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ジアシルグリセロールの研究情報

ジアシルグリセロール(DAG)の安全性

 ジアシルグリセロール(DAG)は植物油・動物油を問わず、ほとんどの食用油に数%存在しており、人類が長年摂取してきた食経験豊富な油脂成分であるといえます。近年、酵素処理法による高純度のDAGの生産が可能となりました。(表-1)
 このように精製されたDAGを主成分とする油は厚生労働省によりその安全性と有効性が審査されて、1998年に特定保健用食品として表示を許可されました。また、最近高純度ジアシルグリセロールは外部研究機関において、安全性に関する研究がいくつか報告されています。以下に、この高純度DAGの安全性に関する報告の概要をまとめました。

表-1
市販されているジアシルグリセロールを主成分とするクッキングオイルの脂肪酸組成・油脂組成・物性

DAGの安全性に関する報告の概要

 DAGの安全性評価試験及び関連試験として、花王および外部専門機関において、急性毒性試験、変異原性試験、反復投与毒性試験、長期栄養試験、発がん性試験、 生殖毒性試験、加熱処理DAGの安全性試験、発がんプロモーション試験、消化器内容物および血清、糞便中の1,2-DAG量の測定、消化管粘膜細胞、及びヒト大腸由来細胞を用いたPKC活性測定が実施され、いずれの試験においても、安全性上問題のないことが確認されています。(表-2)
 また、これまでに実施されたDAGのヒト臨床試験においても、被験者の血液および身体上の検査項目に問題は認められていないことが確認されています。(表-3)

表-2
これまでに実施したジアシルグリセロールの安全性及びその関連試験

※発がんプロモーション作用とは
 がんが発生するためには、まず遺伝子に異常がおき、正常な細胞が突然変異を起こし、がんの元となる細胞ができる段階(発がんイニシエーション)と、こうした細胞の増殖を促進する段階(発がんプロモーション)の二つが関与すると云われています(発がん二段階説)。発がんイニシエーション作用を示すものとしては、放射線、紫外線、カビ毒、たばこに含まれるタールや、焼き魚のコゲなどが知られています。一方、発がんプロモーション作用に関しては、高脂肪食、リノール酸、食塩やアスコルビン酸ナトリウム(ビタミンCのナトリウム塩)などの食品成分にもこうした作用があることが報告されています。


表-3
ヒト摂取試験 論文リスト

●その他文献等の情報

モノアシルグリセロール(MAG)およびDAGは、JECFA34)(The Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives)およびFASEB35)(Federation of American Societies for Experimental Biology)により、実際的な供与量において安全であると結論されています。
米国の食品安全性に関する審査制度で、食品またはその原料を販売する場合には、GRAS(Generally Recognized as Safe:一般に安全と認められる食品)であることが望ましいとされています。DAGは脂質栄養学・毒物学の研究者らによる科学的な評価により安全であることが認められ、FDA(Food and Drug Administration:米国食品医薬品局)により、GRAS(一般に安全と認められる食品)リストに登録されました36,37)


なお、日本・米国以外に、カナダ、EU、ブラジル、オーストラリア、ニュージーランド、台湾に、ジアシルグリセロールのクッキングオイル等への食品使用を申請し、既に各国専門家による安全性と有効性についての審議を経て、認可を得ています。

27名の健康な男性に1日20gのDAGとTAGを摂取させたときの脂溶性ビタミンの血清動態への影響を検討した結果、ビタミンA、E、Dについては摂取した脂質の違いによる変化は認められないことが報告されています21)
ラットにおける化学発がん物質誘導乳腺がんに及ぼす脂質の影響を検討した中で、同じ脂肪酸組成のDAGとTAGとにおいて発がん性に差のないことが報告されています38)
第67回日本癌学会(2008年10月28日~30日)にて遺伝子組み換えラット(Hras128)を用いDAGの経口投与による乳腺の発がんに与える影響に関する研究発表があり、DAG投与群での誘発率がTAG投与群よりも高かったとの報告がありました39)

<参考>
DAGに関して世界標準である2年間の発がん性試験で乳腺への発がん性は認められておりません6,7)

遺伝子組換えラット及び野生型ラットに対して二段階発がん試験を行い、雌の遺伝子組換えラット及び野生型ラットでは、有意差は見られませんでした。雄の遺伝子組換えラットにおいても食道、胃および乳腺など、舌以外の臓器に対しては、4NQOと4NQO+"DAG"併用群において、がん発生率に有意差はありませんでした。雄の舌において、傾向解析によって扁平上皮がんのプロモーション作用が示唆されましたが、個体数を増やし、高用量、長期間の試験が必要であると報告されています40)。舌については、論文として報告されています41)
野生型ラットに二段階発がん試験を行い、舌に対して発がんプロモーション作用は認められなかったことが報告されています42)

