連する歩行要因を検討しました 2)。解析対象者は、2002年に東京都で実施された介護予防健診および2006年に東京都で実施された老年症候群有症状況健診調査の協力者のうち、2009年の追跡調査で問診、歩行測定、認知機能低下の疑いのなかった女性870名(平均年齢79.6±41歳)としました。膝痛、尿失禁、転倒有無を、個別面接法により調査しました。被験者の有症率は、膝痛37.5%、尿失禁38.3%、転倒19.1%でした。歩容の計測はシート式圧カセンサーを用いた歩行測定システムで実施し、6回の試行により、歩行速度、ケイデンス、ストライド、歩幅、歩隔、歩行角度、つま先角度、左右差を求めました。ロジスティック回帰分析を行ったところ、膝痛、尿失禁、転倒全てに歩行速度との関連が認められました。中程度以上の症状では歩容がより強く関与し、膝痛には歩行角度と歩隔、尿失禁には歩行角度と歩行角度の左右差、転倒には歩幅と歩行角度の左右差との関連が認められました。歩行速度に加え、歩容の変化に着目することで、膝痛、尿失禁、転倒の徴候の早期発見に活かせる可能性が示されました。

 歩行測定の成果を健康づくりに生かすため、花王は独自の歩行評価アプリケーションを開発しました。このアプリケーションでは、歩行測定後、画面に、①歩行速度、②ピッチ、③歩幅、④歩隔、⑤歩行角度、③つま先角度を表示します。また、これらの測定値から算出した、「歩行年齢」を表示します。生活機能リスクとして5項目、膝痛、腰痛、転倒、尿もれ、筋力低下について、レーダーチャートで表示します。歩行の特徴や歩行年齢を提示することで、歩行と健康に関する意識が向上することをねらいとしています。

図-4
歩行評価アプリケーションの表示画面

歩行支援プログラムの応用と歩行の改善

 歩行評価アプリケーションは、歩行測定、歩行指導、目標設定、効果確認等のプロセスで活用することができます。歩行測定は、転倒や介護予防に関する健康セミナーの開催や、日常生活における歩数計・活動量計の着用と組み合わせることもできます。花王は、歩行測定とその結果の提示を通して、健康意識の改善と行動変容を促す「歩行支援プログラム」を開発しました。

 要支援・軽度介護高齢者を対象とした介入試験により、歩行支援プログラムの有用性を検証しました 3)。対象者は、介護老人保健施設のリハビリテーションに通う、独立歩行が可能な要介護度2以下の38名としました。全参加者に歩行機能の測定を行いました。介入群は目標設定を行い、4週間、活動量計を装着し、週に1度、日常生活シートを用いてフィードバックを行いました。日常生活シートには、日常の歩行速度、歩数、消費カロリー、装着時間を目標とともに表示しました。最終測定まで終了した28名(平均年齢77.9±7.5歳)を解析対象としました。
 介入群における日常生活の歩数は、1週目2821±1921歩/日から、4週目3850±2811歩/日に増加しました。介入群は、歩幅が有意に増加し、歩行速度に増加傾向が認められました(P=0.077)。また、歩行角度と立脚期割合、両脚支持期割合が有意に減少しました。要支援・軽度要介護高齢者においても、個別リハビリテーションと活動量計を用いた歩行支援プログラムの提供により、歩行機能の向上が可能であることが示唆されました。

図-5
要支援・要介護高齢者への歩行支援プログラムの応用と日常生活における歩数増加

 歩行支援プログラムは、自治体、運動教室、企業、高齢者施設など、異なる分野で活用が開始されています 4,5)。身体活動量の増加や転倒の予防等を視野にいれた今後の応用が期待されます。

引用文献

1)須藤元喜ら, 日本生理人類学会誌, 18(3), 125-132, 2013
2)金憲経ら, 日本老年医学会雑誌, 50(4), 528-535, 2013
3)宮永真澄ら, 体力科学, 64(2), 233-242, 2015
4)須藤元喜, バイオメカニズム学会誌, 38(4), 259-264, 2014
5)Furui Y et.al., Advances in Exercise and Sports Physiology (in press)

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