 |
 |
グリシドール脂肪酸エステルについて
最近、欧州を中心に、油脂中に含まれるグリシドール脂肪酸エステルの安全性について議論がなされていることを受け、花王においても、2009年6月中旬に分析を行った結果、『エコナ クッキングオイル』に、グリシドール脂肪酸エステルが含まれていることを確認いたしました。このグリシドール脂肪酸エステルは、油脂の製造工程における一般的な脱臭の過程で副生されるもので、精製した一般の食用油にもわずかに含まれていることが報告されています。 現時点でわかっているグリシドール脂肪酸エステルに関する情報を掲載します。 なお、エコナ関連製品、およびその主成分であるジアシルグリセロールの安全性については、意図せず副生したグリシドール脂肪酸エステルを含んだ状態で、これまで世界的に標準とされる試験法で多くの評価を積み重ね、科学的根拠と客観的な評価に基づき、安全性に問題のないことを確認しております。
グリシドール脂肪酸エステルの構造
食用の一般的な油脂はトリアシルグリセロール(TAG)であり、グリセリン分子は3つの結合部位(水酸基)のそれぞれを介して脂肪酸に結合しています。グリセリンとは異なり、グリシドールでは、それらの結合部位の2つが1個の酸素原子によって架橋されており、そのため1つの結合部位のみが遊離のものであり、そこに1個の脂肪酸が結合しています。 (ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)のFAQより引用、一部改変)
グリシドール脂肪酸エステルの生成について
グリシドール脂肪酸エステルは、油脂の風味をよくするために高温で精製する工程があり、そこで生成します。この工程は、例えば植物性原料から飲食に適する食用油を製造するために何十年も前から用いられています。 不快な、あるいは苦味のある臭気物質及び味覚物質を除去する精製プロセス(熱処理、脱臭)の条件下で、油脂中の脂肪分子から水及び脂肪酸残基(上記図中のR、トリアシルグリセロールの場合2個、ジアシルグリセロールの場合1個)が分離して、グリシドール脂肪酸エステルが生成すると考えられていますが、詳細は分かっていません。未精製油脂中には、グリシドール脂肪酸エステルは存在していません。 (ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)のFAQより引用、一部改変)
ジアシルグリセロール油(エコナクッキングオイル)中のグリシドール脂肪酸エステル濃度について
現在のところ、世界的に見てグリシドール脂肪酸エステルを測定する標準的な方法がありません。花王では、グリシドール脂肪酸エステルの量を間接的に測定できるMCPD-FS法(ドイツ公定法:DGF標準法C-III 18(09))を用いて、グリシドール脂肪酸エステルをMCPDという物質に換算して分析しています。その結果、エコナクッキングオイル中に、グリシドール脂肪酸エステルはMCPDという物質に換算して91ppm存在しました。また、市販の一般精製油脂を測定したところ0.5~9.1ppmの範囲で含まれることがわかりました。 (ppmとは100万分の1,1ppm=0.0001%,MCPDとは3-monochloropropane-1,2-diol)
グリシドール脂肪酸エステルのこれまでに報告されている安全性評価について
グリシドール脂肪酸エステルに関する安全性の情報は、世界保健機構(WHO)の機関の一つである国際がん研究機関(IARC)の評価情報と、その根拠となった学術文献を基に確認いたしました。ヒトに対する発がん性は、IARCの評価書では、ヒトにおける発がん性については分類できない(Group3)とされています。
さらにIARC評価の以前、以後に報告されたグリシドール脂肪酸エステルに関する安全性情報を収集したところ9件の文献を確認することができましたが 1-9)、ヒトへの発がん性に関する情報は得られませんでした。
IARC:国際がん研究機関のことで、様々な化学物質、天然成分などのヒトへの発がん性について科学論文などの公表された文献情報を元にして、その確からしさを評価し、以下に示すように、グループ1から4に分類しています。この分類は、「発がん性の強さ」を評価しているのではなく、「発がん性の根拠の強さ」を評価しており、ヒトに対する発ガン性の「ハザード評価」を行っています。これは、リスクの強さを示すものではありません。
| ・グループ1: |
ヒトの発がんデータの因果関係が明白である物資の分類で、「ヒトに対して発がん性がある」と評価されています。(例:ベンゼン、アフラトキシン、太陽光線、コールタール、アスベスト、喫煙、アルコール飲料、カドミウムなど) |
| ・グループ2A: |
ヒトに対する発がん性は限定的ですが、実験動物で発がん性が確認され、「ヒトに対して恐らく発がん性が有る」と評価された分類です。(例:アクリルアミド、アドリアマイシン、紫外線A~C、熱いマテ茶、グリシドールなど) |
| ・グループ2B: |
発がん性が2Aよりさらに弱く、実験動物でも発がん性が限定的な物質で、「ヒトに対して発がん性があるかもしれない」と評価された分類です。(例:アセトアルデヒド、コーヒー、わらび、カーボンブラック、四塩化炭素、鉛、ガソリン、ディーゼル燃料など) |
| ・グループ3: |
ヒトに対する発がん性が証拠として不適格で、実験動物においても発がんの評価不能か、実験動物において発がんの因果関係が確認されてもヒトでの発がんメカニズムが当てはまらない分類で、「ヒトに対する発がん性については分類できない」と評価されています。(例:天然のカラギーナン、カフェイン、コレステロール、メラミン、サッカリン、無水コハク酸、茶、グリシドール脂肪酸エステルなど) |
| ・グループ4: |
ヒトでの発がん性は確認できなかったことから「ヒトに対して恐らく発がん性がない」と評価された分類です。(例:カプロラクタム) |
| 1) |
Hendry JA, Homer RF, Rose FL, Walpole AL, “Cytotoxic agents: II. Bisepoxides and related compounds.”, Br J Pharmacol Chemother, 6, 235-255 (1951) |
| 2) |
