達人コラム

庭のホテル 東京 総支配人 木下彩さん
おもてなしをすることで感動をいただく

2017.09.05 | グローカル

【達人コラム】庭のホテル 東京 総支配人 木下彩さん

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを3年後に控え、日本を訪れる外国人旅行者はますます増えることが予想されます。ミシュランガイドのホテル部門で2009年の開業以来8年連続で二つ星を獲得し、世界が認めたホスピタリティを提供する「庭のホテル 東京」総支配人の木下彩さんに、おもてなしの極意についてうかがいました。

居心地のよい「上質な日常」を提供する

「庭のホテル 東京」は宿泊客の5〜6割が海外からで、アメリカを筆頭に、中国、オーストラリア、イギリス、フランス、台湾など50か国以上の国々からお客様がいらっしゃいます。最近では、外国人旅行者の目的は “モノ“から“コト”へという動きもあり、「ミシュラン星付きの和食のお店に行きたい」「銭湯に行ってみたい」など、「体験」を楽しみにされている方が多くいらっしゃいます。

当ホテルでは「上質な日常」の提供をコンセプトにしています。「和」のテイストを基調にし、目が覚めたときに障子が見えるようにして、日本の日常を体験しているような居心地の良さを感じていただき、日本の方にも海外からのお客様にもくつろいでいただける「第2の我が家」になれればと、2009年に新規オープンしました。

ホスピタリティの形は100人いたら100通り

おかげさまで、海外からもたくさんのお客様に来ていただけるようになりました。何か特別なことをしているわけではなく、個々のお客様に喜んでいただくことを大切にし、笑顔でお一人おひとりと向き合い、その方が必要としていることを察して提供しています。

「おもてなし」というフレーズが注目されてから、「サービス」と「ホスピタリティ」の違いがよく取り上げられるようになりました。「サービス」はお客様への奉仕であり、主従関係が存在します。お金をいただき対価として提供するもので、その内容はどのお客様に対しても均一にしなければなりません。一方、「ホスピタリティ」では、お客様との関係は対等です。相手が何を求めているのか、どうすれば喜び、ご満足いただけるかを考えて実行することであり、100人のお客様には100通りのホスピタリティの表し方があります。

ちょっとした私たちの心づかいで喜んでいただけると、こちらも嬉しくなり感動するもので、おもてなしをしながら、結果的に私たちもお客様からのホスピタリティをいただいていることに気付きます。ホスピタリティはサービスのようにマニュアル化できないものですが、日本人の特性として、ごく自然にやってきていたというところはあるのかもしれません。

木下彩さん

自分が笑顔でいることで周りも笑顔にできる

私のモットーは「いつも機嫌の良い人でいること」。不機嫌や無愛想にしていたら、相手も笑顔になれませんから、自分が常に笑顔でいることを心がけています。それはお客様だけでなく、スタッフや家族に対しても同じです。まずは家族や友達、スタッフへのホスピタリティで、みんなが笑顔になれるよう心がけています。そして、自分で自分を幸せにしたいといつも思っています。

昭和10年に祖父がこの土地で旅館を開業し、その後、高度成長期に全国に先駆けてビジネスホテルを展開した父と母を相次いで亡くしました。そのため、私が家業を継がざるを得ない状況となり、34歳で社長になりました。小さかった二人の子どもを預けて働いていた時に、「まだ小さいのにかわいそう」と言われたことがありました。でも、仕事をしている私自身が幸せだったから、子どもにも優しくできたし、愛おしさをより一層実感できました。
他の人の幸せのお手伝いをしたり、喜んでいただくためには、自分が幸せでいることも大事なのではないでしょうか。

木下彩さん

コミュニケーションをとろうという気持ちが大切に

先日、『おもてなし親善大使』という中高生ボランティアの養成講座で話をする機会があり、ある女子高校生から質問を受けました。電車の中で困っていた外国人を見かけたので声をかけたら、英語が通じず何の解決にもならなかったので、声をかけなければ良かったかなと思ってしまったというのです。私は、困りごとは解決しなかったかもしれないけれど、一生懸命協力しようとしたことで、気持ちは十分伝わったのではないかとお話ししました。言葉は通じなくても身振り手振りでもいいから相手とコミュニケーションをとろうとすることは、端から「自分には無理」と通り過ぎるよりは何倍もいいと思います。

海外のお客様に「日本はいい国だったな」という印象を持っていただくために、皆さんにもできることはあります。恥ずかしがったり恐れたりせずに、何かしてあげられることはないかと考え、相手に向き合うことが大切だと思います。

Profile

「庭のホテル 東京」総支配人/株式会社UHM代表取締役 木下彩(きのしたあや)さん

庭のホテル 東京 総支配人/株式会社UHM代表取締役
木下彩(きのしたあや)さん

1960年東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業後、ホテルニューオータニに就職、退職後に結婚。東京グリーンホテルグループの静岡グランドホテル中島屋勤務などを経て、1994年に株式会社東京グリーンホテル(現・株式会社UHM)に取締役として入社、翌年には代表取締役に就任。2009年に「庭のホテル 東京」をオープン、2011年より総支配人兼務。著書に『「庭のホテル 東京」の奇跡』(日経BP社)がある。

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