達人コラム

在宅医療専門医 中村明澄先生
お互いに「いい時間」にする介護を考えよう

2016.07.26 | 高齢社会

【達人コラム】在宅医療専門医 中村明澄先生

大変さや戸惑い、不安がつきまとう介護。今回は、ご自身もお母様の介護を経験し、在宅医療専門医として介護の現場で活躍する中村明澄先生に、介護する側・される側にとって「いい時間」にするための介護の向き合い方についてお話をうかがいました。

困ったときにはプロの知恵・力を借りて

くらしの現場レポート:経験者の声から見えてきた 「介護のあるくらし」への心の準備』で介護に取り組んでいる方の事例を聞かせていただきましたが、思ったよりも公的サービスの利用が少ないなと感じました。また、訪問看護の利用が入っていなかったのも少し残念に思います。人それぞれの価値観もありますので、サービスを利用することがその方の人生にとって必ずしもいいとは一概には言えませんが、利用することでいろいろサポートしてもらえることもあります。

家族の中だけで頑張るのも限界がありますので、困った時にはサービスをもっと気軽に活用してもらえたらいいですね。プロはいろいろな知恵を持っているので、みんなで考えることで様々なアイデアも出てきます。たとえば訪問看護師なら体の状態から先のこともイメージして、今のうちにこれをやっておくのがいいなどのアドバイスもできます。介護サービスは多くの場合、ケアマネジャーがコーディネートを行いますが、一度決めたら内容を変えられないと思っている方が多いようです。でも、サービス内容もケアマネジャーそのものも変えることができますし、要介護度の区分も体の状態によって申請の変更ができます。

今、介護と医療を一体化しようという動きもありますし、介護士と看護師がなるべく連携を取りながらやっていければ、ケアの質もまた変わってくるのではないかと思っています。

介護のあとも続く自分の人生も考える

介護をしていると、それが生活の中心にきてしまいがちですが、介護は生活の一部であってすべてではないんです。介護のために仕事を辞める「介護離職」が話題になりますが、私は状況が許すなら介護離職はなるべくしないほうがいいとお伝えしています。介護をしている方が亡くなった後も自分の人生は続きますから、その後の自分のことも考えてほしいからです。もちろん、自分が納得して介護に専念することを選んだのであれば、それでいいと思います。いちばん怖いのは、先が見えないままに離職して、金銭的にも気持ち的にも余裕がなくなって共倒れになってしまうことです。

仕事を続けて経済的に安定していれば、公的サービスと自費のサービスをうまく利用して、仕事と介護を両立させられる方法を見つけることができます。それに、精神的なバランスを保つためにもいい。私も母の介護のために仕事を辞めようかと一度は本気で考えました。けれども、仕事を続けたことで職場がいい気分転換になり、どっぷりと介護の世界にいるよりも、むしろ介護がうまくまわったように感じています。

一緒に過ごす日々をお互いにとって「いい時間」にするために

レポートで「いつまで続く」というキーワードがありましたが、経済的にも気持ち的にもいつまで続いても大丈夫なような生活を組み立てるのがいいと思います。認知症や骨折による寝たきりの場合など、体は元気なのでまだまだ長生きすることができますから。

一方で、介護が必要になった時期は、残される側が後悔しないように心の準備をして、一緒にどう過ごすかを考えるいいタイミングだといつもお話しします。直接世話をすることだけが介護ではなくて、その方に合ったセッティングをすることが大切。介護される方の希望も尊重し、うまく伝えることのできない認知症の方の場合も、今までの人生からどうしたいかを考えてくみ取る。さらに介護をする自分の人生も大事にして、一緒に過ごす日々がお互いにとって「いい時間」となる方法を考えてみましょう。

日本では最期まで自宅で過ごせるほうがいいという風潮があって、施設に入れることを後ろめたく感じる人もまだ多いようです。でも、私はどこで過ごしたにせよ、最後に「よかったね」と言えればいいと思っています。施設に入った場合でも、空いている時間にゆっくりと会いに行き、そこで一緒に過ごすほうがうまくいく場合もあると思います。

私は母を施設で看取りました。親はもちろん大切ですし親にとってよい方法を考えた上で、残される自分が後悔しないように、最終的には自分のためにも何をしたらいいかを考えて決断しました。今、振り返ってもそれでよかったと思っています。

中村明澄先生

どういう介護をしたいか、決めるのは自分たち

いずれは介護をする立場になるという方も含め、皆さんが、もっと前向きに「こういう介護をしたい」と考えられるようになるといいのではないでしょうか。確かに介護の現実は大変なことが多いけれど、「大変」だと思えば、なおさら大変に感じてしまいます。子育てだって大変ですが、それでもどういう育児をしようかと前向きに考えますよね。それと同じ。どんなふうに介護に関わっていくかを、自分で選べばいいのです。自分を犠牲にした介護は、仕方なくやらされているという感じが相手にも伝わりますから、お互いにとっていいこととは言えません。

介護は本当にケースバイケースで、病状が一緒でもその方の性格やご家族の受け止め方でも違いますし、二つとして同じ選択はありません。介護は「生活」ですし、介護される方も大切な家族の一員。引っ越しなどは家族みんなで情報を集めて選んできたと思いますが、介護だって同じだと思うのです。その方らしい過ごし方をみんなで考えて選択する。ケアマネジャーに相談するにしてもお任せにするのではなく、最後に決めるのは自分たちなんです。自分がどんな介護をしたいか、そこを意識していけば、介護のイメージがもっと明るくなって変わっていくのではないかと期待しています。

Profile

向日葵ホームクリニック院長/在宅医療専門医・家庭医療専門医 中村明澄(なかむらあすみ)先生

在宅医療専門医・家庭医療専門医/向日葵ホームクリニック院長
中村明澄(なかむらあすみ)先生

2001年東京女子医科大学卒業。国立病院機構東京医療センターにて初期研修、同センター総合診療科にて後期研修を行う。筑波大学総合医コースを修了、筑波大学講師を経て、2010年より向日葵ホームクリニックに勤務。2012年8月より現職。ケアマネジャー、介護予防主任運動指導員、健康運動指導士の資格も持つ。

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