Arthur L Walpole, “Carcinogenic action of alkylating agents.”, Annals New York Academy of Sciences, (1958) |
| 3) |
Weil OS, Condra N, Halun C, Striegel JA, “Experimental carcinogenicity and acute toxicity of representative expoxides.”, Am Ind Hyg Assoc J, 24, 305-325 (1963) |
| 4) |
Swern D, Wieder R, McDonough M, Meranze DR, Shimkin MB, “Investigation of fatty acids and derivatives for carcinogenic activity.”, Cancer Res, 30, 1037-1046 (1970) |
| 5) |
Van Duuren BL, Katz C, Shimkin MB, Swern D, Wieder R, “Replication of low-level carcinogenic activity bioassays.”, Cancer Res, 32, 880-881 (1972) |
| 6) |
IARC, “Glycidyl oleate”, IARC Monogr Eval Carcinog Risk Chem Man, 11, 183-186 (1987) |
| 7) |
IARC, “Glycidyl stearate”, IARC Monogr Eval Carcinog Risk Chem Man, 11, 187-190 (1987) |
| 8) |
Canter DA, Zeiger E, Haworth S, Lawlor T, Mortelmans K, Speck W, “Comparative mutagenicity of aliphatic epoxides in Salmonella”, Mutation Res, 172, 105-138 (1986) |
| 9) |
Boogaard PJ, van Elburg PA, de Kloe KP, Watson WP, van Sittert NJ, “Metabolic inactivation of 2-oxiranylmethyl-2-ethyl-2,5-dimethylhexanoate (C10GE) in skin, lung and liver of human, rat and mouse.”, Xenobiotica, 29, 987-1006 (1999) |
食品中におけるグリシドール脂肪酸エステルの存在について
グリシドール脂肪酸エステルは、 2009年3月のドイツの連邦リスク評価研究所(BfR)の見解書によると、精製工程を経た油脂とそれを含有する食品に含まれている可能性があります。海外では乳児用ミルク製品(数ppm、製品によって異なる)にも含まれていると報告されています(ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)のFAQより引用、一部改変)。
食品中のグリシドール脂肪酸エステルの存在については、まずは、正確な分析方法の開発が期待されていましたが、花王は、このたび食用油中のグリシドール脂肪酸エステルを直接分析する方法を新たに開発しました 1)。
| 1) |
Masukawa Y, Shiro H, Nakamura S, Kondo N, Jin N, Suzuki N, Ooi N and Kudo N, “A new analytical method for the quantification of glycidol fatty acid esters in edible oils”, J Oleo Sci, 59, 81-88 (2010) |
グリシドール脂肪酸エステルが、発がん性が知られているグリシドールに変化する可能性について
グリシドール脂肪酸エステルを摂取した場合に、体内でグリシドールが生成するのかについては、現在までのところ明らかとなっていません。
グリシドールの安全性評価について
これまでに、グリシドールの毒性に関する文献は多数報告されており、1990年及び2000年に発行された米国毒性プログラム(NTP)と国際がん研究機関(IARC)の評価書、及びそれ以降に報告された主な毒性情報として11文献を得ました 1-11) 。IARCの評価書では、恐らくヒトに発がん性あり(Group 2A)と評価しています。
| 1) |
IARC, “Glycidol”, IARC Monogr Eval Carcinog Risks Hum, 77, 469-486 (2000) |
| 2) |
NTP, “NTP Toxicology and carcinogenesis studies of glycidol (CAS No.556-52-5) In F344/N Rats and B6C3F1 Mice (Gavage Studies).”, Natl Toxicol Program Tech Rep Ser, 374, 1-229 (1990) |
| 3) |
Nomeir AA, Silveira DM, Ferrala NF, Markham PM, McComish MF, Ghanayem BI, Chadwick M, “Comparative disposition of 2,3-epoxy-1-propanol (glycidol) in rats following oral and intravenous administration.”, J Toxicol Environ Health, 44, 203-217 (1995) |
| 4) |
Irwin RD, Eustis SL, Stefanski S, Haseman JK, “Carcinogenicity of glycidol in F344 rats snd B6C3F1 mice.”, J Applied Toxicol, 16, 201-209 (1996) |
| 5) |