引用文献

1) Kasamatsu, T., et al., Food and Chemical Toxicology, 43, 253-260 (2005)
2) Chengelis, C.P., et al., Food and Chemical Toxicology, 44, 81-97 (2006)
3) Morita, O., et al., Food and Chemical Toxicology, 46, 2510-2516 (2008)
4) Morita, O., et al., Food and Chemical Toxicology, 46, 3059-3068 (2008)
5) Soni M.G., Kimura H, and Burdock G.A., Food Chem. Toxicol., 39, 317-329 (2001)
6) Chengelis, C. P., et al., Food and Chemical Toxicology, 44, 98-121 (2006)
7) Chengelis, C. P., et al., Food and Chemical Toxicology, 44, 122-137 (2006)
8) Morita, O., et al., Food and Chemical Toxicology, 46, 2748-2757 (2008)
9) Ichihara, T., et al., Food and Chemical Toxicology, 46, 157-167 (2008)
10) Osaki, N., et al., Lipids, 40(3), 281-286 (2005)
11) Meguro, S., et al., Food and Chemical Toxicology, 45, 1165-1172 (2007)
12) 渡邊浩幸ら, 日本油化学会誌, 46(3), 309-314 (1997)
13) Taguchi H. et al., J. Am. Coll. Nutr., 19(6), 789-796 (2000)
14) Tada N. et al., Clin. Chim. Acta, 311(2), 109-117 (2001)
15) Kamphuis M. et al., Am. J. Clin. Nutr., 77, 1133-1139 (2003)
16) Takase H. et al., Atherosclerosis, 180, 197-204 (2005)
17) Saito S. et al., Nutrition, 22, 30-35 (2006)
18) Tomonobu K. et al., Nutrition, 22, 128-135 (2006)
19) Tada N. et al., Clin. Chim. Acta, 353, 87-94 (2005)
20) Yamamoto K. et al., Metabolism, 54(1), 67-71 (2005)
21)Watanabe H. et al., Ann. Nutr. Metab., 45(6), 259-264 (2001)
22)Yasunaga K. et al., Food Chem. Toxicol., 42(9), 1419-1429 (2004)
23)Nagao T. et al., J. Nutr., 130(4), 792-797 (2000)
24)武井章ら, 健康・栄養食品研究, 4(3), 89-101 (2001)
25)Maki K.C. et al., Am. J. Clin. Nutr., 76(6), 1230-1236 (2002)
26)桂木能久ら, 健康医学, 14(3), 258-262 (1999)
27)大月和宣ら, 健康医学, 19(1), 29-32 (2004)
28)Matsuyama K. et al., J. Pediatr. Endocrinol. Metab., 19, 795-804 (2006)
29)Yanagisawa Y. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 302(4), 743-750 (2003)
30)Yamamoto K. et al., J. Nutr., 131(12), 3204-3207 (2001)
31)Yamamoto K. et al., Nutrition, 22, 23-29 (2006)
32)Yamamoto K. et al., Diabetes Care, 29(2), 417-419 (2006)
33)Teramoto T. et al., Clin. Nutr., 23, 1122-1125 (2004)
34)JECFA : Toxicological Evaluation of Some Food Additives Including Anticaking Agents, Antimicrobials, Antioxidants, Emulsifiers and Thickening Agents. 17th JECFA Session, 24 June-24 July, 1973, Geneva FAO Nutrition Meetings Report Series, No. 53A. WHO Technical Report Series, No. 539. WHO Food additives Series). No. 5, pp. 238-263 (1974)
35)FASEB (Federation of American Societies for Experimental Biology) : Evaluation of the Health Aspect of Glycerin and Glycerides as Food Ingredients. FASEB, US Department of Commerce, National Technical Information Service, PB-254536 (1975)
36)http://www.cfsan.fda.gov/~rdb/opa-g056.html
37)http://www.cfsan.fda.gov/~rdb/opa-g115.html
38)Sugano M., Akahoshi, A., Nishida E. et al., J. Oleo Sci., 51, 583-588, 2002
39)直井国子 他,第67回日本癌学会要旨集 p90
40)飯郷正明 厚生労働科学特別研究事業 平成15年度総括研究報告書
41)Tsuda H. et al., Food and Chemical Toxicology, 45, 1013-1019 (2007)
42)Umemura T. et al., Food and Chemical Toxicology, 46, 3206-3212 (2008)


◆この内容の一部については、以下の総説でも紹介されています。

板倉 弘重,栄養―評価と治療―19, 504-511 (2002)


◆DAGに関する動物およびヒト安全性試験をまとめた総説

Morita, O., et al., Food and Chemical Toxicology, 47(1), 9-21(2009)

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