Landin HH, Tareke E, Rydberg P, Olsson U, Tornqvist M, “Heating of food and heamoglobin adducts from carcinogens: possible precursor role of glycidol.” Food Chem Toxicol, 38, 963-969 (2000) |
| 6) |
Chen Y, Megosh LC, Gilmour SK, Sawicki JA, O’Brien TG, “K6/ODC transgenic mice as a sensitive model for carcinogen identification.”, Tox Letters, 116, 27-35 (2000) |
| 7) |
Guo TL, McCay JA, Brown RD, Musgrove DL, Butterworth L, Munson AE, Germolec DR, White KLJ, “Glycidol modulation of the immune responses in female B6C3F1 mice.”, Drug Chem Toxicol, 23, 433-457 (2000) |
| 8) |
日本バイオアッセイセンター, “グリシドールの吸入によるがん原性試験結果の概要”, 日本バイオアッセイセンターホームページ(http://www.jaish.gr.jp/user/anzen/kag/bio/gan/ankgd14.htm) (2004) |
| 9) |
Ramy RE, Ould Elhkim M, Lezmi S, Poul JM, “Evaluation of the genotoxic potential of 3-monochloropropane-1,2-diol (3-MCPD) and its metabolites, glycidol and beta-chlorolactic acid, using the single cell gel/comet assay.”, Food Chem Toxicol, 45, 41-48 (2007) |
| 10) |
Kim JH, Kim KY, Kwon KJ, Go SY, Min KN, Lee WS, Park SN, Sheen YY, “Genetic toxicity test of Glycidol by Ames, Micronucleus, Comet Assays and Microarray Analysis.”, J Applied Pharmacol, 14, 240-245 (2006) |
| 11) |
NTP, “Toxicology and carcinogenesis study of glycidol (CAS No.556-52-5) in genetically modified haploinsufficient p16 (Ink4a)/p19 (Arf) mice (gavage study).”, Natl Toxicol Program Genet Modif model Rep, 2007 Nov(13), 1-81 (2007) |
ジアシルグリセロール油(エコナクッキングオイル)中のグリシドール濃度について
花王でジアシルグリセロール油(エコナクッキングオイル)中のグリシドールを測定したところ、定量下限(0.1ppm)以下でした。なお、市販の一般精製油脂を分析したところ同様に定量下限(0.1ppm)以下でした。
ジアシルグリセロール油(エコナクッキングオイル)の安全性について
これまでにジアシルグリセロール油(エコナクッキングオイル、意図せず副生したグリシドール脂肪酸エステルを含む)については、各種安全性試験を実施しており、世界的に標準とされる発がん試験を含む試験において安全性上の懸念は認められていません。
| 試験 |
目的 |
試験名 |
試験基準 |
ジアシルグリセ ロール油 |
加熱後ジアシルグ リセロール油 |
| 急性毒性 |
多量摂取時の影響 |
ラット単回投与 |
医薬品、OECD 1) |
影響なし |
影響なし |
| 反復毒性 |
長期摂取時の影響 |
ラット亜急性(28日) |
医薬品 |
影響なし |
- |
| ラット亜急性(90日) |
OECD 1) |
- |
影響なし |
| イヌ慢性(1年) |
FDA 2) |
影響なし |
- |
| ラット発がん(一生涯) |
ICH 3) |
影響なし |
- |
| マウス発がん(一生涯) |
ICH 3) |
影響なし |
- |
| 遺伝毒性 |
遺伝子障害性の誘発 |
Ames試験 |
医薬品 |
陰性 |
陰性 |
| 染色体異常試験 |
医薬品 |
陰性 |
陰性 |
| 小核試験 |
台湾 / 医薬品 |
陰性 |
陰性 |
| 生殖毒性 |
奇形誘発 |
催奇形性 |
ICH 3) |
影響なし |
- |
| 生殖機能 |
二世代生殖毒性 |
FDA 2) |
影響なし |
- |
| 発がん修飾 |
発がん促進 |
中期多臓器発がん試験 |
医薬品 |
影響なし |
- |
試験は、すべてGLP(Good Laboratory Practice,医薬品や食品の安全性を評価する検査や試験が正確かつ適切に行われたことを保証するための基準)に適合して実施しました。 表の「加熱後ジアシルグリセロール油」は、スライスポテトを1日8時間、3日間にわたって加熱調理をした加熱後のジアシルグリセロール油を用いました。 なお、各動物試験で投与した量は、体重1kg・1日当たり2.0g~9.8gに相当し、ヒト(体重50kg)への摂取量に換算した場合は1日当たり100g~490gに相当します。
1)OECD: Organization of Economic Co-operation and Development(経済協力開発機構). 2)FDA: FDA(米国連邦食品医薬品局) Redbook Guidelines. 3)ICH: International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use (日米EU医薬品規制調和国際会議).

このページのトップへ
|
 |
 |